Vol.942 19年1月5日 週刊あんばい一本勝負 No.934


明けましておめでとうございます

12月29日 新聞の死亡欄にほとんど関心はなかった。最近は全国紙より地元紙の死亡欄が気になるようになった。今日の死亡欄には2名の県北部の郷土史家の死亡記事。どちらも仕事でお会いしたことのある人だ。過去にお会いしたことのある人の死亡記事というのは、なにかしら心の中に微妙な影を落とす。そして自分の年齢をその方の享年から引き「もう15年ある……」と力なくつぶやいたりする。

12月30日 お正月の楽しみはNHKEテレで放映される「移住50年目の乗船名簿」。第1回目はこの29日に放映され、2回目は新年5日にオンエアーだ。1968年(昭和43)、横浜港からブラジルに移住するあるぜんちな丸の136人の日本人たちを取材した番組である。ディレクターは相田洋さん。移住の日から10年目、20年目、そして31年目と番組はつくられ、今回がたぶん最後の放映になるだろう(相田さんはすでにNHKを定年退職している)。テレビ史上、一人の同じディレクターの撮った「最も長期のドキュメンタリー」なのだ。。

12月31日 川反にある古書店へ。恒例の年末「自舎本買い」である。自分のところにもない自舎本を探してくるのだが昨日は収穫ゼロ。久しぶりに行った川反はいたるところにコイン・パーキングができていた。1時間で300〜500円ぐらいか。ちょっとしか隙間もお金に変えなければ成り立たない繁華街に川反もなってしまった。

1月1日 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。大晦日はDVDで伊丹十三監督『大病人』を観て、この日のためにとっておいた津野海太郎『最後の読書』(新潮社)を読んで新しい年を迎えました。今年は忙しい年になりそうな予感がします。老体にムチ打って前に進みたいと思っています。

1月2日 お正月も普段と変わらない生活だ。いつも通りの時間に起き、朝ごはんを食べ、事務所に出舎して、コーヒーを飲んで、こまごまとした雑用をこなす。TVで箱根駅伝を観て、散歩に出る。夕飯まではHP用の原稿を書き、夜はDVDで映画鑑賞、その後は寝るまで本を読む。もう何十年もこんなお正月を過ごしている。ここ数年、お正月に関西の友人たちと台湾や香港旅行に行くことが多かった。そのため箱根駅伝はいつも羽田に行く途中でリアルタイムに目撃していた。でもやっぱり箱根はテレビで観ながらコーフンするほうが数倍楽しい。

1月3日 お正月も3日目となればやることはなくなる。本を読むかDVDで映画を観るしかない。その映画と本がうまく当たった。映画は『彼女がその名を知らぬ鳥たち』。蒼井憂と阿部サダオ主演の邦画で面白かった。本は阿部牧郎『誘惑地帯』(講談社文庫)でサブタイトルに「小説秋田音頭」とある。阿部は男女の機微を描く官能的な小説を書かせたら当代指折りの名手だ。その阿部が生まれ故郷の秋田音頭をモチーフにオムニバス形式の短編小説にしたのが本書。官能小説とはいえ阿部の手になると物語に風格と品がある。

1月4日 今日は初詣登山。太平山リゾート公園内にある妙見山(258m)。30分もあれば登れる山だ。山頂の神社では今年もケガなく登れるようにお願いをいた。汗をかくのってやっぱり気持ちがいい。昨日からちょっと身体が怠く重かったのが、ひと汗かくと身体から毒素が抜けたようで、心身ともシャッキとした。
(あ)

No.934

春秋山伏記
(新潮文庫)
藤沢周平

 著者の故郷である庄内地方は、言うまでもなく山伏のメッカだ。山伏は神社の別当として荘園などの寄進を受け、幕府からも手厚く保護されていた。山伏たちが行う修験道とは、日本古来の山岳信仰と道教、仏教などが結びついて形成された思想だ。ほら貝を吹き、独特の山伏装束をつけ、金剛杖をつき、高下駄を履いて嶮しい山を駆け抜ける、というのが山伏のイメージだ。
 本書の主人公も白装束に高下駄、ひげ面で好色そうな顔をした大男だ。この山伏が村に下りてきて別当をしながら、子供の命を救ったり、娘の病気を治すうち、しだいに村人たちの畏怖と尊敬を勝ち得ていく物語だ。読み始めのころは庄内弁の会話のリズムをつかむのが大変だった。お隣の秋田の人間である私にすら難解なのだから、一般読者たちはまずこの会話のリズムに乗るのが先決だ。著者はあえて難解な方言にも注釈や解説をつけない。物語の雰囲気や世界観を壊したくないためなのだろう。いや逆にこの山伏が物語の中で「標準語」をしゃべったとしたら物語のリアリティは随分損なわれるのは間違いない。

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