Vol.1023 20年8月8日 週刊あんばい一本勝負 No.1015


カレーに落語に深夜特急

8月1日 ユーチューブで漫才や落語を聴くようになった。便利だし無料だし、名作を探し出す手間いらず。でもこれって著作権はどうなっているのだろう。いま定額で服を借りられるサービスが流行らしいが、本も定額を払えば毎週好きな本がセットで送られてくる、という時代もたぶん遠くない未来に実現するに違いない。そうすると本屋はいらなくなる。

8月2日 仕事が一段落、金曜日に予定していた山行も中止になったので、何もしない2日間。買い物へ行き、常備菜と夜の晩酌用つまみも兼ねる料理作り。その後は外に出てスタバへ。資料を広げて自分で書く予定の原稿の整理。多人数用のテーブルがほとんど独占で使える。

8月3日 1時間ほどをかけて2紙の新聞を読む。その他にもグーグルとヤフーのネットニュースにも目を通す。ネットニュースにはときどき面白い特集記事が載る。ヤフーニュースは最近、沢木耕太郎氏のロングインタビューを載せている。そのなかで沢木は「東京オリンピックは大義がないから興味ない」といい、「コロナはみんな大騒ぎしすぎ」と断じていた。ほとんどの時事的な取材を断っているという沢木がネットニュースの取材応じているのも不思議な気がしたが、執筆者のネームが「山野井雪絵」とあった。ああ、あの『凍』の主人公の山野井さんの関係の方か、と得心。

8月4日 70歳になると免許更新の前、高齢者講習を受講しなければならない。それを受けてきた。講義と実地の2時間をまじめに受講。今年の交通事故による県内死亡者は24人で、そのうち高齢者が7割を占める。特に加齢による視野狭窄と反応の遅さが、運転上大きな問題のようだ。気持ちだけが若いというのは時として危険だ、と心した受講を終えてきた。

8月5日 最近はスマホでユーチューブの落語を聴きながら散歩をする。もっぱら志ん朝、小三治、志の輔、枝雀といった現代の落語家のもの。たまたま昨日は志ん朝の「文七元結」を聴いた。何十回も聞いたことのある話だが、志ん朝の語りに時間を忘れてしまった。話芸の力というのはすさまじい。「文七」はこの落語の主人公ではなく脇役だ。その脇役の仕事が元結(床屋)で、これは最後に明かされるさして重要ではないフレーズだ。物語のさして重要ではない人物や仕事を噺の題名にしていることにいまさらながら驚いた。そういえば落語の題名の付け方は話の筋とはあまり関係のないものが多いような気がする。

8月6日 8月に入っても日本列島は静かなまま。滑るように1日が過ぎていく。このままずっとこんな状態が続くのかもしれないが、それはそれで諦めるしかない。突然思いついて沢木耕太郎『深夜特急』を再読してみることにした。本が出た86年当時すぐに読んだ記憶があるが自分はまだ30代だった。まったく古びていない内容に改めて驚いた。何カ所か、「あっここ読んだ記憶がある」というフレーズにも出あえた。

8月7日 またカレーの話だ。市販のルーの箱に書いているレシピ通りにカレーをつくれば美味しくできる、と信じてここ数カ月、何度かチャレンジしてきた。でもどうしてもうまくできない。自己流の調理の仕方にどこか大きな問題がありそうだ。一晩置いたカレーが美味しいのは、ジャガイモのでんぷんが溶け出し、それが片栗粉の役割を果たし、カレーにとろみを与えるためだ。辛さがマイルドになる。これはもう科学的に証明されていることなのだが、その手前の段階で失敗しているのだから何をかいわんや。
(あ)

No.1015

浪漫疾風録
(中公文庫)
生島治郎

 6月が終わった。事務所の電話もメールもほとんど動かない、不気味なほど静かな1か月間だった。コロナの影響といえばそれまでだが、注文も出版依頼も相談も苦情もお誘いも無駄話も何もない「真っ白な1か月間」だった。そんななか、めったいないことだが書店で装丁が素敵な文庫本に出合った。衝動買いでそれが本書だった。装丁者は平野甲賀で、平野さんは小豆島に移住していて、悠々自適の生活をしている。著者は昔話題になった『片翼だけの天使』を書いた人でミステリー畑の人なので、ちょっと意外な組み合わせだ。著者が早川書房の編集者時代を描いたもので、これがめっぽう面白かった。自伝的長編なのだが個性派ぞろいの梁山泊のような出版社の舞台裏が、すべて実名で書かれている。あんまりおもしろいので続編の『星になれるか』もすぐに読んでしまった。こちらはミステリー作家になってからの交流録だ。睡眠薬中毒の夫とアル中の妻の壮絶な離婚劇が圧巻で、60年代から0年代に活躍した流行作家たちの生態がよく分かった。ベストセラーの『片翼』は読んだ記憶あるが、どうやら著者にはこの後の離婚の顛末を書いた『暗雲』という長編小説もあるようだ。これも読んでみようか。

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