Vol.904 18年4月14日 週刊あんばい一本勝負 No.896


春の夕暮れに思うこと

4月7日 読みたい本の傾向が微妙に変化している。新刊一辺倒だったが、最近は過去の読み逃した本を探して読む傾向が顕著になっている。『ハチはなぜ大量死したのか』とか『ヒルズ黙示録』『透明人間の告白』といったものだ。『ヒルズ黙示録』に至ってはあのホリエモンのライブドア事件のドキュメントだ。何をいまさらという感じだが、これが今読むと実に面白い。事件の導火線になったのは村上ファンドであり、ライブドアをけん引したエンジンはナンバー2の宮内だった、なんて当時は知らなかったから、新鮮だ。ホリエモンがフジテレビを乗っ取ろうとしたアイデア自体が村上氏のアイデアで、堀江本人は宇宙開発と芸能界に興味が集中し、タレントの吉川ひなのに夢中だった様子も克明に描かれている。書いたのは朝日新聞記者で当時は「アエラ」に所属していた人で筆力がハンパない。

4月8日 町内会の総会。一年が経つのは本当に早い。これで「みよしの町内会」副会長兼5班班長のお役目はごめん。普段は話すこともない近所の元高校教師や現役サラリーマン、看護師や主婦、職人さんらとちょっとだけだがお付き合いできた。出版で知り合う著者というのは、普通の人では無理な「考え」や「アイデア」や「論考」を持った特殊と言えば特殊な人たち。そうした人たちを基準に物事を考えるのがいかに危険かを、町内会の人たちは教えてくれた。

4月9日 首のあたりがかゆい。忙しさが続いたり、落ち込みがひどいとき、よく首回りがかゆくなる。この3週間以上、ほとんど休みなしで原稿を書いている。この忙しさが終われば、すぐにまた別の忙しさを求めて走り出すのは目に見えている。こうなると忙しさやストレスを自ら求めて「しょうがなく生きている」状態といっていい。

4月10日 今日も雨。肌寒い。根詰め仕事の時は晴天でないほうが集中できていい。仕事の合間に「はまらない程度」の本を気分転換に読む。『古本屋台』(集英社)はあの久住兄弟の漫画。まったく事件は起きない。でも実に味があって面白い。巻末に付録のようについている「アネコダ」という短編マンガもなかなかだ。「あ、猫だ」といって会話が中断される夫婦の物語で、現実そのままをお化粧せずにトレースしている。久住兄弟恐るべし。

4月11日 よく行く居酒屋(みなみ)のそばにあるコンビニの雑誌売り場をのぞいたら、何とすべての雑誌に封がしてあった。立ち読み対策だろうか。先日のぞいてみると封はなくなって元に戻っていた。客足が遠のいたのだろう。都内のセブンイレブンでは雑誌販売をやめるところも増えているのだそうだ。小生、まったく雑誌を買わない。雑誌を読む習慣がない。週刊誌も月刊誌もまったく買わないのだから、どうでもいいのだが、雑誌が死ぬとライターも死ぬ。

4月12日 大リーガーの大谷の記者会見用インタビューボードの広告名は「FUNAI」。大谷をマネージメントしているのは、あの有名なコンサルタント会社・船井総研だったのか。でもフナイにはもう一つ大阪の電機メーカーが同名で存在する。家電製品を作っているところだが、まさかここが大谷のスポンサーということはないよなあ。大手コンサルの船井総研が大谷のすべて(生活から仕事のまるごと)を仕切っていると考えるのが自然だ。コンサルという存在自体うさん臭い。それはともかく野球選手のマネージメントまでやるというのは、すごい。マネージメントの電通みたい存在を目指しているのだろうか。

4月13日 仕事場の全面禁煙や週末連休など、秋田県ではかなり早い時期に小社はそれらを実施した。これが世界の大きな流れだろうと実感できたからだ。その流れから行くと、ちょっと失敗だったのかなあと懐疑的になっているのは本の送料無料化だ。これは20年前から実践していて今に至るのだが、物流がこれほど盛んになるとは想像していなかった。物はネットで注文するライフスタイルが定着した。こうなると物流業者の占めるウエイトが大きくなり、人手不足や賃金アップが当然問題になる。1500円の本を送るのに5分の一以上が物流コスト。このまま上がる一方なので「送料無料」は難しくなるのではないか。

4月14日 野添憲治さんが亡くなられて、5社ほどの新聞社からコメントを求められた。私などより適任者がいると思うのだが、まあ、それはしょうがない。先日の魁紙の「北斗星」の追悼コラムはなかなかいい記事だった。悲しいニュースこそ華やかで少し笑える種を仕込む、その典型の見事なもので「これはAさんが書いた記事だな」と直感。この前日に大きな囲みの追悼記事もAさんが書いていた。でも実はAさんは去年、定年退職している。しかし、これだけのものを書ける記者は限られる。Aさんに直接訊くと、自分ではない、という。そうか、こちらの早とちりだった。またAさんの「北斗星」が読みたい、と思う春の夕暮れ。
(あ)

No.896

思えば、孤独は美しい。
(ほぼ日)
糸井重里

 毎年、「ほぼ日新聞」に書いた原稿からセレクトした糸井重里の文章が1冊の本になる。本書で10冊目だ。最初の1冊からすべて持っているし、読んでいる。同時代の生んだ尊敬すべき詩人であり、その生き方に大きな影響を受けた人物でもある。糸井の言葉には時代があり、力があり、ベクトルが流れている。複雑な時代を射抜くしたたかな視線がある。秋田市のど真ん中を流れる旭川の横、アパホテルの真向かいに「北斗製氷」という会社がある。氷を作る会社が今も存続していることにいつも不思議な印象を持っていたが、糸井に言わせると、「氷」の世界はそんな甘いものではない、という。固くて冷たくて透明で溶けにくい氷は、家庭では絶対に無理なプロの「作品」だという。コンビニで「ロックアイス」が有料で売られているのはその証拠だ。ウイスキーのロックはプロの氷でないおいしくない。プロとアマの差がもっとも歴然としているのが「氷の世界」なのだ。「人の喜ぶことをやれば、会社は長続きする」という信念は、自分の座右の銘としても心に刻んでいる。このシリーズは続く限り買い続けるような気がする。

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