Vol.1001 20年3月7日 週刊あんばい一本勝負 No.993


食あたりで七転八倒

2月29日 「山の民」と言われる人々に興味がある。マタギや木地師、山岳信仰関連や役小角、サンカいった人々だ。ある程度の基礎知識はあるのだがサンカに関しては何も知らなかった。秋田と無縁だったせいもあるが、川辺などで生活し移動しながら箕作りなどしてくらした、と言われてもリアリティがまるでない。いまようやくその三角寛『サンカ奇談』(河出文庫)を読み始めたところ。三角が朝日新聞記者で、映画館の「人生坐」や「文芸坐」の経営者だったことも初めて知った程度。少し勉強してみるつもり。

3月1日 土曜日の昼、郊外にある大きなショッピングセンターへ。ここで魔がさしてチャーハンとギョーザの外食。油が合わなかったのか食後すぐにトイレへ。夜、こんどは突然吐き気がして二度ほど嘔吐。咳も熱もないからまさかコロナウイルスではないだろうが、余裕のない心身にはそんな不安すら忍び寄る。

3月2日 日曜日は午後まで寝ていた。まるで食欲がない。ものを食べたいという気が起きないばかりか、食べたいものを想像するだけで胸焼けと同じような気持ち悪さが蘇る。夜はやはり胃のあたりの違和感が去らず悶々として一夜を明かす。朝起きても食欲はなし。熱も咳もない。

3月3日 午前中いっぱい寝ていたので、たいぶ精気が蘇ってきたが、まだ食欲はない。午後からはひげを当たり、ウエットテッシュで身体を拭き、わざと明るめの華やかなセーターを着て出舎。自分で自分の気分を挙げなければ、どんどん落ち込んでしまう。いま食べたいものを想像してみるが和食系はすべてダメ。パンや牛乳、ヨーグルトにバナナ、プリンにハチミツといったあたりは大丈夫か。

3月4日 嘔吐から2日目、胃のむかつきと倦怠感が同時に消えた。食欲も出たのでモチ2切れとお粥をペロリ。嘔吐のはっきりした理由はまだはっきりしていない。あのレストランのチャーハンの油が悪かったとすれば自分以外にも被害者が出ているはず。家で食べたものが原因だとすれば、家族も食べているから他にも害は及ぶはず。私だけの体調が変になったのだから訳が分からない。まずは体調が戻ったので、吐しゃ物で汚れた衣服や寝具、その他を始末。

3月5日 不運は続く。右膝が痛み出した。階段の昇降がきつい。原因はこれまたまったくわからない。何かに呪われているのか。トレーニングのし過ぎ(特にスクワット)でよく膝痛があるが、やめると痛みは止まっていた。今は何もトレーニングをしていない。単なる老化現象なのだろうか。

3月6日 階段の昇降に七転八倒なのに、夜はなぜか爆睡。朝を迎えたら膝の痛みはウソのように消えていた。昨日のあの苦しみは何だったのだろうか。何とか理屈やエビデンスが欲しいのだが、その手がかりすらわからない。年をとるというのは「わけのわからない痛苦を受け入れること」なのだろうか。だれか私の膝痛の理由を教えてほしい。

3月7日 カレーライスをつくった。何年ぶりだろう。家庭用にではなく個人的な実験というか調理実習のようなもの。ずっと市販のルーのレシピ通りにカレーを作ってみたかった。ちゃんとルーの裏書きにあるレシピ通りにつくり完成した。ハチミツだコーヒーだ牛乳だといった「隠し調味料」は一切使わない。そして一人こっそり食べた。まるで薄味、平板、コクのないカレーだった。家に持ち帰り今日から家族に強制的に食べてもらうことを懇願。でも「噂」は自分で確かめてみなければ真実はわからない、というよい証明である。
(あ)

No.993

64
(文春文庫)
横山秀夫

 時間を持て余していて、身近に読みたいと思う本がなくて、イライラし始めると、「最も世間で受けている作家の本を読もう」とおもう。これはもうどんなジャンルでも構わないが、普段の自分の嗜好や傾向と違っていたほうがベストだ。というわけでベストセラー作家の本書となった。まずは「64」の意味が分からない。でも構わない。そこがだいご味だ。と読み始めたのだが、この作家特有の地方(県庁所在地)の記者クラブと県警の攻防をこれでもかとばかりねっちこく描く社会はミステリーで、記者の世界はともかく日本の警察権力機構のことをこれだけ執拗に細部にわたっておしえてもらっても、「なんだかなあ」という気持ちになってしまう。本書では特に事務畑の警務部と直に犯罪を扱う刑事部の暗闘を描いているのだが、正直なところ、こんなに長く書かなくてもいいのになあ、と思いながら上下巻の長いミステリーを読み終わった。ミステリーと言っても驚天動地のどんでん返しや失望でガックリ来る仕掛けが隠されているわけではない。なるほど、それもありか、というぐらいの仕掛けなのだが、なにせ「前置き」が長い。いや、最後の種明かしよりも、著者は前段の「前置き」こそが書きたかった要諦なのだ。そう思って読むと見事な社会派小説として読める。文章が旨いし、構成は巧みだし、登場人物たちが生き生きしている。やっぱりたいしたものだ。

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