Vol.1210 2024年3月9日 週刊あんばい一本勝負 No.1202

ネットフリックスからアマゾンプライムへ

3月2日 3月になったと思ったら一面の銀世界。冬に逆戻りだがこんなもんだ。ネットフリックスで映画を観ていたがラインナップがあまりに貧弱でやめることにした。復帰したアマゾンプライム最初の映画は役所広司主演の『ファミリア』。日本のブラジル人家族と、息子を亡くした陶芸家、娘を事故で失った半ぐれの抗争や交錯を描いた物語だ。英語やポルトガル語が入り乱れる社会派の映画なのだが字幕がない。これは意図的なものなのかな。

3月3日 机の引き出しを片づけを始めたらやめられなくなった。半日かかって整理整頓、気分がいい。午後からは映画鑑賞。フランス映画『アスファルト』は前半3分の一で2度目だったことに気がついた。気を取り直してトム・ハンクス主演『オットーという男』。22年のアメリカ映画で、これもスェーデン映画『幸せなひとりぼっち』のリメイク版だった。同じトム・ハンクスの『ターミナル』もフランス映画をアメリカ人向けにリメイクしたものだし、アメリカ映画はこれが多いからちょっと問題だなあ。

3月4日 月曜と木曜が「燃えるゴミの日」。ゴミの量は45リットル袋一杯と決まっている。一週間にはいろんなことがあるのにゴミの量だけは変わらない。近所のよく行く公園は去年の大洪水で「緊急ゴミ捨て場」になり半年以上入れなくなってしまった。ゴミは一定量なのが一番なのだ。

3月5日 スポーツの日本選手の応援のために、わざわざ海外まで応援に行く若者(中高年もいるが)をテレビで見るたび、「仕事は何をしているんだろう」と思ってしまう。お金や時間が自由になる環境に嫉妬しているだけかもしれない。それとも「応援」という自分の中にない価値観に基づいた行動だからだろうか。大きな災害のあった地域に駆けつけるボランティアの行動にも同じような感情を抱いてしまう。これも自分のなかにはない価値観だ。ボランティアとサポーターを同列に並べること自体、問題かもしれないが、ようするに私は時代遅れの人間なのだろう。そうした行為を素直に理解できず、自分自身に対して「それってどうなの?」と自分で自分に突っ込んでしまう。

3月6日 朝から穏やかな好天。仕事はヒマだが、日々はたんたんとすぎて行く。毎日やることは決まっていて、それをこなしていると1日が過ぎていく。特別に良いこともなければ、心痛める悪いこともない。若いころなら耐えられない退屈な時間だが、70を超えると、そんな時間の流れにいとおしささえ感じてしまう。体調も悪くはない。なにせ暴飲暴食はしないし、規則正しい暮らしだ。

3月7日 本や映画を選ぶとき「主人公の職業」が選択肢の重要なファクターになる。とりあえずは「主人公がどんな仕事をしているか」をチェックしてから、本や映画を選択する。これは自分が出版以外の世界を知らないことと深く関係しているようだ。最近見た映画を例にとると、主人公の仕事は「出版エージェント」「美術キュレーター」「電線はり職人」「陶芸家」「隠居老人」……といった具合。本に関しては三五館の「仕事場日記シリーズ」が有名だが、これはほとんどが羊頭狗肉で、質の薄い体験記が多い。自分の知らない仕事を深く掘り下げてくれる仕事本や映画に目がないのだ。

3月8日 まだ先のことだが山行の予定(4月初旬)が決まりそうだ。山は山形鶴岡の熊野長峰。標高500メートル以下の小さな山だが、初めての山はいつも胸たかなるものがあり楽しみだ。昨日、ちょっと毛色の変わった新刊本を読んだ。『死刑囚になったヒットマン』(文春)というヤクザ者の手記だ。面白かったのは、主人公のヒットマンよりも、彼に殺人を指示した「親分」という人間がメチャクチャで、いまはやり風に言えば「キャラがたって」いる。この親分も逮捕され死刑囚になるのだが、その判決が出てから、さらに新しい殺人2件を自供、これは明らかに死刑執行を延ばすための姑息な自白とみられ無罪になってしまう。結局ごく最近、71歳で獄中自殺したのだが、極悪非道を絵にかいたような「ワル」で、ヒットマンよりこちらの人物像に圧倒されてしまった。
(あ)

No.1202

開高健とオーパ!を歩く
(河出書房新社)
菊池治夫男
 私が初めてブラジル取材でアマゾン現地を訪ねたのは1977年11月。いろんなところで「ちょっと前に作家の開高健さんと取材チームが来たばかり」と言われ、なんだか彼らの後追いをしているみたいで居心地はよくなかったことを覚えている。翌年、そのチームと開高健はあの紀行文の名著と言われる『オーパ!』を上梓するのだが、こちらはこちらで自分のブラジル取材の世界を活字に写すことの難しさに呻吟していていたころだ。本書はこの『オーパ!』の旅に同行した編集者が33年後に書いたもう一つの物語だ。開高の紀行はどのようにして生まれたのか、作家の横顔、当時の月刊プレイボーイ編集部の熱気、個性的な旅の仲間たち……『オーパ!』を隣に置いて写真を見ながら読むとアマゾンの泥の匂いまで立ち登ってきて迫力ある旅の様子が体感できる。それにしても77年だ。この年、ブラジルは軍事政権下で経済も安定し、「ブラジルの奇跡」と呼ばれた時期の最後のあたり。これ以降、ブラジルは80年代半ばから民政に移管し、93年には年率2400パーセントと言われるハイパーインフレに突入する。「入」移民の国が「出」移民の国に転じることになる。開高健の77年の旅行時のすがたをレポートし、それに付き従う著者自身の、ドジな新人編集者の顛末が笑える。

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