Vol.1103 22年2月19日 週刊あんばい一本勝負 No.1095

笑わないユーモア映画

2月12日 歯痛や打撲の鎮痛剤・解熱剤として医者からもらうのは「ロキソプロフェン」という薬だ。第一類医薬品なので薬剤師のいる店でしか買えないが市販薬だが、もともとは医療用医薬品で86年の開発時には劇薬指定されていた。それが15年に一般用医薬品になり簡単に手に入れることができる。痛みや発熱のもとになるプロスタグランジンの生成を抑える非ステロイド性対炎症薬で、アスピリンと同じようなものか。ロキソプフェンは胃にある段階では薬として作用せず、腸に入ってから効果を発揮する。念のため胃粘膜保護用薬と一緒に服用することが多い。私たちはこの鎮痛剤なしで日常生活お送れないほど依存している。でもその歴史はまだ5年ほど。医学の進歩は本当に頼もしい。

2月13日 シャチョー室と我が家の寝室は敷地こそ違え、1,5メートルほどしか離れていない。昨夜、寝床で眠りにつく寸前、違和感があった。隣のシャチョー室の明かりがもれてきたせいだ。「電気消すの忘れたッ!」とあわてて寝巻のまま事務所へ行くが、カギがかかっている。カギは最後に帰宅する者がかけるルールで、昨夜は新入社員が閉めて帰ったのだが私のカギも事務所に一緒に閉じ込められてしまった。夜中に煌々と2階の電気が付いている、と思うとなかなか寝付けなかった。だから今日は寝不足のまま。

2月14日 1週間前の日曜日、城東十字路地下道で派手に転倒、両手首を打撲した。まだ局部的には痛みがあり包帯も巻いたままだが、普段の7割ぐらいまでは日常が戻ってきた。この思うに任せなかった1週間、映画と本のお世話になった。録画しておいたテレビ・ドキュメンタリーもこれを機にかなりの本数を観ることができた。でもっか最大の悩みは体重増だ。動かないもんなあ。

2月15日 山歩きやブログに使う写真を撮るためカメラは必需品だ。長くペンタックスとリコーGRというデジタル・カメラ使っている。それが去年の暮れ、リコーGRを紛失した。ヤフオクで中古品を買おうと毎日ネットでチャックしているのだが、これがちっとも安くない。目星をつけているのはGRVという機種で定価13,4万円。ヤフオクでは中古品の落札価格が8,9万円だ。5,6万円のものを、と狙いを定めているのだが、もう2カ月近くたつのに値段は安くならない。良いものは安くならないのだ。

2月16日 東京で2か月間ホームレス体験をした記録『ルポ 路上生活』(KADOKAWA)を読んだ。都市のホームレスは乞食ではなく「家のない人」だと著者は言う。彼らは「過剰支援」と言いたくなるほどのサポートを受け、暮らしに不自由はない。驚いたのは定期的に炊き出しをする宗教団体の存在だ。韓国キリスト教団体や新興宗教団体は定期的に食事だけでなく「現金」まで配っている。彼らに施すことが宣伝になり多額の寄付を集める活動基盤になっているのだそうだ。あまりに炊き出しや差し入れが多いため、弁当の取捨選択も日常だ。炊き出しに並んでいる多くは年金受給者や生活保護受給者だというのもビックリ。都内の炊き出し地区を1日中回っているホームレスは、「お腹をすかせるため」に歩いているので、空腹のためではない、という指摘には笑ってしまった。

2月17日 都合3日間ほど青空の見える「奇跡的な日」が続いた。今朝は目覚めると「目を覆いたくなる積雪」だ。春へのかすかな期待は一挙にしぼんでしまった。散歩に出でると必ず動けなくなった車に出くわす。ぬかるんだ轍にハマって動けなくなるためだが、これからは積雪のトラブルが多くなりそうだ。雪のない土地でひと冬をのんびり過ごしたい。

2月18日 写真を撮るとき笑顔を作るために「チーズ」と言うのは日本の定番だが、南米では「ウィスキー」という。南米の小国ウルグアイでつくられた『ウィスキー』という映画はその笑顔を作る言葉をテーマにしたもの。この小国の映画が04年に制作され、いきなりカンヌのいろんな大きな賞を獲得し世界中を驚かせた。物語はウルグアイのビリアポリスで暮らす小さな靴下工場のオヤジと、そこで働く女性従業員が偽装夫婦になり、ブラジルから訪ねてきたオヤジの弟を接待するというだけの話だ。登場人物は常に仏頂面で互いに全く会話がない。延々と無言で苦虫をつぶしたようなシーンが流れ続ける。映画の中で笑うのは一回のみ、ニセの結婚写真を「ウィスキー」といって無理やり笑顔で撮ったシーンだけだ。この映画が賞を得た理由は「ユーモラス」で「ヒューマン・コメディの傑作」という評価からだ。まるで笑いのない、暗くて目いっぱい地味なテーマの映画なのだが、映画全体に流れるトーンは不真面目で、誠意のかけらもない人物たちの、身勝手なわがままな関係と交流を描いている。全体が「笑いのないユーモラスな作品」になっているのだ。

(あ)

No.1095

杉浦日向子ベストエッセイ
(ちくま文庫)
杉浦日向子

 ちくま文庫のベストエッセイ・シリーズはすばらしい。向田邦子も田中小実昌も殿山泰司も井上ひさしも、このシリーズがなければ読まなかった。著者は東京芝の呉服屋の娘。日大芸術学部を1年で中退し稲垣史生氏の内弟子となり時代考証を学ぶが、食えないのでそれほど好きではなかった漫画へ方向転換。漫画家としてデビューした。という経歴は解説で初めて知った。漫画家として、江戸風俗研究者として、文筆家としても順風満帆の活躍に暗雲立ち込め始めたのは93年春、白血病に近い難病と診断され、10年の闘病生活の末、今度は咽頭がんが発見、05年、46歳で亡くなっている。本書でも病気と向き合い、自らの限られた命を抱きしめ、明るく「自分を選んでくれた病気」を語る著者の「気風の良さ」が際立っている。江戸時代、闘病という言葉はなかったそうだ。「平癒(平らかに癒す)」といい「死去」は「往生(あの世へ生まれ変わる)」という。「老後」は「老入」(おいれ)といったそうだ。「老いに入る」という意味で、こちらの方が適切で優しいニュアンスがある。老後という言葉はちょっと汚い感じがあるし、なによりも後ろ向きで好きになれない。「おいれのよいを仕合と存じております」という江戸のことばもあるのだそうだ。

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