Vol.510 10年7月17日 週刊あんばい一本勝負 No.504


ある裁判を傍聴して

めったにないことだが2日間続けて公判を傍聴した。初日は30分も早めに裁判所に到着したが、なんと傍聴整理券がすでに締め切られ、手に入らなかった。茫然として近くのA新聞社に寄り、支局長に事情を話すと自社の余っている傍聴券を譲ってくれた。助かったが、冷や汗もの。次の日は1時間早めに裁判所に行き整理券配布の列に並び、どうにか傍聴することができた。30席の傍聴席に50名以上の人が整理券のために並ぶのは、各新聞社やテレビ局が抽選に「落ちた時のため」複数の人数を配置して傍聴券を取ろうとするためである。勉強になった。テレビなどで重大事件の裁判に何百人もの人が傍聴券獲得のために並ぶ光景をよく見るが、あれはほとんどマスコミ関係者なのである。

その裁判だが1年前、北秋田市長選で30万円の買収という公選法違反で逮捕された元鷹巣町長・岩川轍被告の初公判である。30万円の選挙買収事件で初公判が1年後というのも異常だが、もっとすごいのは、被告はこの1年間、なんと完全黙秘を続けている。そのため現在もまだ拘置されたままなのである。これまで選挙違反容疑の常識からいえば「30万円の買収」は罰金刑ですむ話である。それがなんと完全黙秘、1年間刑務所のなか、公判前整理手続き中に弁護士が2度交代、と事件そのものよりも大がかりな別の事件が進行中なのである。いったい何が起きているのだろうか。そんな興味から傍聴と相成ったわけである。

この事件の核心である「30万円」の現金を受け取ったとされる二階堂甚一被告は、すでに有罪判決を受けている。「調書は警察官の作文。買収ではなくアルバイト代だ」と証言を翻し上告したのだが、受け入れられなかった。一貫して「渡した現金は運転手のアルバイト代」として無罪を主張する被告側の証人として、今回の公判でも二階堂氏は「警察にだまされた」という証言を繰り返していた。その訛りのきつい朴訥とした証言には説得力があった。

事件のあらましはお分かりいただけただろうか。私自身が異常と感じたのはその拘置期間の長さである。5度の保釈請求がすべて却下されているのである。が、ようやく公判がはじまった。これで拘置延長理由はない。まちがいなく近日中に出てこれるだろう。そんな目で法廷の被告を観ていると、やはり表情には、あとわずかで釈放される、という希望の光がその表情にほの見えた(この公判の翌々日、被告は釈放、保釈保証金は1千万円だった)。
(あ)

No.504

あそび遍路――おとなの夏休み
(講談社文庫)
熊倉 伸宏
2百ページに満たない大きな活字の薄い本である。難しいことやシチ面倒くさいことは書いてません、というメッセージが装丁やタイトル書体から伝わってくる。緑の中をお遍路姿で歩く著者の後ろ姿も、手書きの題字も、脱力系で好感がもてる。著者の顔がカバー前面にしゃしゃり出、活字も立派な書体で、サブタイトルに「大人の夏休み」などと構えられると、ちょいワルオヤジ系のあざとさが予想され、買うのを躊躇しただろう。装丁ってやっぱり大事だし難しい。本のイメージを決めてしまう顔だもんね。著者は東大の医学部を卒業した精神科医。大学教授の職を辞し、信仰心もないまま遍路をはじめたと素直に吐露している。そして四国の自然を歩きながら考えた事を、日常の言葉で書き連ねている。とはいってもところどころに哲学的語彙がちりばめられているのは我慢するしかない。「自然のなかに私が見たのは全的肯定であった。遍路は回帰であった。反復であった。遍路はときと場をこえた偉大な「名」への回帰であった。古いものと新しいもの、生と死の反復であったく。遍路という永遠の循環において、「おわり」を可能にするものは、じつは「偉大なる飛翔」であった、というのが著者の結論である。本書が著者にとっては初の一般向けの書籍だそうだ。

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