Vol.1122 22年7月2日 週刊あんばい一本勝負 No.1114

ザックと樹木とそばつゆ

6月25日 このところ知り合いや有名人の死去の報が少ない。「いい傾向だ」などとほざいていたのだが昨日、ネットニュースで「コラムニスト小田島隆、65歳で死去」の報。最近、彼の本を最初から読んでみようと思いたち、古い年代順(1冊目は88年の「我が心はICにあらず」(BNN))」から読み出したところだった。アル中で苦しんだり、脳梗塞で病床にあるという情報は知っていたが、死因は脳梗塞のようだ。新刊が出ると必ず本を買う作家のひとりで、世の中に忖度なしで批判のパンチを繰り出せる数少ない言論人だった。身を削る社会批判で口を糊する言論人がまた一人いなくなった。

6月26日 2014年に登った「大白森・小白森」に7年ぶりで再挑戦。Sシェフと2人きりだ。雨模様だったが、鶴の湯登山口から登って帰ってくるコースで、難易度は太平山奥岳クラスかそれ以上。この日に備えて体重を2キロ落とし体調を整えてきたのだが、小雨は止むことなく1101メートルの分岐地点で引き返してきた。ここまで2時間半、小白森まではまだ40分(距離は1キロ)ある地点だ。ここはクマのメッカ。登山を楽しむというより、白い煙幕がかかった山中をクマの恐怖におびえ、ひたすら鈴を鳴らし、笛を吹き、大声を出し続けながら歩く。何とか機会を作って秋にリベンジしたい。

6月27日 山里を車で走っていると道路の両サイドの樹海にキラキラと葉が白く輝いている木が目立つ。マタタビの木だ。葉裏が光で反射して銀色に輝いているのだ。薄黄色の花を咲かせた木も緑一色の中では際立っている。こちらはクリの木。黄色の葉は雄しべだという。樹木オンチの私にもマタタビとクリの木は一目でわかる。「雑草という名の植物はない」というのは昭和天皇の名言だが、作曲家の團伊玖磨のエッセイで「見知らぬ木々」といった表現をする作家はバカ、と痛罵していた。「知らなかったら調べればいいだろう」、プロの仕事は調べること、と厳しい。植物の名前を知っているのと知らないのとでは、世のなかの「広さ」が違う。新しい木花のことを知ると、世界は1メートルほど広くなったように感じる。

6月28日 Sシェフから先日の大白・小白森の写真が送られてきた。ザックを背負った私を背後や側面から撮ったものだ。愛用のザックは、この日も不調で胸のベルトが外れ、ずり落ちてくるザックと格闘し、そこに気をとられて集中が続かなかった。そのザック姿を「あまりにザックが似合っていない」「体とフィットしてないばかりか、だらしなさすら感じる」とSシェフから叱責され証拠写真として送られてきたものだ。自分でもこのザックはもう限界だなと感じていたのだが、この無様な姿を目の当たりにすると我ながらガックリ。新しい30リットルのザックを買い替えることに決めた。

6月29日 もう2年以上続いている身辺の「停滞」と「諦観」を少しでも変えたい。と、いろんなルーチンを見直してきた。でもほとんど何も変わらない。腕時計をやめてみたり(すぐに元に戻した)、15年以上使い続けた愛着のある登山ザックを見切ったり、毎週家周りの草むしりを課している。いつもの散歩は欠かさないし、ブログ日記も「ほぼ毎日」で書く。普段は洗濯しないアウター(コート類)をコインランドリーで洗ってみたり、月1回の家族外食は続けているが、個人的には飲食店とはほぼ絶縁状態だ。おかげで体調はいいのだが、気鬱が晴れることはない。長い人生にはこうしたトンネルのなかの滞在時間も必要なのだろう。今はじっと耐えるしかない。

6月30日 老女がスマホで街路樹の撮影をしていた。「この花、なんでしょね?」と散歩中に訊かれた。「ハナミズキだと思います」。たまたま唯一知っている樹木だった。散歩コースにはハナミズキが多く植えられている。あの一青窈のヒット曲の影響かな、と思っていたのだが、そうではなかった。街路樹ということは税金だから公金を使って流行歌に追従するとは考えにくい。調べてみると「成長が遅いのに、きれいな花が咲く」という長所からハナミズキがセレクトされたものだそうだ。成長が遅いので管理がしやすく、枝葉のゴミも少ない。これが行政お気に入りの理由だった。ハナミズキの英語名は「ドッグウッド」。樹皮が犬の皮膚病に効果てきめんなのでつけられた名前らしい。焼き肉串説というのもあった。日本の正式和名は「アメリカ山法師」だ。

7月1日 定番のリンゴ・カンテンランチを一時中断、昼は毎食そばを食べている。岩手の乾麺(土川そば)を茹でて「もり」で食すのだが、そばつゆがちょっと変わっている。市販のつゆに大量の黒コショウを入れ、かつぶしをチン、カリカリにして投入。きざみネギもたっぷり。そのあまりのミスマッチ具合に、逆にうまいのでは、と前のめりになったのだ。テレビのバラエティ番組で見聞した話で、「文句を言う前に試してみよう」と思ってしまった。これが本当にうまかった。不思議なのは黒コショウが味覚的には地味な役割(隠し味)しか果たしていない。でも欠かせないのだ。蕎麦というのは「そばつゆ」がうまければ食べられる。逆にそばつゆがまずいと、どんなうまいそばも台無しだ。そばつゆがいいと「もり」や「ざる」で充分、他の具材はいらない。
(あ)

No.1113

NHKきょうの健康 命を守る、救える応急手当
(番組制作班編)
主婦と生活社

 今年2月の転倒事件以来、3カ月以上たつのに、転倒の時に強く受身をとって痛めた両手首(親指の付け根)はまだ痛みが残っている。毎朝、服を着るときに服地と肌が擦れるだけモーレツな痛みがある。冬のアイスバーンによる転倒はこの5年間で2度目、転倒直後に「死後硬直」のようになった恐怖からいまだ逃れられない。たぶん次は「脳梗塞」か「脳溢血」といった脳による障害で外出時にクラっと来て意識がなくなるパターンに違いない。そんなことを考えるようになり、不安になって本書を手に取った。とにかく自分が倒れた時、まずはどのようにふるまえばいいのか、救急車を呼ぶタイミングは、応急処置はどうすればいいのか、そういった「知っておくべき最低知識」のマニュアルが欲しかった。ケガも事故も急病も災害も、年齢とともにそのリスクは年々高まっていくばかりだ。本書はイラスト図解事典だ。コンパクトにわかりやすくまとめられているのはさすがNHK。章立ても「一次救命処置」「日常的にみられるケガ」「部位別のケガ」「日常で起こる急な症状・病気」「暮らしの中のアクシデント」「野外活動のアクシデント」「高齢者のケガ・事故」「災害の応急手当と対策」といった丁寧な分類になっている。もうこの本は手放せなくなってしまいそうだ。

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