Vol.1000 20年2月29日 週刊あんばい一本勝負 No.992


乙川優三郎に夢中です

2月22日 なんともうっとうしい雨。この3連休は3食とも一人だ。昨夜は近所で独り呑み。このごろ日本酒の味が少しわかるようになり、純米酒をいい気になってきこしめした。目の前にある仕事が片付いた「打ち上げ」でもある。残る大きな仕事は「ブラジルの本のための原稿」と「倉庫整理」。どちらも大仕事で腰を上げるまでが一苦労しそうだ。

2月23日 昨夜から強風が吹き荒れ、今日の森吉山は中止。で今日一日すっぽり何もすることがなくなった。カミさんが大阪に行っているので、ゆっくり朝寝、ブランチをして、ブラジルの原稿書きでもするか、と思っていたのだが、強風のためカミさんの大阪からの飛行機が予定通り到着が危ぶまれるとの連絡が入る。

2月24日 最近はまっている乙川優三郎に『太陽は気を失う』というタイトルの小品がある(短編集の書名にもなっている)。なんともこなれていない生硬な書名のようだが、「3・11」の原発事故の話だった。突然の放射能の拡散により太陽そのものが一瞬、気を失ってしまった、という意味だ。アマゾン・プライムはアメリカ映画で『美術館を手玉にとった男』。総合失調症の天才贋作家のドキュメンタリーだ。この頃、本も映画もいいものに当たり続けている。

2月25日 パチンコも競馬もマージャンも株も宝くじもやらない。特別な思想的な背景があるわけではない。田舎で生まれ、その中で生きてきたので身近にギャンブルがなかった。先日、ヤフオクのオークションに参入。ちょっぴりギャンブラー気分を味わっている。落札をもくろんでいるのはハーマンミラーの椅子。正価で買えば15万円近くする椅子だがヤフオクの中古品なら5万円台で手が届く。いまのところ私が一番の高値。入札にはギャンブルのような技術も必要なので、ダメだろうな。

2月26日 ハーマンミラーの椅子を落札。入札者は私以外いなかったので、ちょっと複雑な気分。もう一つ、アリスファームのロッキングチェアーも欲しいのだがこれはヤフオクへ出品自体がなかった。

2月27日 新聞紙面の端っこに「兜町の風雲児焼死」の記事。この風雲児はバブル華やかなりしころ投資仕手集団を率いて、いともたやすく7千人から600億の金を集めた。愛人は当時のアイドル歌手倉田ナントカで、それも話題になった。そんなことが走馬灯のように思い出されたのだが、その男も今は66歳。葛飾の6畳一間のアパートで寝たばこの不始末で焼死した。家賃4万8千円のアパートで、生活保護を受けていたという。まだ当時の凶悪な犯罪者たちは、このコロナウイルスの空の下、同じ空気を吸って生きている。時間はそう早くは進まない。

2月28日 近所にある「洋服なおし」の店は全国チェーン店だが、ボタンの取り付けひとつで650円。ジャケットの肩パット取り外しは5千円だ。とにかく高いので躊躇することが多い。駅裏の巨大駐車場はこちらから言わない限り、かたくなに領収書を出さない。なんか裏があるのだろうか。ときどき行く飲食店の女性店員は派手に客の間を走り回る。ホコリが舞い上がるし、煩わしいし、気分が悪い。年をとると、こんなふうに他人を許せない頑固ジジイになっていく。でもこれらは「人手不足」が大本の原因の社会現象のひとつかもしれない。あながちこちらの年のせいばかりではない。
(あ)

No.992

山中静夫氏の尊厳死
(文春文庫)
南木佳士

 小説家の南木佳士の本はほとんど読んでいる。でも今春、彼の『山中静夫氏の尊厳死』が映画化されるというニュースを見て、この本は読んでいないことに気が付いた。うかつだった。平成5年に書かれた物語なのだが、急いで文庫本を取り寄せた。著者が心身絶不調の日々の中で、「作家としてのなりふりにはかまっておられず、生きのびるために書いた作品」だとあとがきに書いている。確かに唐突に謎めいた文章が出てきたり、洗練されていない箇所が随所に見られる。
 表題作のほか、もう一本『試みの堕落論』という平成4年に書かれた中編も併録されている。カンボジアとタイ国境の難民医療キャンプに参加した時の、バタヤビーチでの休暇旅行を綴ったもの。そこでの娼婦とのやりとりや同僚たちとの関係を描いたものだが、通底して流れているのは「秋田」という土地をめぐる思い出と言っていい。なにせ登場人物の売春宿を経営する女も、同僚の女好きの理学療法士も、著者自身が学んだ大学のある場所もみんな秋田。こちらのほうを引き込まれるように読んでしまった。

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