Vol.518 10年9月25日 週刊あんばい一本勝負 No.512


誰かソフトボールに連れてって

休日の昼下がり、いつもとは違う方角に散歩中、ある中学校のグラウンドで、女子たちがソフトボール練習中だった。みんな体格がよく、とても中学生とは思えない。しばらく練習を観ていたら、小型のピッチングマシーンとキャッチャーネットが運び込まれた。えええっ、こんな優れものがあるの、いつの間に。マウンドに設置された空気清浄機を少し縦長にしたピッチングマシーンから、かなりのスピードボールが飛び出してくる。バッターが空振りしても、今度は畳1畳分くらいの、ストライクゾーンに大きな穴のあいた網ネットが球を勝手に吸い込んでくれる。これは効率的だ。そうか、中学生でももうこんなにいろんなことが効率的、機能的になっているんだ。目からうろこである。

小さなころから野球大好き少年だった。中学も高校も野球部に入りたかったのだが、当時の風習として野球の技術がうまくても足が遅い人はダメ、という「部活の鉄則」があり、あきらめた経緯がある。社会に出てからは、趣味としていくらでも野球に親しむ機会はあったが、今度は団体行動が極端に苦手なため、ハードルが高く、遠慮していた。
いまでもときどき、バッテングセンターで思いっきりバットを振り回したい、と思うことがある。もし野球が一人で出来るのなら、たぶん今も一番好きなスポーツで、毎日のようにピッチングやバッテングに汗を流していたはずだ。

10年ほど前、国際ブックフェア―があり出版仲間たちとニューヨークに行った。ひとりの時間はほとんどセントラルパークをうろついていたのだが、あの広大な公園のなかにソフトボールグラウンドがある。日本ではなじみが薄いが、野球場の2倍ぐらいの大きさの球場を4等分、各隅4面でそれぞれ試合のできる専用球場である。ここでは昼時なるとしょっちゅう試合が行われていた。観客席にはハンバーガー片手の応援団がいつも満席で嬌声を上げていた。応援席にやけにアカぬけた美女が多いなと思い、しばらく見ていると、ABCともうひとつのアメリカの代表的な放送局同士の対戦だった。野球とは微妙にルールが違い、規定の9人のほかに外野のファールグラウンドにも選手が配置され、両チームともメンバーにはかならずアジア系や黒人が入っていた。両チームともユニフォームもなく選手交代も自由で、実に楽しそうだった。

もう野球のスピードにはついていけない。でもソフトボールなら楽しくやれそうだ。その気持ちはいまも続いている。
誰かソフトボールを一緒にやりませんか。あのピッチングマシーンとキャッチャーネットを買えば(あまり高くはなさそう)、3人以上で明日からでも始められるし……。
(あ)

No.512

拝金
(徳間書店)
堀江貴文
そうか小説という手もあったのか。「ライブドア事件」を題材にした青春経済小説とオビには銘打ってる。ネット依存の少ない人にとってホリエモンはもう過去の人、と思っている人が多い(小生もその一人)が、トンデモない。ホリエモンの知名度や人気、その言説の影響力は昔とそんなに変わらない、らしい。まだまだ彼の信奉者は多い。逆に言えばテレビや新聞の影響力のほうが一時的一過性で、そっちの変節というか衰退のほうこそ問題にしたほうがいい。 本書は小説とは言うもののライブドア事件の当事者でなければわからなかったディテールを興味深く描いている。この物語の形ならベストセラーも可能だ、という著者の感度のいい反応には驚いてしまう。フィクションと言う「魔力」を借りることを思いついた時点で著者の勝ち。ただ者ではない。ホリエモンよりも傲岸不遜なふるまいをしていた側近たちが、なぜいとも簡単に寝返えり権力にこびへつらうようになったか、本書にはそのへんの最も知りたかった場面も怒りのこもった筆致で描かれている。金、女、酒、美食と、絵にかいたような豪華贅沢セットも、おしげなく各所にちりばめられていて、こちらののぞき見趣味を満足させる。サービス精神は相変わらずなのだ。最後までバトルを繰り広げた巨大テレビ局会長との確執も、おもしろい。

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