Vol.532 11年1月8日 週刊あんばい一本勝負 No.526


腰痛について

2011年は何事もなくスムースに……と言いたいところだが、お正月休み中にも何度か不快な電話があった。訳のわからない注文やわがまま自費出版依頼、無理難題の類。昔の知り合いからの連絡というのもなぜかこの時期多くある。みんなが休んでいるときに電話をよこすということ事態が非常識ともいえるので、こんな時に事務所で机に垂れこめているほうが、問題なのかも。

去年の10月頃から、なんとなく腰が痛い。60年の人生で腰痛は経験なし。それがここに来て腰が重苦しい。原因はすぐに分かった。寝室をリフォームして大型テレビを入れ、そこで過ごす時間が多くなった。ふだん使うことのなかったソファー椅子に長時間お世話になるようになった。それが問題だった。腰への負担が急に増えてしまったのだ。年末からはその椅子をやめ、リクライニングの腰位置の浅いものに変えた。腰痛はだいぶ治まった。

そんなこともあり年末、駅前の書店をブラついていて「腰痛」について書かれたヘンな新刊に、過剰に反応してしまった。冒険作家である高野秀行著『腰痛探検家』(集英社文庫)だ。なぜ単行本にしなかったのか、ふしぎなほど、おもしろ本だった。高野さんの本は何冊も読んでいるが失礼ながらこの本が一番面白く、興奮した。私の大好きな「ご近所ドキュメンタリー」(私の造語です)の傑作である。身辺のささいな出来事や事件を徹底的に追い詰めていく。腰を治してくれる医者や施術者たちとの、やりとりが抱腹絶倒だ。本のテーマなんて、作家の力量さえあれば、どんなことでも大丈夫ということを証明したような本だ。

『腰痛探検家』のコーフン冷めやらぬまま、お正月用に買っておいた内澤旬子著『身体のいいなり』(朝日新聞出版)を読みだした。正月休み用にとっておいたのだが『腰痛』があまりに面白かったので、病気本(?)として、なだれ込むように読み終えてしまった。『腰痛』以上の面白さ、いやおもしろいというのは失礼か。すごい、という形容が大げさではない。さすが内澤さん(うちの仕事もしていただいたことがあるイラストレーターです)、よくぞここまで書いてくれました。実はこの本も実は腰痛から話ははじまる。腰痛つながり本である。

とまあ腰痛本の話なのですが、先日、スキーに行ってきました。山登りよりも腰への負担が……なんて考えていたのですが、まったく何の問題もなし。やっぱり小生の腰痛はあのソファー椅子が原因だったようで、もう問題なしのようです。
(あ)

No.526

新徴組
(新潮社)
佐藤賢一

幕末・明治維新を語るとき、京都見廻り役・新撰組の名前は必ず出てくるが、江戸・見廻り組の新徴組のことはほとんど、でてこない。幕末の表舞台は京都だったため江戸見廻り役の知名度はどうしても低いものになってしまう。が、いまに定着した「おまわりさん」という言葉は、実はこの江戸見廻り組・新徴組のことをさした言葉である。著者は山形鶴岡出身の直木賞作家。フランス近代史をテーマにした歴史小説が多いので幕末ものとは意外だったが、よくぞこのテーマに光を与えてくれた。新徴組は庄内藩のあずかり組織。戊辰戦争の時、薩長側から見ると最大の強敵は会津より庄内藩だった、といわれている。その強さの秘密は近代的な武器を多く持ち、個々の武芸の教育レベルがめっぽう高かったことがあげられる。侍たちは「裕福だった」のである。なにせ庄内藩(鶴岡)の領地には西の堺と繁栄を二分したといわれる酒田湊がある。ここには本間様という大金持ちがいた。鶴岡では酒田に自由に交易をさせ、そのかわりその利益で武器や藩校などに多額の援助をさせていたのである。いわばギブアンドテイクの関係が両地域間でうまく成り立っていた。個人的には秋田に攻め込んだ新徴組(庄内藩)が、形勢不利になり地元に帰る際の鳥海山越えのあたりの記述が圧倒的に面白い。

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