Vol.552 11年6月11日 週刊あんばい一本勝負 No.546


地震日記13 ちょっぴり虚しい日々

6月6日(月) 田代岳で採ったコシアブラを天ぷらではなく乾煎り、塩で食べたら思いのほかうまかった。ワラビにはたっぷりの鰹節、アイコのおひたしにタケノコの味噌汁……書いているだけで、また、よだれが出る。数年前まで山菜をうまそうに食べる人の気がしれなかった。うまいものなら他にいくらでもあるのに、と内心ふしぎでかつバカにしていたことを、いまは痛烈に反省している。山菜は本当においしい。蕎麦屋の酒の肴に匹敵する「粗末さの気品」のようなものがある。こちらが老いたのだろうか。

6月7日(火)死と隣あわあせの修行といわれている千日回峰行を2回も満行したS僧侶の法話を聴きに行ったある作家が、あまりにくだらない説法にあきれ席を立って帰ってきた、と本に書いていた。そういえば昔、この僧侶の本や写真集を買ったことがあった。やはり叡智の欠片もない容貌や言動の軽さに失望した覚えがある。とても人様のことを言えた義理ではないが、容貌に品格がないのが致命的だ。この辛らつな批判をした作家とは、伊集院静。彼は片岡鶴太郎らしきタレント絵描きも、インチキくさいと弾劾している。なかなかここまで勇気あることは言えないもの。

6月8日(水) 病気で亡くなった遺族をお見舞いに行き、「アイムソーリー」と「お悔やみ」をのべるシーンを洋画で観るたび、当事者でないのにどうして自分が悪いみたいに謝るの、と不思議だった。何か宗教的な決まりなのかな、と思っていたが、「アイムソーリー」というのは別にお詫びの言葉ではなく、「遺憾に思う」ぐらいの無念さを表す表現であることを、最近はじめて知った。そうだったのか。悪事をしても簡単には謝らない外国人が「アイムソーリー」だけは軽々と口にする理由が、ようやくわかった。

6月9日(木) 久しぶりに山王の官庁街にあるホテルで昼食。サラリーマンたちの背広姿がまぶしい。なんだか別世界にきたみたいでオドオドしていると、友人に「ここは秋田市の丸の内だからね」と言われた。っていうことは広面は奥多摩か? 「いやあの…世田谷」とフォローしてくれたが、よくよく観察するとサラリーマンたちのマナーや挙動は、やっぱりそのへんにいるジャンゴのオヤジたち。りゅうとした背広で七難隠しているが出はあらそえない。サラリーマンだけでなくひとを外面で判断するのはホント難しい時代になった。

6月10日(金)昨夜は山仲間の有志モモヒキーズの特別宴会「中華を食べる会」。ふだん中華を食べたいなあと思っても、この料理だけは多人数がいないと無理。そこで5人のメンバーが、いろんなメニューを片っ端から注文して、チョピットずつ食べよう、という無意味プラン。場所は前に下見した山王官庁街ホテル1階。昔ながらの田舎くさい中華で、なかなかだった。年1回は続けたい企画だなあ。

6月11日(土)ふと立ち止まって「これから」のことを振り返ったりすることが、めっきり少なくなった。もうどうでもいいや、という虚無感に襲われるほうがおおいのだ。震災以降は特にそうだ。もう「とりこし苦労」は止めよう、とマインド・コントロールしているところもある。戦争中のことは知らないが、「がんばろうニッポン」というお題目は、「ぜいたくは敵だ」という戦時中のスローガンとそっくりではないのか、と思いはじまたあたりから虚しさに拍車がかかったような気がするのだが。
(あ)

No.546

ホームレス歌人のいた冬
(東海教育研究所)
三山喬

朝日新聞に投稿を続けたホームレス歌人については、新聞紙面ではなく週刊誌か何かで知ったような気がする。歌にあまり興味がないせいもあるが、よく覚えていない。もしかすると管首相のブレーンだったとかいうトピックス記事で初めて知ったのかな。ま、そんな程度だが、本書はその話題のホームレスを追っかけたルポルタージュである。けっきょく本人の特定はできないまま終わるのだが、金と時間をかけたルポが少ない昨今では貴重な「古典的」ノンフィクションの傑作といっていい。ドヤ街に入り込んでまで追いかける執念も見事だが、最も興味引かれたのは、この著者自身の内省部分。姿を現さないホームレス歌人に、著者自身が自分を重ね、述懐するくだりだ。そこに大きく心を動かされてしまった。著者は東大卒、朝日新聞入社で海外移民に興味を持ち、フリーライターになる。このあたりの転職の決断が正しかったのか、著者は真剣に悩んでいる。見つからない本書の主人公たる「公田耕一」も実は似たような経歴をたどった人物ではないのだろうか、と深読みも可能だ。本筋とは関係ない部分ではあるのだが、何度も自分の選択(エリートからフリーになった)した職業への迷いが真摯に語られていて心に響く。

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