Vol.1254 2025年1月11日 週刊あんばい一本勝負 No.1246

映画も本も豪雪も

1月5日 去年の大きな個人的出来事は「お酒が弱くなったこと」。晩酌が少しずつ「負担」に感じるようになった。とりあえず「ノンアル・ビール」に代替したのだが、思った以上に抵抗がなく、すんなりと体が受け入れてくれた。もともとビールをほとんど飲まないのだが、ノンアルビールはアルコールのない苦い炭酸水のようで、これが思った以上に新鮮だった。そんなわけで今も飲み続けているのだが、友人たちと会食するときは、いつも通りアルコールを口にする。こちらは何の抵抗もないから不思議だ。

1月6日 お正月三が日、毎日散歩に出たのだが、ほとんどといっていいほど「しめ飾り」を玄関に飾っている家がなかった。だから逆に、大きな門松を飾っていた居酒屋チェーンと大企業の秋田支店には違和感さえ覚えたほどだ。なのに同じ散歩途中にある三吉神社へは、駐車場が満杯なのが分かっているのに、延々と駐車場待ちの車列が、広面のいわばお正月風土記だ。ちなみに私は初詣はしないが、小さなしめ飾りを事務所玄関に飾っている。

1月7日 仕事始め。「がんばるぞ」というエネルギーが自然に身体に充満してくる。今日は青空ののぞく、冬には珍しい、明るい雪国である。こんな日が一日で多いことを祈りたくなるほどだ。今年も、皆様、よろしくお願いいたします。

1月8日 今年の初読書は、しんめいP著『自分とか、ないから。』(サンクチュアリ出版)。サブタイトルは「教養としての東洋哲学」だ。発売数か月で10万部以上売れているベストセラーだそうだ。46判360ページの厚い本だが、活字組みは大きくスカスカ、イラストも多く普通本の組み方なら100ページほどで済みそうだ。「無我」「空」「道」「禅」「他力」「密教」の6つの章に分けられて、東洋哲学の要人たちも、この本ではまるで漫画の登場人物のように扱われている。荘子は「学校に来たことのない秀才」で、親鸞は「わざとテストでゼロ点を取り退学になる」やつだ。空海は「クラスの中心にいる人気者」で、ブッダにいたっては「教室の端で窓の外を眺めているタイプ」というのだから笑える。この本を面白くしているのは著者の「立ち位置」だ。自分で自分をいじり、その自身の黒歴史をも包み隠さずネタにして笑い飛ばす。個人的にはよくわからなかった「禅」と「密教」についてなど、なるほどそういうことだったのか、と得心が言った記述が多かった。新年早々、いい本と巡り合え、よかった。

1月9日 アメリカ映画『ザ・メニュ―』を見た。太平洋上の孤島のレストランに閉じ込められた食通たちが、腹にイチモツありそうなカリスマ・シェフによって次々に復讐されていくホラー映画だ。ホラーや殺人系映画はほとんど見ないのだが、たまたまタイトルに惹かれて「見てしまった」。これがなかなか面白かった。年末から新年にかけて、映画はもっぱら小林聡美主演のものばかり見まくっていた。去年見た映画でベストワンは、黒澤明監督の『隠し砦の3悪人』だ。時代劇もいいなあと思って、何本か正月休みに見たのだが、いずれも主演がジャニーズ系のタレント。演技が稚拙で、なかなかストーリーに入っていくことができなかった。時代劇は役者が重要だよね。

1月10日 青森や新潟の豪雪映像がひっきりなしにお茶の間に流されているので、秋田も同じようにとらえられているのかもしれない。いまのところ秋田市内の雪はそれほどひどくはない。朝、玄関の雪かきをした。「今日は3回はやらないと」と腹をくくったのだが、午前中で雪はやんでしまった。それでも一寸さきは闇。一晩で50センチの積雪なんてこともある。なんとかこの程度で済んでほしいものだが、そう都合よくはいかない。いい年をして毎日散歩をして山に登っているのは、こうした非常時に「ちゃんと雪かき」ができる体力を維持するためだ。
(あ)

No.1246

美術手帳
(美術出版社)
2024年4月号
 雑誌を買うことはほとんどない。この欄で取り上げるのも珍しい。雑誌なのに2200円もしたのに、まずはびっくり。月刊誌の表紙絵に目が惹かれた。ジェニファー・パッカーという作家の黒人青年のポートレートだ。特集は「世界のアーティスト2024」で「〈多様性の時代〉のコンテンポラリー・アート」がテーマだ。昨年秋以来、散歩中の風景を接写レンズで撮る現代アート(?)風作品に目覚めてしまったのが動機かもしれない。この雑誌を読んだ後に、今度は無性に「現代アート」を描いた映画を見たくなった。昔見た「ハーブ&ドロシー――アートの森の小さな巨人」というニューヨークのドキュメンタリー映画だ。元郵便局員の夫と図書館司書の妻のふたりが、生涯をかけてコレクションした「現代アート」の物語だ。4000点以上のコレクションを最後はワシントンにあるナショナル・ギャラリーに寄贈するところで映画は終わる。この映画の続編があることを知り、それも見た。「ハーブ&ドロシー――ふたりからの贈りもの」という作品で、映画監督が佐々木芽生という日本人であることを知った。散歩の接写写真から「美術手帳」、そしてドキュメンタリー映画と、現代アートがつないでくれた。

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