Vol.382 08年1月12日 週刊あんばい一本勝負 No.378


波乱の幕開けです

 年明け早々、自費出版の「新風舎」が、その2日後には「草思社」が民事再生申請を出しました。波乱の幕開けです。新風舎は昨年暮れから「倒産は時間の問題」といわれていましたし、業界の評価も極めて低い版元なので、驚きもほどほどですが、草思社の倒産はショックでした。
 数年前、東京の街を歩いていて偶然に千駄ヶ谷で大きな7,8階建ての派手なファッションビルに「草思社」の看板を見つけたときは、何かの間違いだろう、と何度もビルの周りを歩きまわったほどです。わずか40名弱の小出版社には極めて不似合いなモダンな自社ビルで、草思社の出版物とイメージがうまく結べなかったの。創業者Kさんのもうひとつの職業であるアパレルメーカーが同居するファッション系ビルであることを聞き、納得したのですが、昨年暮れ、そのビルを売り払ったあたりから倒産説はささやかれ出しました。

 今年は書店の相次ぐ倒産に続いて、出版社の倒産ラッシュが懸念されています。出版はすでに斜陽から絶望産業に移行した、という人もいれば、本は残るだろうが職業としての編集者や産業としての出版は消えていくだろう、と予想する人もいます。
 アメリカでは去年から、米アマゾンが「キンドル」というブックリーダー(読書端末)を発売し、好評のようです。これまでの読書端末と違い、コンテンツを携帯電話回線でアマゾンから購入できる仕組みで、接続料金もアマゾンの負担、コンテンツ料金だけを支払うようになっている。ほとんどの新刊本のダウンロードが10ドル以内、ニューヨークタイムスなどの新聞も2ドル以下で月刊定期購読ができるという。パソコンを使わず電話で直接コンテンツを取り込めること、1冊の本の購入料が安いこと、さらにアマゾンという強力なコンテンツ・プロバイダーの存在などから、これで一挙にペーバーレス化が進むのでは、と期待されているそうだ。いやはや、どこまでついて行けるのか、不安はいや増すばかりですが、老骨に鞭打って、今年もがんばります。よろしくご指導のほど、お願いします。
(あ)
元日の午後からはきれいに晴れ渡りました
元旦の筑紫森の頂上です
阿仁スキー場の樹氷。このロケーションに参って今年はスキーをするぞ、と意気込みました

No.378

演出家の仕事(岩波新書)
栗山民也

 コンサートや芝居を観るたび、指揮者や演出家が占める役割がどの程度のものなのか、思い悩む。半世紀以上生きてきた今もその思いはかわらない。時に知ったかぶりで「演出がよかった」とか「あの指揮者にかかれば」ってなことを吹いたりするが、彼らの「仕事」の内実がどんなものか、皆目わからない。そんなところから本書を読み出したのだが、やっぱりよくわからない。「優れた俳優は、ちゃんと〈聞く〉ことのできる人」と著者はいう。記憶の声を聞くことで、他者への想像力を限りなく広げていくことができるからだ。たとえば稽古中に、誰かがうっかり何かの小道具を落としてしまったとき、俳優はその音を無視して稽古を続けるべきか、それともその音の方角を振り向くのか。自然の音に対して反応するのが「いい俳優」だそうだ。演劇は歴史を再生する装置、というのが著者の核にある考え方だ。巻末に井上ひさしの『ロマンス』演出日記が付されている。芝居がはじまるまでの演出家の孤軍奮闘がよくわかる。演出家は芝居が始まるまでの主役、といってもいいかもしれない。オーケストラの指揮者も同じようなものなのだろうか。でも指揮者は裏方じゃないよな。

このページの初めに戻る↑


backnumber
●vol.378 11月15日号  ●vol.379 12月22日号  ●vol.380 12月29日号  ●vol.381 1月2日号 
上記以前の号はアドレス欄のURLの数字部分を直接ご変更下さい。

Topへ