Vol.401 08年5月24日 週刊あんばい一本勝負 No.397


上野近辺・「かもめの日」・森吉ひとり登山

久しぶりに東京2泊3日の旅。2日間とも夜は重要な会合(飲み会)があり、緊張したが、陽の高いうちはブラブラ都内をさまよった。上野で開催されている「薬師寺展」はぜひ観たかったものだが、会場に行くと80分待ちの長蛇の列にガックリ。お隣、芸大で開催中の「デッサウのバウハウス展」へ鞍替え。ピンチヒッターだったが、けっこう見ごたえがあった。
それにしても上野近辺は面白いなぁ。個人的には今最も注目の地域で、これも前から興味あった千駄木・往来堂書店を訪ねてみる(店長はいなかったが)。さらに両国の江戸東京博物館へ移動、「ぺりーとハリス展」を観てくる。お隣の国技館は場所中で、支度部屋入りする力士が到着するたび黄色い声が上がる。こちらもつられて垣根越しに間近を通る力士にシャッターを押す。それにしても力士の着物姿が「似合わない」。なぜなんだろう。とくに下っ端力士の浴衣姿がだらしなく感じられる。

今回の東京行きは行き帰りとも電車。飛行機を使わなかったのは電車の中でチェックする原稿と読みたい本があったから。一心不乱に4時間も集中できるチャンスはこんな時しかない。原稿チェックは2時間ぐらいで集中力が切れた。そのかわり(?)読書には集中。読んだ本は黒川創『かもめの日』(新潮社)。この小説は面白かった。黒川さんもこの1冊でプロの小説家としての地位を不動のものにしたのでは。ジャンル分けはもう古臭いが純文学とエンターテイメントが絶妙にブレンドされていて、もっと読みたい、という気持ちになった。

最後にちょっと自慢話を。17日(土)に一人で森吉山(1454m)に登った。生まれて初めて一人で山に登ったのだが、誰も褒めてくれないので、その夜は一人で祝杯。地図やガイドブックを何度も読み入念に準備して出かけたのだが、行ってみるとほとんど雪山で登山道は消えていて、うろたえた。のっけから通過点である一ノ腰山頂ルートを外れ、迂回ルートで道に迷い後から来た中年夫婦の後を付いていくことで切り抜けた。2時間半でどうにか山頂に立つことができたが、帰りが不安で早々と下山。途中で「山の学校」のM親子にバッタリ。再び一ノ腰分岐点前にして迂回ルートがわからなくなり、後から来た女性の後をくっついて一ノ腰山頂に。そこから一気に下山したのだが、災い転じて行き帰りを違うルートで楽しむことができたわけである。天気は上々だったが「雪」という難敵をまったく計算に入れていなかった。次の単独山行は太平山の予定だが、「ヤバイと思ったらすぐ下山」をモットーに、なんとか登頂したいものだ。
(あ)
彼方にみえるのが森吉山頂
まじかで力士を見ても迫力が…
「薬師寺展」は長蛇の列

No.397

阪急電車(幻冬舎)
有川浩

 阪急宝塚駅は梅田(大坂)へ直接向かう宝塚線と、神戸線へ連結する今津線とが、「人」の形に合流している駅、だそうだ。JR宝塚線も乗換えができるようになっており鉄道三線が合流する、にぎやかなジャンクションだ。もちろん小生は1度も乗ったことはない。この宝塚駅から西宮北口駅までの8つの駅名をそのまま題材、題名にして、それを折り返す形の16の物語で構成した連作短編集である。なによりも各駅を小説の舞台にした発想がいい。これは著者の夫のアイデアだった、と「あとがき」に書いている。片道わずか15分で通過する関西ローカル線を舞台にしたこと事態が新鮮で、勝負あり、という感じだ。ちなみに東北人は、私も含めて関西のドキツサに最初から食わず嫌いの人が多い地域なのだが、この本を読めば関西嫌いはかなり改善されると思う。若者が主人公のケースが多いからか、会話の関西弁があまり露骨でないのも好感が持てる。電車の中には、乗客の人数分の人生が存在する。その人たちが駅毎に下りては乗りを繰り返す。恋がはじまり、人生を途中下車し、脇役に過ぎなかった人物が主役になり、不明なシチュエーションの謎が後半の駅で解き明かされる。同じ駅が二度出てくるという「折り返し」の構成が効いている。著者は「図書館シリーズ」で有名になった人気作家だが、そうか女性だったのか。

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