Vol.1248 2024年11月30日 週刊あんばい一本勝負 No.1240

モール・ウォーキングがしたい!

11月23日 先月あたりから身辺が何となくあわただしい。メールでの連絡や、電話がかかってくる回数が明らかに多くなったが、昔と違って、話がきてすぐに仕事が始める、というケースはめったにない。仕事が決まるまで、以前に比べれば数倍の時間がかかるようになった。昔は電話での2,3回の連絡だけで、本人と会わずに、本だけは猛スピードで出来上がっていた。ヒマよりは忙しいほうがいい。これは正直な気持ちだが、忙しくなるとプレッシャーもハンパない。そのプレッシャーと戦う気力が年々薄くなっている。

11月24日 家の屋根のハリが雨で崩れ落ちたのだが、どうやら保険がおりるらしい。その書類を届けるために契約している保険会社を訪ねたらびっくり。若者たちが入るような巨大な倉庫をロフト風に改装した、ほぼニューヨーク風(行ったことはないが)の建物の一角に保険会社があった。同じ建物の中には小さな書店まであった。立ち寄ってみると、われらが70年、80年代のサブカル系の本だけを扱っている、かなりマニアックな独立系書店だった。なんだか若いころの自分の本棚を見ているようで、落ち着かない。ヒルは駅裏にある小さな蕎麦屋さん。ここも若い人がやっていて、おいしかった。知らないうちに町はどんどん変わっていく。小さいけれど本屋も蕎麦屋も、若い人たちの手で引き継がれている。頑張ってほしい。

11月25日 朝から買い物に出て、終わると近所のコインランドリーで布団カバーや寝具回り、足ふきマットやじゅうたんなど、家の洗濯機ではできないオオモノの洗濯。洗濯が終わると、郊外の映画館で上映中の「海の沈黙」を見に行く。封切り映画を見るなんて何十年ぶりだ。映画の後は、先日行った蕎麦屋さんで晩酌。チビチビぬる燗をなめながら蕎麦をすすって大満足。早々と寝床に倒れこんでしまった。絵にかいたような休日の日曜日だ。

11月26日 少しずつ「モノ」を捨て始めている。衣類に始まって寝具類、バックから文具、食器類まで、毎週45リットルのごみ袋一つぐらいの分量のモノを捨てている。いつか使うと思って捨てていないのだが、後期高齢者になってわかった。もう使うことはない。根気よく、毎週45リットルずつ、淡々と処分を続けていくしか、道はない。モノに囲まれて消えていくというのは、やっぱり後味が悪い。

11月27日 ハタハタの漁獲量は禁漁明け(95年)以降で最低となった去年と同程度の漁獲量、と報じられていた。同じ日、山形の庄内の海でサンゴの一種「キクメイシモドキ」が見つかっている。北限が新潟・佐渡島と考えられていた造礁サンゴだ。北限が80キロもいきなり上がったのである。ハタハタと根は同じだ。それにしても北の荒れ狂う日本海にサンゴが生育している絵面は想像しにくいが、現実だ。こうした身近な「事件」で地球温暖化の現実を知ると、本当に背筋が寒くなる。

11月28日 新刊が出ると必ず買う作家が数名いる。その一人が角幡唯介だ。彼の新刊は『地図なき山』(新潮社)。サブタイトルは「日高山脈49日漂泊行」だ。光のない北極を旅する物語以上のものを期待して、さっそく本書を読み始めた……のだが、期待はすぐに失望に変わってしまった。少し残酷な言い方だが、これはダメ、彼の著作の中では一番つまらない。「よりよく生きるために私は地図を捨てた」という「はじめに」は、彼のこれまでの冒険行を理論的に振り返る、なかなか読ませる出だしだったが、本体の、地図なしで彷徨する山の物語は、読者がすっかり置いてきぼりで(なにせいっさいの固有名詞が出てこないのだから)、独りよがりの自己満足の物語で終わってしまった。次回作に期待するしかない。頼むよ角幡さん。

11月29日 県南部に用事のある時はイオンモール大曲に立ち寄る。毎日の習慣になっている散歩ができなくなる。その運動不足解消のため大曲に立ち寄ってイオンモールを2往復、散歩代わりにするのである。これはけっこうひそかな楽しみで、口外したことはなかった。ところが最近、ネットで「アメリカではモール・ウォーキングが盛ん」という記事を読んだ。さらに日本でも、イオンモールは横に長い建物なのでウォーキングに適していて、そんな愛好家のために散歩専用「アプリ」まで出ているという。……そうだったのか。私が発見した「誰も知らないインドア散歩道」とばっかり信じて、ほくそ笑んでいたのだが。でもどうして大曲なの? と言われそうだが、近所の秋田市御所野にあるイオンモールは、もともとイオン専用に建てられたものではなく、建物が一直線になっていない。散歩には適していないのだ。毎日のように雨が続く。こんな日はイオンモール・ウォーキングが最高なのだが、大曲は遠い。
(あ)

No.1240

イン・マイ・ライフ
(亜紀書房)
吉本由美
 11月1日はフリーランス法が施行された日。企業に属さず一人で仕事を受注して働く人を保護する法律だ。この本の著者、吉本さんは私と同年代、映画好きが高じて雑誌「スクリーン」に入り、その後も「アンアン」や「オリーブ」「クロワッサン」などの雑誌にライターやスタイリストとしてかかわった、この業界では有名な女性で村上春樹との共著まである。そのフリーランスの星でもあった彼女が、あの東日本大震災の3・11に、たまたまだが東京から生家のある熊本に移り住む。激動の東京時代と、移住後の熊本での10年をつづった本だ。華やかな東京での暮らし向きやその舞台裏や、貯えのない熊本での不安な一人暮らし、それらがけっこう赤裸々に描かれている。家賃の高い東京での「家暮らし」は大変だったのだが、移り住んだ生家の家賃ゼロ。でも貯えのない一人暮らしは骨身にしみる。身近な世界に愉しみを見つけ、猫やチェロや友と軽やかにくらす。唯一の夢というか理想は「リバースモーゲージの収入の終わる12年後、命を終えること」だと「あとがき」にかいている。62歳から始めた田舎暮らし。吉本さんの明るい性格が、読む側を暗くさせないのはさすがだが、フリーランスって何だろう、と考え込んでしまった

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