Vol.422 08年10月18日 週刊あんばい一本勝負 No.418


タイトル(書名)には苦労してます

10月に出る(出た)本は力作ぞろいだ。編集者であるこちらもついつい力が入り、書名(タイトル)に並々ならぬ時間をかけました。でも終わってみると、すべて、その本に最初につけられていたもの(仮題)を、そのまま使う結果に。『「本の雑誌」炎の営業日誌』はWEB版の連載時そのままだし、塩野米松さんの長編小説『ふたつの川』(伝・炭焼き常次郎)も新聞連載時と同じ。東北の登山口だけの情報ガイドブックも仮題のまま進行し、最後まで斬新なアイデアなしで『東北登山口情報500』と、味も素っ気もないところに着地。
いや、いろいろと努力はしたんです。したんですが最初の題名のインパクトをこえるタイトルが最後まで出てこなかった。無理やりヘンなタイトル付けて内容を台無しにするのよりはマシかな、とも思っているのですが。

本のタイトルについてくどくど書いたのは、今読んでいる新潮文庫の佐藤雅美著『将軍たちの金庫番』がものすごく面白かったため。文庫本なのでカバーは漫画風のイラストで、千両箱から小判を取り出す侍が描かれている。徳川幕府の経済をお金の流れでわかりやすく解説した「江戸の経済通史」なのだが、学者的な論文でもなければ論考でもない。あくまで読者側に立って難解なことを面白く読ませるエッセイだから、このタイトルはピッタリだ。
ところがこの本の書名は20年間で3回変わっている。初版は太陽企画出版という版元から『江戸の税と通貨』という書名で刊行された。5年後に徳間文庫から改題されて『江戸の経済官僚』というタイトルで刊行されている。そして今年、『将軍たちの金庫番』として刊行されたわけである。
たぶん、内容が抜群に面白いと評判になったとしても、前二冊の書名では買おうという気にならなかったのは明白だ。3度目の改名で、私のような歴史音痴にも「読んでみよう」という気を起こさせたのだ。書名は大事なのである。

わが舎で、ここ数ヶ月間に出た本だけに限っても、人気ブログを本にした『秋田おそがけ新聞』もそのまんま、4コマ漫画『村に生きる』もブログ題名と同じ。書き下ろしの定年後の日々を綴ったズッコケエッセイも『定年! 徘徊親父日記』、ブラジル移民の赤ひげ先生といわれた医師の伝記は『高岡専太郎』と名前を書名にしているシンプルさ。なんとなく編集者として努力を怠っているような気分にすらなる。でも、けっこう真剣に悩みまくっているんです、ホント。
(あ)

No.417

何でも僕に訊いてくれ(筑摩書房)
加藤典洋

 出版社のウェブサイトに連載された「21世紀を生きるために必要な考え方」という問答集をまとめたものである。本書の前に「考える人生相談」という題名ですでに1冊編まれているから、これは続編ということになるのだろう。質問そのものが若者からのものが多いようで、老年の入り口に差し掛かった読者(私のこと)としては、その問題意識に共鳴することじたいが難しい、というハンディのある本である。著者は悩みながらも真摯に質問者に対応しているし、ヘンな質問への距離のとり方もさすがで、そのへんのフットワークは軽い。
 それでもなかなか本書に集中して入っていけないのは、やはり質問そのものが脈略のないフワフワしたものが多かったせい、かな。人生相談というのは、相談者の質と回答者のレベルさえバランスがとれれば、これほど面白いものはない。もしかすると回答者よりも質問者の質により高い要求が求められる類のゲームなのかもしれない。前に谷川俊太郎の「谷川俊太郎質問箱」(ほぼ日ブックス)という本を読んだ時、たぶん、質問回答もので、これ以上の本はできないだろうな、と思ったことがある。それほど素晴らしい本だった。質問も質問なら回答も回答で、抱腹絶倒あり、深刻な悩みあり、はぐらかしたり茶化したり、一緒に考え込んでしまう吸引力が質問にも答にもあった。あの問答集の後では、どんな本も色あせちゃうよなあ。

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