Vol.1209 2024年3月2日 週刊あんばい一本勝負 No.1201

方向音痴は辛い

2月24日 最近買ったものでヒットは「介護エプロン」。高齢者用の防水、丸洗い可能な「よだれかけ」だ。2年ほど前から「使い捨て食事用エプロン」というポリエチレン性の透明タイプのものを昼飯時に使っていたが使いにくく、何度も洗って使える布製のしっかりしたものが欲しいと思っていた。かっちりとして色違いが2枚、1枚千円で、ほぼ半永久的に使える。これはいい買い物をした。

2月25日 『罪と罰』読了。読み通すのには半月ほどかかった。推理小説のような物語の構成にびっくり。犯人ラスコーリニコリと予審判事ポリフィーリイの知的対決という、ほとんど『刑事コロンボ』と同じ世界で、娼婦ソーニャとの聖なる愛がその基底に静かに流れている。工藤精一郎訳の新潮文庫上下巻だ。とにかく改行が少なく、人物名が複雑怪奇(同じ名前に幾通りもの呼び名がある)で、最初はずいぶん面食らい手間取ってしまった。主人公の主張は「人類は凡人と非凡人に大別され、選ばれた非凡人は人類の進歩のため、現行秩序を侵す権利を持っている」というもの。ドストエフスキー自身、農奴解放闘争で獄中経験があり、本性を忘れた理性だけの改革がいかに虚しいか、を説いた物語なのだ。本が書かれたのは1860年代半ばだ。これは日本では明治維新の最中ではないか。死ぬまでにドストエフスキーを1冊は読んでおかなければ、と思っていた。これで小さな夢がひとつかなえられた。

2月26日 1週間の過ぎるのが早い。ただただボーっとしているうち1週間はあっというまに過ぎてしまう。そんななか七転八倒して『罪と罰』を読了したのだが、この次に読む本が問題だ。候補としては夏目漱石『吾輩は猫である』(文春文庫)だ。何度かトライしては挫折してやめてしまった。さっそく昨夜から読みだした。さすがにあのドストエフスキーの後なので、難解な漱石節にもついて行けそうだ。

2月27日 地元紙の「クマの目撃」(県警調べ)というベタ記事を読むのが日課だ。冬の間ここのコーナーは消えてしまうのだが、今年はどうやら消えずに目撃情報が続いている。先日(20日)は、秋田大学手形キャンパス横の太子神社境内に体長約30センチのクマが目撃、通報されている。大きさからいうと子クマだから、近くに親クマがいる可能性大だ。今日の新聞でも太平八田地区の県道で体長約1メートルのクマが目撃されている。普段から山道沿いを散歩する身としては他所事ではない。医学部裏手にある白鳥の給餌場を観に行きたいのだが、このクマ情報がブレーキになって、まだいけないでいる。

2月28日 何事もなかったかのように日々はたんたんと過ぎていく。散歩していても店の開店閉店はもちろん、看板が変ったり、道路工事で初めて見る機械工具を見たりすると、ジッとそこにたたずんで見てしまう。広告チラシに知らない日本語を見つけてショックを受けたり、近所の路地に小さな公園を発見して小躍りしたり……。映画も本もこのごろはもっぱら「古典」と言われるものばかり。自分の体力や年齢、置かれた環境から「引き算」しながら、転ばないように歩いていくのがやっとだ。

2月29日 パソコンの調子が悪い。買ったのが2016年。もう8年使っている勘定だ。さらに輪をかけて危機的な状況にあるのがガラケーだ。こちらは買い替えて3年ほど。なのにバッテリーがなくなったのか、しょっちゅう機嫌を損ねる。パソコンと違って、ガラケーはこのままでうっちゃりたいのだが、不調が続くようならスマホ購入も考えなければならない。

3月1日 広面から保戸野まで歩いた。往復で計2時間、歩数計は持っていないが約2万歩ほどだろう。保戸野の店で飲み会があったためだが、方向オンチなので迷子になる心配があった。そこで地図を見て「学校」を目印にたどれば間違いなく着けることに思い至った。大学病院を出発し、手形の秋田大学キャンパスを突っ切り、東中学校前を抜け、北高の前を通ってみその短大まで行く。みその短大通りに店はある。これなら迷子になる心配がない。と、この作戦はみごと成功したのだが、帰途、千秋トンネルを通れば、シンプルに直線だけの最短コースで広面まで帰れることがわかり、ガックリ。方向ンチは辛い。 
(あ)

No.1201

森の奥の怪しい家
(講談社)
高橋義夫
 著者は直木賞作家だ。歴史小説や時代小説をはじめ、自身の田舎暮らしの体験をつづった本が多い。執筆活動の傍ら、山形で一般市民向けの小説講座を開講し、多くのプロ作家を輩出する仕掛け人でもある。都会と田舎の二重生活の先駆者でもある。本書の舞台も山形のある村(のようだ)。発行年月日が92年だから、まだケータイ電話もインターネットもない時代だ。この最新の情報通信機器がない、最後の時代の「取り残された村」の空気感が実によく全編にのんびり、ホンワリと漂っているのが本書の特徴だ。嫁をもらえと口うるさい母親との生活に、ストレスが溜り気味の主人公。彼が、オーナーが夜逃げする、森の奥のペンションの新しい経営者と知り合ったところから物語は動き出す。村の素朴な青年が遭遇する不思議なふれあいや、ひなびた山村で繰り広げられるユーモアとペーソスに溢れる豊かな人間模様が読みどころだ。人々が織りなす心温まる珍騒動の数々は、村の現実を知る、実際に村に住んだ経験のある人でないと描けないものだ。観念的でステレオタイプの田舎像から遠く離れ、ケータイとインターネットのない時代や村の空気感を、見事に描き切った小説と言っていいだろう。

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