Vol.283 06年2月11日 週刊あんばい一本勝負 No.279


春を一日千秋のおもいで待ってます

 冬のDM発送という、わが舎にとっての1大イベントを終え、先週の週末は少しゆっくりできそうな雰囲気だったが、急用で東京へ。秋田のあるアマチュア写真家の膨大な写真が、プロの写真家Hさんのもとにあることがわかり、その写真を見るためだ。Hさんは新宿でちょうど個展を開催中で、そこにお邪魔し、夜は個展の打ち上げと打ち合わせも兼ね一献。翌日は地方小のK氏と、いつものようにしんみりとさびしい男2人酒。出張3日目は休日。中野から阿佐ヶ谷、荻窪まで住宅地をぬって往復散歩。最近はじめた腹筋運動が功を奏しているのか身体が以前より軽い。2万歩歩いてもグッタリしなくなった。ところどころ雪が残る東京だが、こんなものは「積雪」のうちには入らない。
 仕事のほうはDM発送の注文で毎日数にすれば200〜300冊ぐらいの個人注文が入り、てんてこ舞い。そんな大事なときに事務所にいないのは問題なのだが、アルバイトのR君が短期間で見事に戦力になってくれたため心配せずにすんだ。それにしても若い人が事務所にいるのがこれほど頼もしいとは思わなかった。いざとなれば雪下ろし部隊の最前線に放り込めるし、個人的なパソコンのトラブルも家に来てもらい修理してもらえる。このR君、ネットで「廃道研究」のサイトを持つ専門家で、その廃道の本を書いてもらうつもりで事務所に来てもらったのだが、ちょうど勤めを辞めたばかりのフリーター状態とわかり原稿執筆に差し支えない範囲でアルバイトに来てもらっているもの。
 秋田では相変わらず雪雪雪の日々。たまに雨や晴れの日があるとそれだけで小躍りしたくなるほど心が浮き立つ。本当に早く春になってくれないだろうか。
(あ)

変身コーナー

 無明舎で制作している道路情報誌の「ラ・ルート」に、“地域と人のネットワーク”というページがありますが、その取材のため寒風吹きすさぶ男鹿半島に行ってきました。取材先は男鹿半島の中央部にある真山神社。ここで「NPO法人 なまはげエリア創造委員会」のメンバーが、ボランティアで「なまはげ変身コーナー」を設けていたためです。この日の秋田市は小雪が時々降る程度の天気でしたが、日本海に突き出した男鹿半島は海から吹きつける風雪が激しく、観光客に男鹿の荒々しさを見せつけているようでした。この日は小正月の行事として3日間行われる柴燈祭り(せどまつり)の初日で、神事の後に巫女さんによる奉納舞があったり、年取りの日に行われる「なまはげ行事」の再現コーナーがあったりしましたが、クライマックスは真山から神社に向かって下りてくる10数匹のなまはげが、荒々しいうなり声で練り歩くシーンという、観光的側面が強い祭りです。その広場の一角で観光客になまはげが身に纏うケデ(藁の衣装)を着せ、面をつけてくれる「変身コーナー」を設けたもので、普段は女性がなまはげの面に触ったりすることはご法度ですが、この日だけは特別許されるそうです。そのため都会から来た観光客や外国人、小学生までが大喜びでなまはげに変身し、記念撮影をしていました。被写体としてもアマチュアカメラマンたちに人気で、特にかわいい子供や、美しい女性が変身するとフラッシュが盛んにたかれていました。
 このような観光なまはげは楽しくていいと思いますが、群衆の中で子供を追い掛け回し、ただ怖がらせるなまはげはいかがなものでしょうか。本来のなまはげは親の言うことをきき、家の手伝いをし、素直に育つようにという、子供やお嫁さんに対するしつけの役割を果たす面も強かったのですが、観光なまはげは、ただ声を荒げ子供を怖がらせて喜んでいるような気がして違和感をおぼえます。この日も子供と見ると大声を上げて近寄るため、幼児は恐怖で泣き叫び大変でした。習俗としての流れのなかで行うことと、ただ怖がらせるのは違います。これでは恐怖の幼児体験にしかならないのではないでしょうか。
(鐙)

