Vol.420 08年10月4日 週刊あんばい一本勝負 No.416


週末雑感

連日の好天続きで、本当に大丈夫なの、と空に向かってつぶやきたくなる。秋田の秋って、いつもこんなに晴れ渡っていたっけ。久しぶりに東京に行ったら、逆にけっこう寒かったりして、どうなっているの。

都内を歩いている人たちがいやにゆっくりなので、息子に「東京も不景気のせいかセカセカしなくなったね」と振ったら、「今日は日曜日だから」と言われてしまった。東京では生まれてはじめて九州居酒屋で「もつ鍋」を食べた。だし汁でもつとキャベツを煮てポン酢で食べるものだが、うまかった。

杉江由次著「『本の雑誌』炎の営業日誌」という本が10月10日に出る。日本全国の書店から予約注文のファックスがはいってくる。秋田や東北の本を中心に出版してきた田舎出版社にはめったにない珍しい現象だが、本の内容がいわば全国の書店員たちへのオマージュでありリスペクトなので、そのことに書店員たちも反応してくれているのだろう。うれしいし、ありがたい。

出版パーティーという「慣習」はすっかり影を潜めてしまった。先週行われた「秋田おそがけ新聞」の出版パーティーは、本当に久しぶりの出版パーティーだった。著者が妄想家を自認する「変人」だけに、超ユニークなパーティーで、いつもは主催者なので楽しむことは二の次だったのだが、笑いっぱなしの楽しい一夜だった。さすがに出席者もヘンな人が多く、いろんな人と知り合いになることができた。後は本が売れてくれるのを祈るだけ。

それにしても最近は30代や40代の活きのいい若い人たちと知り合う機会が増えた。いいことだ。彼らからエネルギーをもらい、すこしでもこちらの枯渇を糊塗したい、という切ない願望もある。平均年齢の高いうちの事務所に、こうした若い人たちが自由に出入りし、議論し、企画提案し、イキのいい情報をもたらしてくれれば、もう10年は無明舎も生き延びれるのでは、などと都合いいことを考えてしまった。
(あ)

No.416

曇天に窓があく(講談社)
阿部牧郎

 年をとると歴史や時代物に興味が沸いてくるのは、「現代のスピードについていけなくなるから」と喝破した若い作家がいた。なるほど、と思うが、少し補足すれば、未来が少なくなった人間は、限定的な将来より豊かな過去にすがりつくしか術がなくなる、といったほうが当たっている。かくいう私もその口で、若い頃はほとんど興味のなかった時代小説や江戸時代の人物ノンフィクションなど、好むようになった。その舞台が生まれ育った秋田藩や佐竹家の武士だったりすると、いちもにもなくうれしくなって、夢中になってしまう。
 本書はその秋田藩の話である。貧乏藩士が御前試合で勝つことで、藩の出世と道場の後継者の2つを手に入れようと努力する幕末青春物語だ。時代背景も幕末の混乱期、藩の動きが風雲急を告げる、という時代的にも魅力的な舞台設定である。著者は秋田出身でエロス系のエンターテイメントに腕のある作家だが、
 前にも「静かなる凱旋」という秋田鹿角を舞台にした幕末明治ものを書いている。作家本人の興味の対象が「時代物」に移行してきたのかもしれない。本書は幕末青春ものとしては面白く読めるが、いわゆる郷土ものとしては不満が残る。ほとんど秋田藩にかかわる記述がないからだ。残念。

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