Vol.940 18年12月22日 週刊あんばい一本勝負 No.932


海を見に行く

12月15日 ネックウォーマーをして布団に入るようになった。就眠前に本を読むので肩が冷える。あんがい違和感なく熟睡できている。これが恒常化するのが怖いが、最近では夏でも「ハラマキ」をする若い人が増えているとも聞く。健康上の理由だけでなく、おしゃれなハラマキが売れているのだそうだ。夏のネックウォーマーというのは、ちょっとぞっとしない。でももう何でもありの年齢だ。人目や見栄で意地を張ってもしょうがない。素直に身体の言い分を聞くことにしよう。

12月16日 先週中止になった「靴納め」の代替で岩谷山登山。リーダーは急きょ用事が出来て不在だったが、総勢6名、長老A氏の指導の下、無事、靴納めの儀を終了。なかには1年間の登山靴の汚れを雪で落とす「靴そそぎ」と勘違いしている人もいた。今年は25回山に登った計算だ。2時間ちょっとの縦走コースで下山地点が温泉「ユフォーレ」。ひとっぷろ浴び食堂でランチ。張り込んでかつ丼900円を注文。昼にリンゴとカンテンのみのランチにしてからはB級グルメとはとんと縁がなくなってしまった。

12月17日 いよいよ師走へと突入。気分が「せかされ」、世間の浮ついた空気感に心が「乱される」時期だ。年を取ると「浮つかない」修練も身につくはずだが、一向にそうした気運は見えず、毎日イライラばかりしている師走だ。読書はもっぱらキリシタン関係の本を読んでいる。16世紀のキリシタン来日で一挙に日本史に世界史が入ってきたわけだが、その時代が無類に面白い。フィリピンという国名はスペイン皇太子の名前だったなんて、この年になるまで知らなかった。ザビエルの来日から江戸の鎖国までは「キリシタンの世紀」と呼ばれている。この時代のことを知るのが目下の最大の楽しみ。

12月18日 徒歩で駅前まで出て駅ナカの喫茶店(パン屋)で原稿を読むのが日課。時間は1時間半ほど。40年前、はじめてブラジル・アマゾンを訪れ、密林の中に暮らす日本人移民たちをインタビューした。その時のテープを活字に起こしたものを、何十年ぶりかに読み返しているのだ。もう10回近く訪伯しているにもかかわらず、まとまった形(本)にできずにいる。自分に力がないのが形にならない一番の理由だが、力がなくても記録に残すことはできるはず。そう信じて今日も40年前の取材記録に目を通している。

12月19日 普段、雑誌を読むことはほとんどない。雑誌は保存できない食料品のイメージがある。師走になると豪華な附録が付く雑誌が多いから昨日はコンビニで「サライ」と「ブルータス」を衝動的に買ってみた。サライの付録はブランケット(毛布)。ブルータスは「危険な読書」という本特集。でも内容がとんがっていて、ほとんど理解できない。こんな雑誌、買わなければよかった。

12月20日 火曜日にBS11で放映されている森繁の「駅前シリーズ」はそのほとんどがDVD化されていない。同じ森繁の「社長シリーズ」はほぼすべてDVD化されている。この差はどこにあるのだろうか。たぶん「社長」のほうが「駅前」よりも色濃く1960年代の時代性を反映し、高度成長という明るい未来を描いているからだろう。「駅前」は近代の暗い日本の影をかなり残している。自分がまだ10代だったころの「60年代」の映画を今見るのが大好きだ。それが昂じて源氏鶏太や獅子文六といった当時の人気作家の小説にも手を出し始めている。昨日は獅子文六『七時間半』(ちくま文庫)。東京大阪間が特急で七時間半かかったころの列車内ドタバタ小説だ。これは川島雄三監督が「特急にっぽん」という団令子主演の映画を撮っていた。でもDVD化されていないようだ。残念だなあ。

12月21日 雑誌にはとんと縁がないのだが、月刊「SWITCH」は別だ。今月は「今ぞ、梅佳代」という特集だ。この雑誌だけはまだちょっとどこかに昭和の影を残しているのが好きなのだろう。雑誌には賞味期限がある。

12月22日 Sシェフから誘われて男鹿の門前港から烏帽子岩、舞台島まで海岸線を歩いてきた。いつも山ばっかしなので、海も見てみたい。海岸ルートは岩場だらけで歩きにくいうえに、急峻な下りをロープで下りなければならず、けっこうハードな冒険コース。その懐深く入り込んでみるとアウトドアスポットとしての可能性も十分に広がっていた。問題は夥しいペットボトル、浮き、サンダルといった漂流ごみがすさまじいこと。何とかならないものだろうか。
(あ)

No.932

銀河を渡る
(新潮社)
沢木耕太郎

 本書は沢木耕太郎の最新作ではない。いや刊行としては最新作だが中身はこの25年間のエッセイからセレクトした随想集である。著者の創作の舞台裏が赤裸々に描かれているので、愛読者にとってはたまらない本になっている。相変わらず登場する知人、有名人たちの豪華さには目を見張るが、それが嫌味にならないのがこの著者の持ち味といっていいのかもしれない。その一方で、東京オリンピック招致を決めた元女性アナウンサーの「おもてなし」という言辞に首を傾げ、美空ひばりへの批判的視点も正直に綴られている。圧巻は最後章の「深い海の底に」だ。「別れる」という副題のとおり、友人知人たちの弔辞が集められている。そのなかには、うちの著者である故・太田欣三さん(筆名 織田久)への長いオマージュもあった。高倉健と同じ分量を費やすほど力の入ったエッセイだ。太田さんは元「調査情報」編集長、いわば若き沢木耕太郎を見出した人だ。生前の太田さんに誘われて、私自身も沢木さんとお酒を飲んだこともあった。うちで出した太田さんの2冊の本(『江戸の極楽とんぼ』『嘉永5年東北』)へも言及しているのだが、こういうのは緊張するなあ。

このページの初めに戻る↑


backnumber
●vol.936 11月24日号  ●vol.937 12月1日号  ●vol.938 12月8日号  ●vol.939 12月15日号 
上記以前の号はアドレス欄のURLの数字部分を直接ご変更下さい。

Topへ