このかわいい子がなまはげに変身

地元の小学生たちがなまはげについて学習し、観光客に手作りのテキストを配っていました

秋田新幹線の車窓から

 私は出張の移動に電車を使うことはほとんどありません。出張先が東北や関東、北陸方面であれば95%以上の確立で車を使います。理由は、複数の出張先を回るには電車では時間がかかる。家〜駅〜出張先〜駅〜家の乗り換えや時間調整が面倒。混んでいる電車だと隣に人がいると気を使う。天災でストップすると自力で移動できない、荷物の量や夜間の移動が制限されるなどで、車を多用するのはこの逆の理由です。このほか電車の料金が高すぎることも大きな要因ですね。移動中、本が読めるのは魅力ですが、1人で車を運転しながら好きな音楽を聴き、さまざまなことを考えたり、気が向いた所に立ち寄ったりする魅力も捨てがたいものです。しかし、先週日曜日の盛岡行きは秋田新幹線を利用しました。「仙岩峠フォーラム」という催しに参加するのが目的でしたが、終ってから懇親会があったためです。
 朝の8時ころに秋田駅を出る電車に乗りましたが、そのときはちらほらと小雪が舞う程度の曇り空。電車が秋田市から大仙市協和に移動したあたりから青空が見え始め、気分良く車窓からの雄物川や、積もったばかりの雪が日を浴びて輝く様を眺めていましたが、角館の手前から猛吹雪になり、電車が巻き上げる新雪と吹雪のためほとんど外の景色が見えないホワイトアウト状態となりましたが、それが幻想的な雰囲気をかもし出しちょっと感激。しかし、田沢湖駅を過ぎると雪はやみ、和賀山塊から流れ出す生保内沢の急流や、急峻な崖、雪煙を舞い上げる奥羽山脈の景色が遠望できました。県境の仙岩トンネルを抜けると、積雪は多いのですがだんだん空が明るくなり、雫石川支流の志戸前沢周辺の景色を堪能し、盛岡に近くなるとまた青空になるという、天気と景色の変化を楽しむことが出来た1時間半でした。のんびりと車窓の風景を楽しみながら、駅弁を食べ、珈琲を飲み、文庫本を読む合間にうとうとする。こんな移動空間を味わうのも悪くはないな、と思える新幹線「こまち」の車内でした。
(鐙)

雄物川の支流玉川と神宮寺嶽


角館付近の雪景色


県境に近い生保内沢

No.279

一場の夢(集英社)
西木正明

2006年の正月はこの本を読んで過ごした。サブタイトルは「二人の「ひばり」と三代目の昭和」。そう、美空ひばりをめぐる物語である。いや美空ひばりをとりまく周辺と背景の物語といったほうがいいか。480ページの長編ノンフィクション・ノベルだが一気に読んでしまえるほどおもしろい。読んで感じたのは、いまさらといわれそうだが芸能界と裏社会(暴力団)の深くて親密な関係である。美空ひばりと山口組3代目との関係は有名だが、ひばり自身はさておいてもその弟、両親も暴力団と当たり前のように親密に付き合っていてなんの問題も起きなかったのが昭和という時代も今になって考えれば不思議な〈時間〉に思える。もちろん芸能とヤクザの関係は今も続いている。われわれ凡人にはなかなかうまく理解できないのだが、歌を通じて国民的英雄になったスターと、その背後に当たり前のようにいる暴力団の存在のギャップがうまく結びつかないからだろう。森達也の新刊『悪役レスラー』でも芸能界、在日朝鮮人、暴力団が隠れた3大テーマになっていて、あらためてその関係の深さに驚いたのだが、〈昭和〉という特異な時代を生きた私たちは、もしかすると「ヤクザ」という存在に(自分に害が及ばないかぎり)芸能界と同じような憧れがあり、彼らを憎めない国民なのでは、と疑いたくなるほどだ。本書で残念だったのは、期待していたもうひとりの「美空ひばり」という名前の元女優の記述が少なかったこと。この女性の人生が鮮やかに浮かび上がれば、本書の全体の印象はずいぶん変わったものになったに違いない。

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