Vol.480 09年11月28日 週刊あんばい一本勝負 No.475


文化暴走族のあんちゃん

秋田駅の東側に秋田大学がある。そこから太平山のみえる方角を目指してまっすぐに歩いていくと秋田大学医学部やノースアジア大学に至る。秋田市駅東はいわば大学街といっていい地域である。その一角にわが無明舎出版も位置している。秋田駅から裏通りを抜けて秋田大学まで歩き、そこから医学部に至るまでの通りを、私は勝手に「手形大学通り」と読んでいるのだが、その大学通りに異変が起きている。

散歩で通るたびに驚くのだが、地方都市のありきたりな風景と化した空き店舗に変わって、猥雑で熱気あふれる小汚い店(失礼!)がやたらと増えつつあるのだ。若者たちが起業した古着屋や喫茶店、アクセサリーや画廊、ラーメン屋やデザイン工房などである。背景には単なる起業ブームだけではなく、不況による就職難も大きく影響しているのだろう。しかし、まあこの時期に、まるで雨後の筍のごとく、大学通りは若者たちの起業店舗だらけなのである。

思い起こせば40年前、私自身もこの大学街で古本屋と企画イベントの店・無明舎を旗揚げした。その当時は起業なんて気の利いた言葉はなかったが、就職しない生き方のはしり、ドロップアウトである。そうした経緯があるので、彼ら起業家には愛着以上のものを感じるのだが、一抹の不安も覚える。少しでも長く持続するお店や、その小さなお店をステップに大きな夢を花咲かせる人が出てほしいのだが、今の若者の共通した特徴なのかもしれないが、「なりふりかまわぬガムシャラさ」は、彼らの店舗からはほとんど感じられない。

失敗してもどうにかなるさ、とか、いつか理想の仕事に巡り合えるまでの準備期間、といった考えなのだろうが、そう簡単に転職やステップアップが待っているわけではない。腰を据えて、その道のスペシャリストになる方途を一途に模索してほしい。とまあ偉そうなことをいってしまったが、40年前の自分を振り返ると、とても若者に説教できるタマではなかったのに思い至った。生意気で傲慢で鼻もちならない自尊心に満ちた、近所からは完全に浮いた、文化暴走族のあんちゃんだった。いやはや赤面の至りである。
(あ)

No.475

黄昏
(東京糸井重里事務所)
南伸坊・糸井重里

 そうか、こんな本の作り方(編集)もあるのか。おじさん二人がおもいっきり「たいしたことのないムダ話」をしながら旅をする。それを採録しただけの対談集、それが見事は企画・編集方針のもと名著になってしまう。すごい。その「だけ」の部分にこそ味と含蓄があるのだから、まいってしまう。掛け合いの絶妙の間、吹き出したくなる噛み合わなさ、そういったデティールが編集者の高い採録技術で生き返る。読んでいて「座布団1枚!」と声をかけたくなる。座談の名手たちがあえて「意味のない会話」を続けると、実は意味のある話よりずっと面白い、という逆転の発想でなりたっている本なのだ。もし、この本を大手出版社の編集者が企画提案したら通っただろうか。たぶん大手出版社ではこの企画は無理だろう。面白さのツボが微妙なので、そのツボにあてはまる読者層を読み切れないから。だから本書が「ほぼ日」という人気HPを主宰する糸井重里本人の会社から出たのは正解なのだ。編集者(採録)も糸井のHP製作過程で鍛えられ場数を踏んでいる。編集の基本など無関係に、あくまでブログ風にで不特定多数の人たちに語りかけるニュアンスを生かし、シンプルに構成したのが成功の要因だろう。

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