Vol.549 11年5月21日 | 週刊あんばい一本勝負 No.543 |
地震日記10 5月はヒマ、本は出ないし…… | |
5月14日(土) まだ朝の4時台だ。今日は岩手の七時雨山に登る予定で出発は6時。前に登った山で、不安も期待もないのだが、なぜか昨夜は一睡もできなかった。後ろ向きの不眠というわけではない。逆に意味のない射幸心のようなものに包まれてニヤニヤしているうちに眠られなくなった。射幸心というのは「思いがけない利益や幸運を望む心」である。悪い意味の言葉なのだが、う〜ん、これしか説明するうまい言葉が浮かばない。本当にニヤニヤしながら一晩起きていたのだ。気持ち悪い。 5月15日(日) 尾籠な話で恐縮だが、自宅のトイレには常に本が置いてある。すぐに読みたい、というわけではないが、興味ある作家の短いエッセイ本が多い。1回完結の便所本というわけである。いま置いてあるのは中野翠『小津ごのみ』(ちくま文庫)。これが無性に面白い。これは便所本にしておくのは惜しいので、即寝室本に出世させ、けっきょくは一夜で読了。知らないことをいっぱい教えてくれる本って、やっぱりいよねえ。 5月16日(月) 今日も快晴。週末以外は別に雨が降っても困らないのだが、とりあえず気分はいい。このところ夜は入念にストレッチに励んでいる。ストレッチのほかにも腕立て、腹筋、スクワットも。回数は微々たるものだが「やりたくない!」という消極性が消え、積極的に挑むようになった。ベッドに入り消灯するとき、腹筋を使って楽に起きあがれるようになったのが最大の成果だ。チョーうれしい。 5月17日(火) 朝から天気がよく、いい風が吹いている。寝室の窓を開け放ち、FMラジオの音量を上げ、音と風に身を任せて、このままソファーに寝っ転がって日がな過ごしていたい。誰が怒るわけでもない、休んでしまおうか、そんな忙しくもないし……と、窓の外に目をやると、10数メートル先に仕事場の自分の机が見える。アチャ、この一瞬で気持ちは仕事モードに切り替わってしまった。寝室から自分の仕事場が見えるって、あんまりいいことじゃないなあ。 5月18日(水) 五月も後半だが、まだ一冊の新刊も出ていない。いや今月は絶望的で「なし」と言いきっていい。こんなのは最近では珍しいのだが六,七月はちょっと忙しくなる予定だ。比較的ひまなこの時期に「将来のためになる何か」をやっておきたいのだが、どうも今ひとつその気にならない。何でもかんでも震災や自粛と結びつけるのも問題だが、けっこう世の中のムードに精神が支配されてしまうことに自分自身驚いている。若いころのように「五月危機」なんてものはなくなったが、この時期、アンニュイな心性に陥りやすい季節であるのはまちがいない。 5月19日(木) 一昨日飲んだ豆乳が悪かった。買ってしばらく経つやつだ。昨日の朝から下痢気味で昼からは頭痛にだるさが襲ってきた。午後から家に帰って休ませてもらうが熱はないし寒気もない。半日で4回トイレに行ってるから間違いなく「脱水症状」だ。スポーツドリンクを1リットル飲み、寝床でもずっと「オーエスワン」という経口補水液を飲んでいた。夜になって食欲が出た。うどんをすすり、どうにかヤマ場を越した。いまもなんだかフワフワした病後特有のけだるい浮遊感がある。 5月20日(金)文春文庫で刊行されている「名作アンソロジー」にはまっている。現代の人気作家たちに感動した古今の名作短編小説を編んでもらう、という企画である。長い物語を読む気力や時間がない時には実にタイムリーで、あたりハズレがない(評価の定まった名作ばかりなので当然か)。とくに沢木耕太郎編『右か、左か』は驚くような短編作品ばかりで、堪能した。編集者的には安易な企画だが、読者としては「アンソロジー」は便利で勉強になり特効薬。もちろんあくまで選者がちゃんとした人であることが重要なのだが。 (あ)
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