Vol.923 18年8月25日 週刊あんばい一本勝負 No.915


お祭り・山小屋・高校野球

8月18日 物語に出てくる海賊の船長はなぜ片目に眼帯をしているのか。海賊は片目が悪いのだろうか、と子供心にも不思議だった。その積年の疑問が解消された。ある生物観察のエッセイで「あれは片目を常に暗順応させて暗視視力を保持するため」だそうだ。海賊にとって夜間の闇に眼を慣らしておくのは基本中の基本。目にちょっとした光を与えると暗視能力はすぐに落ちてしまう。だから暗視視力を妨げないように眼帯しているというのだ。出典はカラス研究家・松原始著『カラス屋、カラスを食べる』(幻冬舎新書)だ。この著者はどこまで現実で、どこから与太話かわからないような面白エッセイを書く人。そこが人気の源でもあるのだが、本当ならすごい話だよなあ。

8月19日 お祭りに興味がない。面倒くさがりの出不精なので、熱心に誘ってもらえば好奇心は人一倍ある。Sシェフ夫婦に誘われて、昨夜は西馬音内盆踊りへ。へぇ〜こんな感じなんだ、というごく平凡な印象のみ。その感想を家で正直にかみさんに言うと「あなたは情緒というものがない」と怒られた。甲子園では金足農高が勝ち進んでいて秋田中がその話題で持ちきり。これで農業が見直されるなら少しはうれしいが、非科学的な猛練習や過激な精神論がもてはやされるようになるのが怖い。昨日読んだ本で、甲子園球場が広いのは、もともとラクビーもできるように設計したからで、ヘルメットに耳当てが付くようになったのは田淵幸一が鼓膜破裂をする死球事故があってからだそうだ。雑学だけがボンクラ頭にたまっていく残暑です。

8月20日 夕方に秋田駒ケ岳8合目の山小屋に車で到着。2階に寝床を確保し、1階で夕食の準備。京都の友人から頂いた国産巨大マツタケが今日のメインデッシュ。酒もつまみもおいしく、Sシェフと他の登山客も巻き込んで大宴会。駒ケ岳の星空を見るのが目的の山行なのだが、気分よく飲みすぎてへべレケ。夜はよく眠れず、けっきょくは朝の登山は断念。朝6時からやっているという西木温泉クリオンの温泉につかって帰ってきたが、寝不足のせいか仕事にならず。自宅に帰って爆睡。

8月21日 出舎は8時半から9時の間で特別決まりはない。起きて出舎する前30分ほどFMラジオを聴きながらぼんやりする。この「ぼんやり」が大切な時間。今日のスケジュールを反芻し、昨日の行動を反省し、今後の生き方にまで思いめぐらせることもある。遠い過去の世界に潜り込んで抜け出られなくなることもある。仕事場で「自己を見つめる」ことはあり得ない。現実がいたるところで牙をむいているからだ。

8月22日 甲子園の熱狂が終わった。正直少しホッとしている。前日、ある大手新聞社文化部から「負けても勝っても原稿を書いてほしい」と連絡。戊辰戦争と東北の立場、それと金足農高の決勝進出を絡めて書いてほしいというニュアンスだった。適任ではない、と丁寧にお断りしたが、県内テレビ局からも電話をいただいた。これは小生が第1回大会準優勝の秋田中学・キャップテン渡部さんの生前インタビューテープを所持しているためだ。そのテープの声を今回の金足農高の歓喜の声と合わせて流したいということのようだ。もちろんこれも丁寧にお断りした。断片だけ都合よくつかわれるのは本意ではない。周辺の雑音が大きくなり穏やかな日々がかき乱されてしまったが、今日からは静かに仕事に専念できそうだ。

8月23日 コーヒーや水、鉛筆やノリなどの小物文具までネットで買うようになってしまった。下着や日常品を通販に頼ることに罪悪感があるのは、近い将来、この宅配を担っている人材の不足が大問題になるのが必定だからだ。ネットで買えば買うほど宅配業者の人手不足は深刻になり、流通経費は高くなる。便利で快適なものは、実は人間をフル動員して、限界まで酷使して、ようやく成り立っている。それがネット通販の現実だ。自分にとってはなにがベターなのだろうか。悩ましい。

8月24日 今日の朝日新聞県版に「週刊秋田社が破産」のベタ記事。「週刊アキタ」の名前は知っていたが、読んだことはほとんどない。失礼ながらブラックならぬ「グレー」ミニコミの類という印象しか持っていなかった。今年4月に廃刊になり廃刊の理由は明瞭なものではなかった。地裁から破産開始決定が発表されたのは今月半ば。負債総額は5300万円。創刊したのは1979年だから当時は活字であれば何でも売れた時代だ。今ちょうど塩田武士の新刊『歪んだ波紋』(講談社)という地方メディアの「誤報」にまつわる短編連作集を読んでいる。これが実に面白い。他人事とは思えない記述がいたるところにちりばめられている。メディアは崖っぷちにいるのは間違いない。
(あ)

No.915

武器よさらば
(新潮文庫)
ヘミングウェイ・高見浩訳

 突然、本書を読んでいないことに気づき読み始めた。のはいいのだが舞台の背景である国際情勢がまるっきしわからない。そこで第一次世界大戦の基礎的なおさらいをしてから本を読み始めるという仕儀にあいなった。これも未知の本を読む楽しみの一つだから、まいいか。著者は三国同盟のイタリア軍に参戦したアメリカ人という設定だ。戦火が激しくなり戦場から逃亡、その罪に問われスイスに逃れるのだが、その間、イギリス人看護師との恋と出産が重なる。アメリカ軍が参戦するのは三国協商(イギリスやフランス)側だったはずだが、イタリア軍とは面妖な。ここでまた読書を中断し調べてみると、戦争途中からイギリスの「甘言」でイタリアは連合軍側に寝返っていた。よく考えると第一次世界大戦のことに関してはまったくの無知だ。この戦争によってパレスチナ問題が今に長引き、ソ連には革命がおき、日本は関係ないといいながら日英同盟の縁で中国に侵攻、中国のドイツ軍基地を攻撃して戦勝国になり、以後、中国侵略の泥沼にはまり込むきっかけになっている。教養のない人間が古典を読むのは大変だ。

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