Vol.1249 2024年12月7日 週刊あんばい一本勝負 No.1241

映画と散歩と歯医者の日々

11月30日 映画「博士と彼女のセオリー」を見た。宇宙物理学者ホーキング博士の伝記映画で、夫婦のすれ違うたがいの恋愛(不倫)をテーマにした物語で難解な映画ではない。だから逆に、博士の宇宙理論が、なぜ革命的で天才的なのか、という理屈まではよくわからない。「世紀の天才」といわれる人物なのに、なぜノーベル賞を取っていないのか、そういった素朴な疑問に映画は答えてくれない。ブラックホールは物質を吸い込むだけでなく粒子を放射しており、やがて小さくなり爆発して消滅する。これが従来の時空理論を覆した「ホーキング放射」といわれるものだ。太陽クラスの質量のブラックホールでさえ蒸発する時間は、宇宙の年齢をはるかに超えている。そのためホーキング博士の理論の正しさを確認することは難しい。実験が不可能な世界だからだ。確証のない科学にノーベル賞は与えられない。ということなのだ。

12月1日 奥歯の差し歯が外れてしまった。土曜日だったが歯科医院に電話すると、すぐに診てもらえた。今日は日曜日。車の契約で販売代理店まで出向くことに。印鑑証明や実印、通帳などを用意して出かける。週末に何か用事が入ると山や外出は一切できないことになる。できるだけ用事は空けておきたいのが本音なのだが、そうもうまくはいかない。

12月2日 散歩中、若い外国人女性に話しかけられた。マレーシア人で、バス停を探しているのだが、近くのバス停を教えてほしいという。おやすい御用だ。「ヒジャブ」を被っていたのでイスラム系かと思ったら、キリスト教のプロテスタントだという。バス停で「秋田駅西口行」を確認し別れた。いいことをしたなあ、と自分の行為に酔っていたのだが、不意に今日は日曜日だったことに気が付いた。バスの土日運行は別記になっていることを失念していた。もしかすれば彼女は来ないバスを、ずっとあそこで待ち続ける可能性もある。いやはやとんだミスをした。

12月3日 当時10歳ぐらいだったが、南極に残されて生き残ったカラフト犬、「タロとジロ」のことははっきり覚えている。北極には白熊や巨大なシカなどが生息しているが、南極には海以外に生物はいない。彼らは何を食べて生きていたのだろう、と子供心にも不思議だった。昨日、録画していた高倉健主演『南極物語』を見て、初めて真相がわかった。タロとジロ兄弟は、魚や海鳥、アザラシやクジラの死骸などが食糧源だったのだ。魚は氷のクラックに挟まれ死んだものを食べる。海に潜って魚を捕っていたわけではない。衝撃を受けた10歳当時から60年以上たった今、昔の映画でその事実を初めて知る、というのも、なかなかインパクトのある「事件」だった。

12月4日 歯医者の治療が早く終わり、駅周辺をブラブラして夕食の店探したのだが、これぞという店に出合わない。あれもダメ、これもイヤと歩いているうち、繁華街・川反まで歩いていた。けっきょく川反でも入りたい店がみつからず、そのまま歩いて家まで戻ってきた。結果的には近所のコンビニで「かつ丼弁当」600円を食べたのだが、なんだかとことん外食には縁遠くなってしまった。歩数計はないが実感として10キロはゆうにいっている。外食もダメだ。自分で作るメシが一番好きで、酒もノンアルで十分だ。いや、無理やり夕食時に酒を飲む「慣習」のほうが逆に苦になってしまった。

12月5日 出版専業会社としてスタートした1976年から2年後の78年(昭53)、秋田市内の地図を職種別にページ分けした『秋田市街べんり地図』という、いまならタウン誌がやりそうなガイド本(というか小冊子)を出した。以後毎年改定し、10年間くらいは毎年、改訂版を出し続けた記憶がある。コロナ下で、自舎出版物を集めなおした際、ネットにも古本屋にも友人たちや印刷関係者をあたっても、不思議なことにこの「べんり地図」だけは一冊も見つからなかった。今日も「日本の古本屋」を検索してみたが、やはりまったく引っかからない。10年以上、毎年1万部近い部数が売れていたはずの冊子が、秋田市内の古本屋ですら見かけることがない。これはいったいどうしたわけ? 週刊誌や月刊誌の類と同じジャンルとして「ごみ処分」されてしまうから古書市場にも出てこないのだろうか。どなたかこの「秋田市街べんり地図」をお持ちではないだろうか。

12月6日 ネットで報じられていた小さな記事が引っかかった。今年4月に起きた交通事故の判決だ。21歳の女子大生が秋田市桜の交差点で横断歩道を渡っていた85歳の老人を轢き殺した事件だ。判決は禁固1年8か月、執行猶予3年。遺族との示談は成立しているそうだ。桜の交差点はよく通る道だ。横断歩道を渡っていると、止まらずに突っ込んでくる車の多さには辟易している昨今だ。夜はなるべく歩かない。歩くときはウォーキング・ライト(造語)をもつ。黒っぽい服装は避ける……といった実践はしているのだが、それでも車に乗っていると、歩行者など目に入らなくなるようだ。轢き殺された老人の気持ちになると何ともやるせない。女子大生は一生傷を負い続けて生きなければならない。横断歩道は怖い。
(あ)

No.1241

わたしの、本のある日々
(毎日文庫)
小林聡美
 読む本がなくなってピンチだったのだが、本書に救われた。このところ、集中的に高村薫の長編をせめていたのだが、あまりに内容が重く、こちらの精神状態と斟酌しながらでないと、なかなか読み続けられない。そんな時に本書に出合った。というかテレビ番組「団地のふたり」の小泉今日子との共演で、俄然この人に興味が募った。映画の「かもめ食堂」や「めがね」なども、昔から大好きではあったのだが、まさか本で、これほど感動させられるとは思わなかった。「読書家ではない。読むのに時間がかかるし、本屋にもたまにしかいかない。できれば文字は大きくて厚くない本が好ましい」と言うのだが、「港の人」「ミシマ社」「ナナロク社」「弦書房」「左右社」といったメジャーではない版元の本が多いのを見ても、それはわかる。ネコと遊び、山に登り、ご飯を作り、俳句に夢中。1カ所だけ、亡くなった佐野洋子さんの知り合った頃の私信を「あとがき」に載せている谷川俊太郎の本に、「ちょっと複雑な気持ちだ」と異議を唱えているのが印象的だ。この本を読んだおかげで、これから読む本を10冊以上リストアップできた。

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