Vol.394 08年4月5日 週刊あんばい一本勝負 No.390


ゆっくり歩き続けます

 年度末のあわただしさから一転、静かな1週間でした。
 仕事もヒマ、来客もなく、電話も少ない、この時期でなければ考えられない一年の谷間のような時期ですね。
 30日(日)の稲倉岳(1554メートル)雪上登山で、5時間登りっぱなしなのに頂上はまだ先、という得がたい体験をしてきました。その附録(疲労)なのか右ひざが猛烈に痛みだし、この1週間、外に出ることもなく、おとなしく自宅と事務所の往復で過ぎてしまいました。
 これを書いている今も右ひざがジンジン悲鳴をあげ、これから近所の整骨院に行ってマッサージしてもらいます。打撲や捻挫といった原因のある痛みではなく、過度の疲労が局部に集中してしまった痛みなので、全身マッサージで身体のゆがみや疲労をとるのが効果的、と整骨院のTさんに言われました。

 さて、なにもかもが新しく生まれ変わる4月です。山のほうも雪を卒業、春の花山行になります。それはそれでうれしいのですが、今年の冬、雪山の楽しさをはじめて知ったせいもあり、花よりも雪、というのが今の正直な気持です。雪との相性がいいのかもしれませんね。
 新年度になったからといって、仕事のほうは何か目新しくなることはありません。もう30数年やってきたことが、粛々と繰り返されるだけなのですが、出版界そのものは、大きな岐路にさしかかっているのは間違いないようです。
 大きな岐路というのは言葉のあやではなく、文字通り、活字の存亡や流通、印刷までもふくめた、革命的な「危機」のことです。この数年の試行錯誤で未来の活字産業の形が決まっていくという重要な時期にさしかかっているような気がします。まあ、満身創痍になろうとも路地裏を止まることなく、ゆっくりですが1歩1歩、歩き続けたいと思っています。
(あ)
後ろに見えるのが鳥海山・稲倉岳で
近所(といっても御野場)にできたログハウスの日本蕎麦屋です。なんかヘンだけど美味しい
市内で一番高いビルの青空・都会っぽいイメージで

No.390

複眼の映像(文藝春秋)
橋本忍

 副題に「私と黒澤明」とある。どうしても書いておきたかった脚本家の遺書のような本、だそうだ。「そうだ」というのはBSのテレビ番組で著者のインタビュー特集をたまたま見ていたら、そう本人がしゃべっていたからだ。この脚本家にも、黒澤明にも、私自身はそれほど強い思い入れがあるわけではない。が何とはなしに観た、そのテレビでの本人の口調に鬼気迫るものがあり、本書を求めてしまった。読んで、あまりの面白さに、驚くやらショックをうけるやら。その勢いで一晩で読了してしまった。映画の本なのに「脚本段階の映画世界」のことしか書かれていない。というのがユニークだ。役者や裏方、製作サイドのややこしい話や、おもわせぶりな当事者だけが知っている「おいしい話」など皆無。ひたすら脚本現場のみが、自分が関わった黒澤作品を中心に語られていく。この脚本作りの段階で黒澤映画の魅力や謎、限界がかなり赤裸々に語られていくわけだがミステリーのような味わいがあるので、ここには書けないのがつらいところ。著者によれば「黒澤の最高傑作は〈七人の侍〉と〈夢〉の2作だ」という。世界的に評価の高かった「乱」や「影武者」は無残な失敗作、と断言している。その欠点も脚本家の目できっちりと書かれていて、深く納得。いい本だなあ。

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