Vol.520 10年10月16日 週刊あんばい一本勝負 No.514


ドイツで考えたこと(上)

10月初旬、ドイツ南西部・フライブルクの街を拠点に、クラインガルテン(市民農園)やグリーンツーリズム(農家民宿)を視察旅行してきた。友人のフリージャーナリストが主催する10人ほどのツアーで、参加者のほとんどが関西や九州の首長と市議である。
東北からはもちろん一人で、公務員でもないので肩身が狭かったが、皆さん、個性的な方々で、旅の間問題もなく、楽しく過ごしてきた。
実はずっとドイツに行きたくて機会を狙ってきたのだが、なかなかそのチャンスがなかった。

ドイツ行きを何度も進めてくれたのは山崎光博さんだ。小生より3歳年上で気があって、よく酒を飲んでいた。もう10年ほど前のことである。
彼とは秋田の県立大学短期大学部の教授だったころに知り合った。すぐに研究テーマであるグリーンツーリズムが認められ、母校の明治大学農学部教授として招へいされ東京に転居した。転居してからも秋田への未練たちがたかったようでアパートは借りたままにし、菅江真澄が絶賛した県北部の風景を後世に残す古民家と農村風景の保存運動などを続けていた。

21世紀初頭、私も東京に事務所があったので、山崎さんとは東京でも何度か会うようになった。友人の少ない東京のいい飲み友達だった。
その山崎さんが会うたびに「ドイツのグリーンツーリズムはすごいよ、今度一緒に行こうよ」と誘われた。何度か誘われていくうちに興味がわいてきた。よし、行ってみよう、と心を決めたころ突然、山崎さんはガンで他界。58歳の若すぎる死だった。

グリーンツーリズムを知る前、もう30年以上前だが、秋田で「クラインガルテン」という聞きなれない言葉を聞いた。そのドイツの市民農園で秋田の農村振興に役立てよう、と言い出した人物が現れたのである。日本でも早い時期からクラインガルテンを研究していた県立農業短大専任講師・青木辰司先生だった。これにも興味がわき、青木先生のお話を何度かききに行った覚えがある。その青木先生もクラインガルテンなどの先鋭的な研究が認められ東洋大学社会学部教授になってしまったが、グリーンツーリズムもクラインガルテンも、秋田県人にはけっこう早い時期から人口に膾炙した言葉だったのである。

そんな前歴もあり、今回、うちの著者でもあり農業や食のフリージャーナリストである金丸弘美さんからのお誘いで、念願のドイツへの旅となったわけである。(つづく)
(あ)

No.514

トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか
(山と渓谷社)
羽根田治
夏の怪談よりずっと怖い。1章が「大量遭難」のルポ、2章がガイドたちの「証言」、3章が「気象」からみた遭難の実態、4章が「低体温症」について、5章が「運動生理学」からみた遭難、6章が「ツアー登山」の問題点、という章立てで各章を医師や山の専門家たちがそれぞれ論じている。なんといっても中核は1章と2章と6章。とくに1章の遭難ルポは迫真に迫っている。山行の時間軸を辿りながら進行するルポなので、読みながら心臓の鼓動が速くなる。なぜ最初の山小屋で引き返す決断をしなかったのか、そのターニングポイントを超えてからは地獄絵図を観るような悲惨な光景繰り広げられる。ルポは、国による事故調査報告書をもとに書かれている。個人の取材ではとてもこれだけ克明な登山者や遭難者やガイドの証言を得るのは不可能だ。その報告書をうまく使いこなしている。山のなかの「低体温症」は私自身も何度か経験している。身体の芯が寒さで硬直する。ブルブルと携帯電話の呼び出し音のように黙っていても身体がふるえてしまうのだ。真夏の低山ほど汗っかきには危ない。この寒さが、本書を読んでいる間にも身体の芯から起きてきそうで怖かった。

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