Vol.514 10年8月14日 週刊あんばい一本勝負 No.508


お盆は折り返し点

決算期は9月、だからこの時期に「前半を振り返る」というのもナンナンダが、まあ、お盆は1年の大きな「折り返し点」、前半を振り返りたい。

ここ数年、静かに緩やかに本の売れ行きは下降線を描いている。時代環境を考えれば、このぐらいの緩やかさなら想定内、とある程度はあきらめていたのだが今年の前半期はちょっと様子が違った展開で、当事者の自分自身が驚いている。

最初の本は2月に出した「ミラクルガール」。今年の先発投手。エース級の本、という意識はあったので、かなりの部数がいくのではと予想していたのだが、書名が「ドハデ」(笑)だったせいか、メディアにかなり警戒心をもたれてしまった。そこから這い出したのは著者の自助努力だ。こちらはへこんで営業活動が鈍って行きそうになったが、著者自身が積極的にめげることなくマスコミに働き掛け、体制をまっすぐに立て直してくれた。けっきょく本は発売3カ月で5千部を突破。いまも売れ続けている。こういう本(先発投手)があると中継ぎ投手も波に乗る。2番手の「秋田――ふるさとの文学」も好調に売れてくれた。これは市販の本ではなく県内高校の副読本として出したもの。やはり発売1カ月で高校からの注文は5千部を突破。こうなるとイケイケドンドン。アキバ系萌えマンガ「はじめての秋田弁」も勢いにのり、書店のいたるところで平積みになり若い読者を獲得。ジュンク堂秋田駅前店で2カ月連続ベストワンになった。その後も「鳥海山花図鑑」、「写真帖 40年前の仙台」の2冊が、前記3冊の勢いを殺さず、山形や宮城で売れ……と書いてくると出す本がみんな売れたような印象を与えるが、まあ、打率は5割強といったところ。やはり近年になく高いアベレージだったことはまちがいない。

こんな高いアベレージを残したのだが、実は決算の数字は去年と大差なく終わりそうだ。本が売れているのに数字はなんで上がらないのか。本は書店に委託配本して、売り上げとして入金になるまで、半年ほどかかってしまうからだ。2月の「ミラクルガール」の売り上げが今頃入ってくるのである。因果な商売である。

今年の秋は「イザベラ・バード」を中心に話題になりそうな本が何冊か出るが、それも売り上げに反映されるのは来年の話なのである。あ〜あ。
(あ)

No.508

老いのかたち
(中公新書)
黒井千次
高名な小説家のエッセイが中公新書、というのもちょっとめずらしい。読売新聞の連載随筆ときいて、ようやく納得した。子会社ですからね。
たるみのない緊張感のある文体はさすがである。とくに最初のほうにある「自然に老いていくには?」というエッセイが、その着眼点で強く印象に残った。散歩であった光景を描写したものだ。若い男二人がゴーグルをつけ、両足に重りの袋を巻きつけ、杖を手に歩いてくる。「高齢者疑似体験中」である。この光景を見て著者は考える。高齢者の不安や不自由を町のなかで実感してみようとする行為は有意義だ。しかし、あの若い人たちは町から引き揚げて、自分の生活に戻った時、ホッと息をついて眼からゴーグルをはずし、足首の重りを取り去る。実は、その解放のないことこそが「老いの実態」に他ならない、と著者は喝破する。ゴーグルも足の重りも決して身から離れず、寝床の中までつきまとうのを拒めぬ事態を、果たしてあの若い人たちは実感し得るだろうか。うーん、深いなあ。「老い」という言葉が身近な響きを持ってきた世代としては、読みながら「うんうん、そうそう」と合いの手を入れながら読んでしまった1冊である。

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