Vol.1252 2024年12月28日 週刊あんばい一本勝負 No.1244

10大ニュースを考える時期になった

12月21日 突然、「秦の始皇帝」って正式な名前ではないよね。と思ってしまった。教科書に田中角栄のことを「目白の闇将軍」とは書かない。あだ名だからだ。始皇帝にも「政」という名前があり、秦の第31代目の君主だ。始皇帝ってあだ名のようなものではないのか。彼は紀元前3世紀に中央集権によって古代中国を統一した。紀元前3世紀というのに驚くが、逆に15世紀から19世紀まで続いた徳川幕藩体制は、なぜ中央集権制度を取らなかったのか、これもまたよく考えれば不可解だ。秦の始皇帝からはじまり、徳川政権、中央集権、軍隊、外交、納税から地勢まで、頭の中がグルグルまわり収拾つかなくなってしまった。高校生に答えを聞くのも恥ずかしい。

12月22日 国連の推計データなのだそうだが、「2007年に日本で生まれた子どもの半数は107歳以上生きることが予想される」というのがあった。巷の本のベストセラーを見ても、健康本、長寿本が花盛りだ。「医学博士」の肩書を持つ鎌田實、和田秀樹、長尾和宏といった面々の本が毎月のように版を重ね、新聞やメディアの広告欄をにぎわせている。「病気の9割は歩くだけで治る!」などという書名の本が「医学博士」が書いたというだけで売れてしまうのは、やはりちょっと首をかしげざるを得ない。和田秀樹に至っては80歳からが最高の人生だ、いや90歳もいい、でも100年時代も万歳だ、と際限もない。何が医学博士だ、と毒づきたくもなろうというものだが、売れるが勝ちの世界だから、誰も文句を言えない。

12月23日 自然もののテレビ番組(NHK)をよく見るようになった。「ダーウィンが来た!」が特に好きだ。昨夜、マッコウクジラと巨大ダイオウイカの海中での戦いなる回をみた。クジラの背中に、飛ばしたドローンでカメラを装着させる。カメラには足がついていて背中に吸着してからモソモソとクジラの後頭部まで這い出すように設定してある。クジラの目線と同じポジションで撮影可能にするためだ。そしてダイオウイカのいる深海(700メートル)まで一緒に降りていく。ドローンがなければこんなことは不可能だ。ドローンができてから動物系番組は、まるで花が咲いたように面白くなった。ちなみにクジラの背中に装着する歩くカメラを開発したのは山形大学工学部だ。ナスカの巨大地上絵の研究で新発見を連発している研究機関も山形大学だ。勢いのある大学でうらやましい。

12月24日 夜の散歩は危険なので避けたいのだが、どうしても夜に散歩することもある。夜の横断歩道では車は止まらない。アイスバーンで道路はつるつるなだ。治安の悪い外国の路地裏を歩いている気分になる。腕にはウォーキング・ライトをピカピカさせ、足元はスべり止めの冬靴を履き、耳当てのついた帽子に手袋まで登山用ツールで装備しているのだが、車も道路も、暗闇の中で不気味に微笑んでいる。今日も夜の暗闇の中に出かけていく。老人にとって「転倒」は「がん」に罹るのと同じリスクだ。転倒から機能障害、寝たっきりの危険と隣り合わせ。それでも散歩はやめられない。困ったものだ。

12月25日 いつものように事務所でジャージャー麺の昼ごはん。デザートも定番の自家製寒天を入れた自家製ヨーグルトをたっぷり。と、ここまではいいのだが、この寒天を入れた「ヨーグルト」の名前が出てこない。まあ食べながら思い出そう、と悠長に最初は構えていたのだが、食べ終わっても食品名は出てこない。認知症の初期症状かもと不安になり、急いでパソコンで、その白い形状から思いついた「乳酸菌」と入力し検索した。関連語として「ヨーグルト」という言葉がすぐに出てきた。ホッとすると同時に、乳酸菌からすぐ隣にあるヨーグルトにたどり着けない、わがボンクラ脳に、「大丈夫か、お前」と弱弱しくつぶやいてしまった。こんなことが毎日起きるようになったら、平常心でいられるだろうか。

12月26日 久しぶりにアマゾンプライムで映画。ヴィム・ヴェンダース監督の『パーフェクトデイズ』だ。役所広司がカンヌで男優賞を獲った作品で、都内(渋谷)の超おしゃれなトイレの清掃を請け負う男の日常を淡々と描いた作品だ。見終わって「外国人監督がなぜ日本の公衆トイレに興味を持ったのだろうか?」と疑問が頭をもたげた。調べてみると、この映画はもともと日本財団とユニクロの関係者が、「渋谷の公共トイレを刷新するプロジェクト」を企画し、その宣伝を目的として制作されたものだった。この両者ならお金はうなるほどある。なるほど、そういうことだったのか。映画評には「あまりにトイレ清掃員の仕事を美化しすぎている」「底辺労働者への肯定感が強すぎて見ていられない」といった批判的なものもあった。それにしても渋谷の公共トイレは、本当に美術館か高級ブテックと見まがうばかりに美しい。

12月27日 去年は確か10大ニュースのトピックスを探すのに苦労したのを覚えている。今年もそろそろ10大ニュースを手帳に書き留める時期だが、書きだしたら、去年とはまるで真逆、「20大」まですらすらとトピックスが出てきた。75歳という正真正銘の「後期高齢者」になったのも大きい。数字は単なる社会的約束事だが、やはり何かしらの大きな「ターニングポイント」になっている。去年から引き続き日常で続いている「出張なし」「朝飯なし」「毎日散歩」「毎日ブログ日記」は、ほぼ皆勤賞、2年越しである。10大ニュースのネタはこれから年明けまで続きますので、よろしく。
(あ)

No.1244

よむよむかたる
(文藝春秋)
朝倉かすみ
 小樽の古民家カフェで月一度、超高齢者読書サークルが開かれる。平均年齢は85歳。この会が発足20年を迎える。その記念誌を作ろうと奮闘の日々を描いた小説だ。この著者の『田村はまだか』は、札幌(?)の飲み屋で、延々と「田村」という人物を待っている、よくわけのわからないグループの会話だけで成立する、実に変な(魅力的)物語で、一挙に引き込まれ、その魅力にはまってしまった。ほとんどべケットの「ゴドーを待ちながら」の飲み屋版なのだ。その著者が今度は読書・古民家カフェ・超高齢者という舞台設定で書いた物語だから、面白くないはずはない。ワクワクしながら読みだしたが、なかなか物語に花が咲かない。芽を出す前の春先の、チョット暗いまま話は進み一向にはじけない。高齢者小説といえば内館牧子。無意識のうちにこの内館ワールドと「高齢者小説」を読み比べている。主役の高齢者たちの周りに若い人を配し、そこに新鮮さがあるのだが、いま一つ機能していない。この本は今年の直木賞候補作だが、ちょっと難しいかも、というのが個人的な感触だ。そういえば同じような設定の小説があった。増山実『今日、喫茶マチカネで』(集英社)だ。閉店になる喫茶店でゆかりのある人々が「とっておきの体験」を語る、という設定の大人のファンタジーで、これもなかなか読ませる物語だった。

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