Vol.397 08年4月26日 週刊あんばい一本勝負 No.393


酒田と、ある1冊の本について

たぶん何十年ぶりだと思うのだが、早々と5月GW中の予定が決まった。毎年、GWは原則として事務所に引きこもり、個人的な原稿を書いたり、やっかいなデスクワークを片付けるのが定番で、外へは極力出ない「努力」をしてきた。それが今年は、山形酒田市の友人と鳥海山周辺を寝袋もって(使わないかもしれないが)うろつくことになった。4泊5日の山旅。うれしい。
それにしても最近、酒田づいている。この町が好きな理由はいろいろあるが、秋田に近いのに「秋田にないものがたくさんある」のが魅力なのだと思う。その魅力の一端を知る格好の本が出た。いま話題になっている岡田芳郎著『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れられたのか』(講談社)。
実はこの本、5,6年前に小冊子の形でその原本が無明舎に送られてきたものだ。著者からの丁寧な手紙つきで「ちゃんとした本にしたいので、感想を聞かせてくれ」といった内容だった。もうどんな返事を書いたのかも忘れてしまったが「ちょっと物語が平板だなあ」という印象をもったことを覚えている。
その後、連絡はなかったのだが、本の「あとがき」を読むと、そのあたりで著者自身が長い闘病生活に入り苦闘の時期だったようだ。先の見えない闘病生活を支えたのは「この本を書き上げる」という強い意志だったようで、なるほど、小冊子で読んだ時とはまるで印象の違う本になっていた。いい本である。
この本から受けた示唆は少なくない。小さな北国のレストランや映画館に情熱を燃やした男の生涯を、こんなふうに切り取り、取り上げれば、ちゃんと「全国区の物語」になる。ここが編集者として最もショックを受けたところである。本のテーマである映画館やレストラン、主人公にも会ったことはあるし、まして原本が持ち込まれた経緯もあるのだが、それをまったく本にしようと思わなかった自分に対する情けなさもある。たぶん、こうした大胆な書名をつける編集者としてのセンスが自分には決定的に欠けているのだろう。いやはや、いろんなことを考えさせる本だなあ。
(あ)
このタイトルが大成功
鳥海山の眺望が素晴らしい酒田の街
酒田で泊まるホテル

No.393

登山不適格者(NHK出版)
岩崎元郎

 かなり以前にこの本は買っていたのだが、読むことなく本棚の隅で眠っていた。登山に興味があるわけでもないのに、どうしてこの本を買ったのか、今となっては思い出せない。たぶん、「いつか山登りをする日のための参考に」という理由か、題名があまりに直截的なので、何かの比喩を含んだ登山おもしろエッセイと勘違いして買ったのかもしれない。それにしてもこの書名はインパクトが強い。実はその書名どおりの意味しかない単純なタイトルなのだが、それは読んでみてわかること。なあんだ、という気分になる人もいるのではないか。小生も1年ほど前から山に登るようになった。そこでようやく読む気になったのだが、「山に登ってはいけない品行のよろしくない輩への警告の書」というそのまんまの本なので、いささか拍子抜け。「はじめて山へ登る人へ」とか「登山入門」といったありきたりの書名では売れないと見て奇をてらったのかもしれないが、少々おせっかいな書名だな、という気がしないでもない。山に運動靴スタイルで登る人、雨具やヘッドランプを持たない人、携帯電話で救助隊を要請する人……確かにそうした行為は言語道断だが、その結果、事故やトラブルに巻き込まれ、登山から離れていく。そのことも登山の持っている自浄作用である。他のスポーツや趣味でも同じような「落とし穴」はいくらでもあり、特に目くじらを立てることでもない、ような気がするのだが。

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