Vol.400 08年5月17日 週刊あんばい一本勝負 No.396


本屋さんや業界のこと

創業が大正12年という80年以上の歴史を持つ秋田市土崎の老舗、K書店の閉店(廃業)のあいさつ文が週末に届いた。もう書店の廃業や倒産には驚かないのだが、この文章の末尾に主人の自筆メモで、「書店人として、店頭で郷土出版物が売れるのが一番うれしい時でした」という1行があった。これにはガラにもなく目頭が熱くなってしまう。
気になっていた草思社の再建は文芸社に決まった。出版業界の反応は「文芸社の丸儲け。現実的に再建は難しいのでは」という意見が多勢を占めているようだ。それにしても文芸社、新風舎を抱え込むあたりまでは同業(自費出版)だから「あり」だとは思っていたが、草思社にまで手を出すとは。草思社のブランドを使って自費出版の需要拡大を狙っているのは明らかで、ここまでくるとあざといというよりも、文芸社にまったく太刀打ちできなかった既存大手出版社の力不足に、暗澹たる気持になってしまう。
その新風舎倒産の余波なのかもしれないが、全国各地から出版依頼や原稿が送られてくる。もちろん自費ではなく企画出版希望だが、業界では名前のよく知られた著者の方も少なくない。過去に数冊、大手出版社から本を出していて、そこに断られたのでウチに持ち込むケースが多いようだ。そうしたセミプロクラスのなかには出版界の現実をほとんど理解してない人もいる。自分から売り込んできてダメとわかると「じゃ講談社から出すから」と捨て台詞で電話を切る大学の先生や、没になった原稿を返されて「ボツにするんだったら最初から読むな!」と怒り出す「作家先生」もいる。何の前触れもなしでいきなり送りつけてくる原稿にマシなものはほとんどないというのは編集者の常識なのだが、送られてくると、どうしても目を通してしまう。編集者の性ですハイ。いやはや疲れます。
(あ)

No.396

通販な生活(講談社)
日垣隆

 待ちに待った本。この人の「買物」本はとにかく面白い。2時間もあれば読めてしまうのが欠点と言えば欠点だが、今回の本で気になるところがあった。本の中身ではなく装丁や見出しである。題字はもう誰が見てもまちがいなく平野甲賀である。各文章の章見出しから小見出しまでゼイタクなことに平野さんの書体である。ところがブックデザインは日下潤一さん。このすっきりしたきれいな色の装丁は日下さん特有のもの(双葉社ものの本系)なのはわかるが、平野さんの名前は本のどこにもない。平野さんのあの独特の書体をマネたのかも、と考えもしたが、あれだけ自分の世界を作り上げた人の書体はそう簡単にマネられる訳がない。もうまちがいなく平野書体なのである。そうか、平野さんの文字はすでにフォントとして「一般化」して売られているから、わざわざ本人の名前を出さずに使っても構わなくなっているのだ。たぶん、それしか理由は考えられない。日下さんは平野さんを尊敬しているし(自慢を許してもらえれば小生、自分の本をこの2人に装丁してもらったことがある)、こんな形の装丁をするのも平野さんへのオマージュなのかも。ところで本の中身だが、小生も数年前までかなりのヘヴィー利用者だった。この本に出てくるものの半分くらいは持っているが、小生の場合、地元で手にとってモノを買える大きな店が皆無、という事情あっての通販なので、正しい「通販な生活」ではないかもね。

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