Vol.1230 2024年7月27日 週刊あんばい一本勝負 No.1222

去年の今頃は……

7月20日 近頃のニュースで驚いたこと。毎日新聞の富山県の配布休止。富山県内の発行部数が840部というのにもショック。山形県の「1日1回笑うことに努める」という条例制定にもあんぐり。草葉の陰で井上ひさしさんは怒っているだろうなあ。政治や権力が「内心の自由」にまで踏み込んでくるとロクなことはない。ニュースではないが、先日、能代に行ったついでに吾作ラーメン本店に寄ると昼時100人以上の行列ができていた。秋田で100人近い行列を見たのは初めてかも。駐車場のナンバーは東北各地から。

7月21日 テレビは高校野球とオリンピックばかりで観る気もしない。昨日、たまたま沢木耕太郎の書いた「夢見た空 オリンピックへの旅」という、彼が40歳前のロサンジェルス・オリンピックのレポートを読んだ。ロスのオリンピック観戦記を書くために東ベルリンとモスクワを訪ねる、ところから始まる。オリンピック不参加を決めた国々を見て、それからアメリカに乗り込む算段なのだ。スタート前に笑顔で他の競技者に握手を求めるカール・ルイスの「演出」を嫌悪し、長崎宏子の「負けた安堵感」を見逃さない。圧巻はマラソンの瀬古の監督である中村のインタビューだ。自分が病気をしたせいで瀬古は負けた、という中村の発言を「それはあなたの傲慢だ」と、静かに反論している。

7月22日 週末の山歩きはなし。梅雨真っただ中だが、思ったほど天気は悪くない。今週は仕事が少しバタバタしそうだ。そろそろバタバタしてくれなければ、干上がってしまう。夜の読書はずっとレヴィ・ストロースの「悲しき熱帯」と格闘中。章立てがはっきりしているので毎夜1章ずつ、短編小説のように読んでいるのだが難解きわまりない。この本は哲学書や文化人類学の専門書ではない。単なる「ブラジル旅行記」である。なのに哲学書並みに難解なのだから世話が焼ける。でもここで放りだすと若いころの二の舞だ。もう少し頑張ってみよう。

7月23日 食べものに極端な好き嫌いはない。ただ「これは最近漁獲量が減って」とか「急に人気が出て」という理由で高価になったものは、食べないことに決めている。数の子とかアワビとか中トロ、メロンなどは「意識的に」口にしなくなった。インスタントラーメンも苦手だし、牛丼チェーンも入ったことはない。でも最近どちらもよく食べるようになった。原因は山歩きだ。山行の朝は「朝食抜き」はきつい。手っ取り早く腹に掻っ込むにはレトルト牛丼がピッタリということがわかった。さらに山ランチにはチキンラーメンとの相性がいい。スープが練り込まれていて、具材はネギがあれば十分だ。何十年も無縁だったチキンラーメンとレトルト牛丼は、いまやわが事務所の常備品である。

7月24日 新聞と出版広告はセットだ。この5年ほど新聞の出版広告に心動かされなくなった。こちらの老化による好奇心の減退が問題なのだが、読書欲や購買力が落ちたわけではない。あいも変わらず月平均10冊程度の本は買っている。そのほとんどがネット書店からのユーズド文庫本だ。新刊を待ちかねて買っていたころに比べれば、買う冊数は同じだが、金額で言えばほぼ5分の一に減っている。なるほど、これじゃ新刊は売れっこない。

7月25日 サッポロビールが経営する山梨の勝沼ワイナリーが来年5月閉鎖が決まったそうだ。ワイン・ブームによって生産者は急増したが、若者のアルコール離れは進み、加えてブドウ農家の高齢化も深刻なのだそうだ。なぜ山梨県でワイン醸造が盛んになったのだろうか。江戸、明治・大正と古来、甲州盆地では日本住血吸虫という「死に至る謎の病」が大流行した。田んぼのなかでかかる風土病だ。その被害の甚大さに頭を悩めた県や国は、原因である田んぼを潰し果樹園栽培に大きく舵を切った。これがのちのブドウ栽培へと結びつく。そのブドウ栽培によって山梨は「謎の病」との闘いに勝利するのだが、このへんは小林照幸『死の貝――日本住血吸虫症との闘い」(新潮文庫)に詳しい。その日本ワイン発祥の地がいま危機に瀕している。

7月26日 去年のあの凄まじい豪雨は7月15日のことだ。1年後、また同じことが起きた。これはたぶん毎年繰り返されるのだろう。幸いなことに、私の住む秋田市周辺はほとんど被害がない。よく遊びに行く庄内地方の被害も心配だ。来週は夏休みで白馬に行くのだが、酒田市の友人夫婦も一緒だ。去年の日誌を読み返していると7月の月末には猛暑の中でクーラーが動かなくなくなった。あのクーラーのなかった1週間は苦しかった。 
(あ)

No.1222

ガリバー旅行記
(角川文庫)
J・スイフト・山田蘭訳
 「ヤフー」というのは「ならずもの」という意味だが、なんでこんなけったいな名前を会社名にしたのだろう、とは思っていた。本書の4話目に「フウイヌム国渡航記」という章がある。この物語の住民は何と馬だ。主人公は馬の国に迷い込んでしまう。その馬たちの下僕が、愚かで汚くて理性の欠片もない人間という動物なのだ。馬たちは人間を「ヤフー」と呼び徹底的に軽蔑している。ヤフーとは役立たずの動物を指し示す言葉だったのだ。「ガリバー旅行記」といえば「小人の国」が有名だが、これはこの話だけが抜き出されて子供用の絵本や物語として独立して出版されることが多いせいだろう。本には他にも「巨人の国」、「天空の国ラピュタ」「馬の国」と、それ以外にも3本の話が収録されている。なかでも最終話のこの「馬の国」が飛び切り辛辣に人間と現実社会を見つめていて面白い話だ。奇想天外なユーモアあふれた冒険譚で、新訳のせいか何の抵抗もなく現代の物語としてスラスラと読めるのがいい。とはいうものの、この物語が書かれたのが1700年代、江戸の徳川時代である。読み終えて満足感とともに、えっ、この話、江戸時代に書いたの、ともうひと驚きすること請け合いだ。

このページの初めに戻る↑


backnumber
●vol.1226 6月29日号  ●vol.1227 7月6日号  ●vol.1228 7月13日号  ●vol.1229 7月20日号 
上記以前の号はアドレス欄のURLの数字部分を直接ご変更下さい。

Topへ