Vol.300 06年6月10日 週刊あんばい一本勝負 No.296


いろんな方から本をいただきました

 いろんな方からご本をいただきました。まとめて紹介させていただきます。トップバッターは内澤旬子『センセイの書斎』(幻戯書房)。本のある仕事場を訪ねたイラストルポだが、これが楽しい。知っている登場人物も何人かいるのだが、本棚の書名まで手書きで丁寧に書いているので、意味もなくドキドキしたり、どのページから何度読んでも新しい発見ができる。内澤さんは小舎刊・『ナンダロウアヤシゲな日々』の装丁をしてくれた人。金丸弘美著『フードクライシス』(ディスカバー)もカラーイラスト満載の.見ためは明るく楽しそうな本だが、書かれている内容は背筋が寒くなる「食」の本。イラストとデータで見開き一項目を解説、これはいろんなタネ本に使えそうだなあ。去年は10冊以上の新刊を出し絶好調の、これもイラストレーターでエッセイストの平野恵理子著『スーパーマーケットいらっしゃいませ』(ソニーマガジンズ)。エッセイストよりもイラストレーターとしての平野さんの才能全開の本である。と、ここまで紹介した3冊とも全部イラストの本であるのに今気がついた。単なる偶然である。4冊目の麻野涼著『闇の墓碑銘』(徳間書店)はいただいたものではなく、本人からのメールで知り買ったもの。麻野涼というより高橋幸春でブラジルもののノンフィクションを書いている方、というほうが通りがいいかもしれない。アウシュビッツのユダヤ人虐殺の医師・メンゲレがブラジルで生きている、というなぞを追う国際冒険小説で、意外なアウシュビッツに関する事実の数々を知ることができた。現代史の勉強にもなる小説である。
 いただいた本というのは実は読まないケースが多いものだが、上記4冊はすべて引き込まれ読破してしまった。楽しませてもらいました、ありがとうございます。
(あ)

No.296

途方に暮れて、人生論(草思社)
保坂和志

 「希望」なんて、なくたっていい。「いまここにいること」を肯定する、まったく新しい人生論――という実にかっこいいオビ文に興味魅かれて読み始めた。40代の芥川賞作家の「人正論」というのも、なんだかすごいなあという感じだが、個人的には何度かこの作家の小説にトライして挫折している。「おもしろくない」と思ったのは、たぶんこちらの感受性の鈍さ、理解力の不足にあるのは明白なので、まずはエッセイを読んで、その人となりに興味を持てば、そこから小説世界に再トライできるかもしれない、と考えたからだ。現代の「生きにくさ」というのは幸福なのではないのか、そこにこそ人生を感じることができる。このへんは共感できるところが多いのだが、実はこの本そのものが「人正論」のために書き下ろされたものでない。それが中盤以降わかると一挙に読むスピードは落ち本への興味は半減してしまった。人生論をテーマにした連載をまとめたものでもなく雑誌と出版社のウエッブに書かれた2本の原稿を編んだものなのだ。草思社お得意の「うまいタイトル(書名)」に一本とられたのである。でも、小説ではよくわからなかった著者の本音や日常がよくわかるエッセイではある。さて本編(小説)をどうしようか。

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