Vol.1250 2024年12月14日 | 週刊あんばい一本勝負 No.1242 |
「昭和」と「団塊」を考える | |
12月7日 県知事部局では週休3日制を選択できるフレックスタイム制を来年度から導入するという。週休3日制はもう現実だ。ネット社会とリンクしているから、昔の労働感覚やモラルで是非を判断するのは無理なのだ。その一方で私の周辺にはいまだ週休1日という会社がけっこうある。週休3日制と真逆ながら実は「似たような理由」で休みを週1でしかとれない世界もある。といっても世界の大きな流れは間違いなく週休3日。何十年か前、「週休2日」騒動の時は、「公務員に先を越されるのはしゃく」という個人的対抗心から、役所より早く週休2日制に踏み切ったが、今回は部外者として静かに眺めているしかやることはない。
12月8日 NHKスペシャル「国境の島 密着500日―防衛の最前線はいま」を見た。与那国島の保守派の町会議員が「自衛隊による町の活性化」に反対する。そのことによって村八分に合うことになる。いっぽう、父親の土建業を継ぐため島に帰ってきた同級生の男は、台湾有事による国の防衛施設建設などで恩恵を受け、潤う。それでも村八分にあっている同級生とも心を通わせ、相反する立場の2人の友情物語のような形をとって番組は進行する。台湾有事、ミサイルの脅威、現実味を増す全島民の佐賀県避難(!)、といった重苦しいテーマが、島で充実した生活をする2人の「働き盛りの男」の生き方を通して描かれていく。「密着500日」というのは2人を追った月日のことなのだ。台湾有事を初めて自分のこととして考えることができた。 12月9日 おもしろい本に出合った。小説と評論が交互に6章ずつならぶ関川夏生『砂のように眠る―私説昭和史1』(中公文庫)だ。著者は私と同じ昭和24年生まれ。一人称で書かれた小説はほぼ「私自身」である。評論は1章に1本の当時の話題の本を取り上げ論じている。その本というのが「山びこ学校」「青い山脈」「にあんちゃん」「何でも見てやろう」「二十歳の原点」「日本列島改造論」だ。読んだ本は一冊もない。「にあんちゃん」は在日朝鮮人の一家の日記で、ベストセラー後の一家の動向も興味深く、すぐにでも読みたくなった。小説はすべて一人称で書かれ、50年代後半から70年代初めまで。昭和でいえば30年代と40年代が時間的な舞台だ。これまで昭和や団塊といった言葉は「意識的に」素通りしてきたが、この本で一気に自分自身のこととして身近になった。「団塊の世代」とは乾いた砂だ。団結とか連帯とか熱い言葉が好きなくせに、自分だけはまとまる意思がない。自分は独特と思って個性を主張するが、実はみんな同じ。まとめて掌に握ろうとすると、さらさらとこぼれてしまう。本書は90年代に出版されたのだが、99年に新潮文庫になり、さらに四半世紀ぶりの今月、中公文庫で2度目の文庫になったものだ。 12月10日 今日からHPで「拙者の散歩道」という写真展が始まった。私自身が毎日歩いている散歩道の、看板や小路、電柱や地面、廃屋やゴミ捨て場、塀や壁面の、細部をデジカメカメラの接写機能を使って撮った写真だ。拙い写真なのだが、見ようによってはこんなアブストラクトな、意味不明の色や形が日常の中にある、ということを知ってもらえれば成功だ。撮影はこの秋から始めたもので、現在も飽きもせず散歩にはデジカメ持参だ。 12月11日 歯医者や理容院に行くと何種類もの月刊誌が置いている。雑誌はもう病院や公的施設などの待合室のキーアイテムだ。これらの雑誌は町の本屋さんの大きな収入源になっていて、毎月きっちり配達してくれるのだそうだ。ところが最近、「美容院で雑誌全種類に目を通した」と話す女性にあった。紙の雑誌ではなく電子端末デバイス(タブレット)で読む雑誌だ。紙の雑誌を買わず、楽天ブックスなどと契約して、タブレットですべての雑誌が好きなだけ読めるサービスを採用している。う〜ん、これだと本屋さんは一円の収入にもならない。店側にすれば紙の雑誌を買うよりはずっと割安だ。紙離れは、すでに美容院から始まっていた。 12月12日 先日、自舎本の「秋田市街べんり地図」が手に入らない、と恨み節を書いたのだが、早速、ある方から82年版のほとんど汚れのない「べんり地図」が送られてきた。神戸の同業者の方だ。これは本当にびっくり、小一時間、じっくり中身を読んでしまった。その「べんり地図」のなかに手書きの繁華街・川反の飲食店一覧があった。当時の店名のすべてが手書きで書き留められている。今制作している写真集『釜石のん兵衛横丁』は、東日本大震災で消えてしまった飲食店街の記録だが、震災前の飲食店の店名そのものが、貴重な郷土資料になっている。自分で作った本で、実は「いやいや片手間で作った」本なのだが、ものの見事に半世紀後、貴重な郷土資料に化けていた。何が大切なのか、誰もわからない。 12月13日 まだ30代の有望な若い作家が書いた、秋田を舞台にした小説を読んでいたら難しい言葉がいっぱい出てきた。「雪風巻」「垂り雪」「入相の鐘」「抜山蓋世」「姑獲鳥」……。いくつ読めますか。「ゆきしまき」「しずりゆき」「いりあい」「ばつざんがいせい」が正解だ。最後の「姑獲鳥」に至っては「うぶね」とルビが振っているが辞書では確認できなかった。こうした難解な言葉を無理くり使っている時点で、作家としての資質が問題なのだが、若いということは、「自分に下駄をはかせて、背を高く見せたい」年なのだ。ちなみにこの小説は、直木賞候補作にまでなっている。 (あ)
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