Vol.960 19年5月11日 週刊あんばい一本勝負 No.952


田植えが遅くなっている理由

5月4日 映画『アリスのままで』。50歳のコロンビア大学で教鞭をとる女性言語学者が若年性アルツハイマーになる物語だ。主演のジュリアン・ムーアはこの作品でアカデミー主演女優賞を得ている。知識人にとって生涯をかけて蓄え獲得した知識や知見が失われていくことは、死に値する「拷問」だ。アリスはパソコンに記憶を失った際にとるべき自分の処方(自殺の方法ですね)をメモする……ラストシーンはやっぱりちょっと泣けて、しばらく考え込んでしまった。誰にでも明日にも訪れるかもしれない「危機」だ。50歳という年齢がリアリティで、実に切ない。

5月5日 GW前半は来月当たり本にする予定の「秋田学入門」の原稿手入れ。後半は、ブラジル移民(アマゾン)の史料を分類整理し目録作り。ブラジルに通いはじめて40年余。折々に書いた原稿は400字詰め原稿用紙にしてゆうに1000枚は越える。完成度が低くて売り物にならない原稿だ。でももうこの問題にも終止符を打たなければならない年齢になった。

5月6日 GW最終日。三連休でもうんざりするのによく10連休に耐えられた、と自分自身をほめてやりたい。これはひとえに連休しょっぱなに鳥海山に登れたことがアドヴァンテージになっている。登山の雪焼けのおかげで、とても外に出られるご面相でなかったことが幸いした。

5月7日 GWは終わったが、わが出版業界はそれほど忙しいわけではない。とにかく本は売れない。ここ最近、この下降線がぐぐぐぐっと加速度を増してきた。もしかすれば消費増税の時期あたりにはかなりの版元がギブアップする可能性もあるな、と考えているのは私だけだろうか。

5月8日 オレオレ詐欺なんかに絶対引っかからないと自負していたが、今朝、魔が差した。アマゾンから「クレジットカードの有効期限が切れていて注文に応じられない」というメール。大あわてでカード番号を再入力して返信してしまった。すぐに「詐欺メールだ」と気が付いたが、もう遅い。カード会社に電話してカードを再発行してもらうことにする。我ながらドジだなあ。

5月9日 山形出張だ。打ち合わせがひとつあり、友人の写真展を見て、夜は中華料理屋でその家族と食事。午前中は鶴岡市内の高館山にでも登ってくるつもりだ。実は1か月後に2週間ほど海外に行く予定だ。やることは山のようにあるが、まあ、なるようにしかならない。1日1日、楽しいことを見つけながら、よぼよぼ、ボチボチやるしかない。

5月10日 長いGWも終わって好天が続く県内だが、田植えはまだだ。いつの間に田植えはこんなに遅くなってしまったのだろうか。10年ほど前は「遅い遅い」といわれながらもGWになると一斉に水が張られたものだ。ある人に言わせると、農協主導で苗の規格が統一され、それに満たない苗で田植えをしてはならない、という規約のようなものができたから、ということだった。ようするに抜け駆けや不良米をふせぐためなのだろうが、田植えの時期まで農家ではなく農協主導で管理しているわけである。真偽のほどはわからないが説得力はあるなあ。
(あ)

No.952

白きたおやかな峰
(河出文庫)
北杜夫

 この頃読む本はめっきり河出文庫が増えた。昔の作家の本をよく出しているからだろう。意欲的に昔のベストセラーや絶版本を再刊してくれる版元には敬意以外ない大感謝である。
 本書は1965年カラコラムの未踏峰ディラン遠征隊に医師として参加した体験を小説にしたものだ。もちろん名著の誉れ高かったものだが読んでいなかった。山岳ものはよく読むほうだが一流の作家が書いた山岳小説というのは初めてかもしれない。医師という表面には出ないサポート側からの海外遠征登山隊の詳細な舞台裏レポートとしても読めるのが面白い。ノンフィクションとして読んでも実に興味深いのだ。驚いたのはこの小説では未踏峰に登頂できたかどうかに触れていないことだろう。頂まで100mに迫ったアタック隊の苦悶の様子が描かれたところで物語は終わる。この辺はさすがに小説である。古典的な高名な作品だが、読もうとしなかったのは「ヘンな書名だな」、と違和感があったのも事実だ。(書名は)口語と文語の混交で日本語になっていない、と三島由紀夫がクレームをつけた、ということからわかるように、なんだかやっぱりちょっとヘンだ。

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