Vol.992 20年1月4日 週刊あんばい一本勝負 No.984


明けましておめでとうございます

12月28日 サンパウロの友人に本を送るため、何年ぶりかでブックオフへ。本屋に行くことはほとんどない(東京で神保町の東京堂と三省堂に行くくらい)から棚を見るだけでくらくらする。100円コーナーを見ていくと、いい本がほとんどない。横の棚に移動したら突然、「いい感じの本」が並んでいた。その棚は100円ではなかった。昔のブックオフは本に関心のないオーナー(いまは大手出版社が出資している)だったので驚くような掘り出し物もたくさんあった。経営が変わってからは、ちょっと面白そうな本は軒並み100円以上の値段がついている。こちらも一応は本のプロなので(古物商免許を持っている)、値付けの意味はよくわかる。ブックオフをちょっと甘く見ていたなあ。

12月29日 今年亡くなられた人たちのことを書き記しておく。思い出すままに挙げても、1月の松本昌次(影書房)と岡留安則(「噂の真相」)、5月、阿部牧郎(作家)、7月、天の戸の杜氏・森谷康市、8月は池内紀(作家)、9月には「世界システム論」の社会学者・ウォーラーステイン、そして11月、秋田市の大王製紙誘致反対運動で名を馳せた佐々木裕……といった具合だ。佐々木裕以外はみんな有名人なので説明はいらない。佐々木裕は享年72。私が秋大生のとき、日大の支配下にあった秋田経済大学で孤立無援で学園闘争を戦い抜いた伝説の人物だ(奥様も一緒だったはず)。その後も市内で印刷業を営みながら市民運動を続け、大王製紙を撤退させ、食品公害や医療公害をなくす運動に関わってきた。身の回りにこんなすごい人もいた。心から哀悼の意をささげたい。

12月30日 「止まり木や〈夜は長い〉と言う男」――この句は今年の秋田県俳句大会で講師特選に輝いた。俳句を始めたばかりの高校生の句だ。いうまでもなく太宰治が銀座のバーで飲んでいる有名な写真から連想されたもの(本人は太宰の映画から着想したという)。作った高校生には申し訳ないが、この句のどこがいいのか、この半年、ずっと考えているのだがよくわからない。「三つ食へば葉三片や桜餅」も実に平凡な当たり前の句だが高浜虚子だ。山仲間でも「金足農スクールカラーはナスの色」という句があった。「それ桜あれは桜かこれ桜」という句も素人の句である本でほめられていた。「秋田弁音声検索なもだめだ」はサラリーマン川柳の秋田の入選作。この世界、深入りは避けたほうがいいようだ。

12月31日 『日々是好日』は好き嫌いがわかれる映画。私的には大好きで、もともと何も起こらない作品が好きだ。今年亡くなった人の中にイラストレーターの和田誠さんと俳優の山谷初男さんを漏らしてしまった。ご冥福をお祈りします。朝日新聞恒例の年末「今年のベスト3」に一番信頼のおける文芸評論家・斎藤美奈子さんが河ア秋子『土に贖う』(集英社)を挙げていた。農業新聞の書評用に「無理やり読んだ本」だが、読んでビックリ、面白い本だった。というわけで今年も終わり。皆様良いお年を。

1月1日 明けましておめでとうございます。昨日から突然雪が降り続け、すっかり白一色の世界に。正月というのは何となく気持ちが弛緩しがちだが雪が降ると気持ちがピリッと引き締まる。もう30年以上、年賀状は欠礼しているが、今年もいろんな方々から賀状をいただいた。返礼できないことをいつも心苦しく思う。大晦日は『92歳のパリジェンヌ』を観た。すぐに2度目だと気が付いたが、そのまま見続け、新しい年に。

1月2日 去年はほとんど東京に行く機会がなかった。同じように外で飲み食いする外食の機会もめっきり減った。家や事務所で売れるあてのない原稿を書いたり、本を読んだり、酒を飲むのが楽しくなった。コーヒーをよく飲むようになった。パック入りのレギュラーコーヒーを毎日2杯以上飲むし、コンビニでカフェラテも買う。今年はステップアップして豆から挽いて飲むことにした。今年最初の買い物はコーヒーセットだ。

1月3日 今年の干支は「子(ネズミ」」。昔のように干支の動物が話題にならなくなった(ような気がする)。年末、市民市場内でネズミを目撃した。人間慣れしたネズミでじっくり観察できた。もともと十二支は動物とはなんの関係もない。十干(じっかん)との組み合わせで編み出された暦だ。それでいうと今年は庚子(かのえ・ね)だ。十二支と十干の組み合わせで暦や生活の時間割を決めていた時代は、難しいことのわからない庶民に身近にこの暦を理解してもらうために動物を用いることが考えられたという。ちなみに私の名前は「甲(はじめ}」だが、誰もそう読める人はいない。父親が陰陽五行説や中国思想に凝っていて、「甲」は十干の一番初めだから「はじめ」と読ませたものらしい。「らしい」というのは父から実際に聞いたわけでないからだ。「甲」は十干で「きのえ」と読み、その意味するところは「木の兄(陽)」。五行とは「木火土金水」のことあ。自分の名前が陰陽五行説に起因しているのを知ったのが60代に入ってから、というのもなんだか情けない。
(あ)

No.984

2050年のメディア
(文藝春秋)
下山進

 著者はもともと版元である文藝春秋の社員。オビには「読売、日経、ヤフー インターネット後の地殻変動を描く」と記されている。そして書名からもわかるように、本書は近未来のメディアの行く末を描いた本、とばかり思って読み始めたが違った。読売新聞社のこの10年の試行錯誤を「インターネット」「紙の王国」「電子版」といった切り口で取材したノンフィクションといったほうがいい。書名と内容が乖離しているが、読者の期待は裏切らない面白いノンフィクションになっている。デジタル化に乗り遅れた読売新聞の舞台裏を克明に追っかけるだけだと単なる暴露本ふうになる。そこでヤフーや日経新聞も加え、この3社が織りなす重厚な演出を凝らしたルポにしたのが著者の力量だ。でもやはり本書の中核は読売新聞だ。読売がデジタルに乗り遅れた重要な要因として、記憶に新しい読売巨人軍の「清武の乱」の舞台裏を丁寧に裁判資料などひも解きながら解明しているのも読みどころだ。全体として文章が荒く、横文字が唐突に説明なしに登場したりする。同じ会社出身者の本ということで校閲や校正者に気の緩みがあるのだろうか。もともと大学生たちへの講義をもとに本に構成した、というのが原因なのかもしれない。

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