Vol.301 06年6月17日 週刊あんばい一本勝負 No.297


久しぶりの出張の旅

 古くからの出版の友人を訪ねて長野市まで。前日までどうしても済ませなければならない仕事があり当日の朝一番の飛行機で東京へという強行スケジュール。長野新幹線に乗りかえ午前中には長野市着。善光寺前の料理屋さんでいろんな方たちと会食後、午後4時の新幹線にのり高崎経由で新潟へ。高崎で出版社をやっているO夫妻もご一緒で車中退屈しなかった。でも眠い、朝5時起きだもんなあ。ひとり新潟の駅前ホテルに一泊し翌朝、佐渡に渡り日中観光バスでのんびり。この日本で一番大きな島が山多く緑豊かで、たいへんな米どころ酒どころであることを初めて知った。海水から直接塩をつくる製塩工場も見学。翌日、新潟に戻り、羽越線で鶴岡へ。ここで著者と会い打ち合わせ後、駅前ホテルに投宿。友人からあらかじめ聞いていた飲み屋はすべて満席で門前払い。予約なしの一人旅は何かと不自由なことも多い。やむなく駅前の食堂で夕食。翌日午前中に秋田に帰りつく。旅の間、山本文緒『プラナリア』、神坂次郎『サムライたちの小遣帳』、高野秀行の旅ものなど、あらかじめ持っていた4冊の文庫本はみんな読んでしまった。車中も宿のなかも退屈だったからだろう。もう飲んだくれて時間をつぶすようなことが、ほとんどなくなったせいもある。それに地方都市でうまい居酒屋に当たる確率は年々低くなっている。あてずっぽうではとても無理で、信頼できる情報を仕込んでから出かけるのだが、それでもハズレが多い。こちらの嗜好が偏っているのだろうか。地方都市の飲食店の味のレベルは全体的に低下しているのは基準がコンビニやファーストフードの味まで下がったせいかも。若い女性の従業員は一様にマニュアル以外の業務知識皆無で、ガックリくる。佐渡の温泉宿の仲居さんは中国人で「ぬる燗」がわからず往生したし、老朽化した鶴岡の駅前ホテルではクーラー音がとまらず夜中に部屋を変えてもらう騒ぎに。もう大金持ちでなければ快適な旅は難しい本格的な「格差社会」に入ったのかも。
(あ)

今週の花

 今週の花は、白と紫のスプレーマム、白いデンファレ、ひまわり、黄色いオンシジウム。
 オンシジウムはラン科オンシジウム属で、花色としては黄色がもっとも一般的ですが、赤やピンク、オレンジ、白などもあるそうです。別名・和名は、ダンシングバレリーナ、ダンシングレディオーキッド、バタフライオーキッド、スズメラン、ムレスズメラン(群雀蘭)など。どれも、踊ったり飛び回ったりしているイメージが共通した命名です。
(富)

No.297

ほとんど記憶のない女(白水社)
リデイア・ディヴィス

 なんとも不思議な本だ。短編小説集なのだが短いものはたったの3行。長いものは30ページ近くものもある。そのほとんどが脈略というか整合性というのか共通項を見い出すのは不可能な内容で、にもかかわらず何となく物語りに引き込まれ、読み続けてしまう不思議なテイストを持った作品集である。巻末の訳者の「あとがき」で、著者は作家としてよりフランス文学の翻訳家として有名な人で、あの難解なプルーストの『失われた時を求めて』の訳で高い評価を得た人だと書かれている。しかし創作のほうでも作風がしばしばカフカやベケットにたとえられ、「アメリカ文学界の静かな巨人」と称されることもあるというから、なんかすごいね。「俳優」という短編は、自分の町に住むHという人気俳優とその代役のJという俳優についてのお話で、どちらも一長一短あるが、都会から名優Sがやってくると、とたんに2人ともかすんでしまう。でもSが去り、またいつものように街にHとJの2人の俳優が残ると、街の人たちはほっとする。自分たちと同類の、欠点の多い役者が好きなのだ――というだけの話しで、これはわずか16行、これっていい話だよなあ。

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