Vol.548 11年5月14日 週刊あんばい一本勝負 No.542


地震日記9 ここがターニングポイントかもしれない

今週はほとんど事務所にいなかった。いい傾向だ。7日に仙台に行き1泊、11日は酒田で1泊、14日は岩手に行く。東北各地をへめぐっているわけだが、仙台以外は山行、ようするに遊び。遊びたい、という意欲が出てきたのも進歩のうちだろう。知らず知らず「抗えない大きな流れ」に身を任せ、勝手に「自粛」モードに入っていた。そんな自分自身に反省のカツを入れよう、と思った。「NO MORE 自粛」である。来週もこの傾向は維持したい。来週の中日には、恒例の月一無明舎事務所飲み会があるし、そのあとは久しぶりに東京へ行く予定を立てている。出版業界がどうなっているのか、秋田からは見えない渦の中心をじかに見てくるつもり。
震災の最も大きな教訓は、
「まだ起きてもいない未来のことをクヨクヨとり越し苦労してもはじまらない」
ということ。この教訓を前向きに身体にしみ込ませれば、自分にとって大きなターニングポイントになる可能性がある。


5月7日(土)GWはカレンダー通り。だから昨日は仕事。GW谷間の出勤である。また翌日からは週末休みに入る。昨夜は、休日前夜に比べるとあれこれ考えて寝つきが遅かった。やっぱり明日が仕事って、けっこうなストレスなのである。でも零細企業のオヤジにとって休日はちっとも楽しい事じゃない。できれば年中休みなし、で仕事をしていたいぐらいだ。ずっとそう思って仕事をしてきたのだが、その「楽しい」はずの仕事前夜に、無意識に身体や心は嫌がっている。昔に比べれば体力も負荷への抵抗力もガクンと落ちてしまった、ということか。

5月8日(日) 印刷所の営業がひっきりなしに訪ねてくる。これも震災後の時期的特徴なのだろう。紙やインクの物流上の問題から資金繰りまで、思っている以上に印刷所の経営は大変のようだ。というか地震の被害をもろに受けてしまった、といっていいかもしれない。こちらは自分のペースを崩すわけにいかないから、いままで通りやるしかない。無理やり彼らの期待にこたえて仕事を増やすことなんてできっこない。周辺の環境は厳しさは増すばかりだ。油断するとその波に巻き込まれてしまうから用心しないと。経営戦略を抜本から替える必要を感じている企業もあるようだ。売り上げが2倍になっても2分の一になっても、そのどちらにも順応していけるのが「いい会社」と思っている身としては、これからが正念場だなあ。

5月9日(月) 週末は仙台。復興作業の邪魔にならないよう、誰にも連絡せず、行ってかえってきた。仙台でよく立ち寄る「立ち食い寿司屋」が被災、仮店舗で営業していた。信じられないのだが、味も接客も雰囲気も以前とまるで違っていた。不味くなっていたのである。店内に流れるリズムが変ってしまい、どこにでもあるフツーの店になっていた。「崩壊」するというのは内的なこういうことまでも含めてのことなのか。帰りの新幹線が雷でいきなり停車、停電したのには胆冷やした。

5月10日(火) 被災地で自分の歌を披露するシンガーソングライターという人たちがいる。善意の行為をとやかく言うつもりはないが、私にはよく意味がわからない。昨日、NHKで3人の女性演歌歌手たちの鼎談番組を観た。詞(言葉)を客に伝える難しさを語ったものだが、そのことに身を削っているプロたちの存在に、おもわず身を正してしまった。演歌をみなおした、といえば不遜だが、彼女らが一級の表現者であることだけは間違いない。

5月11日(水) 大きな都市に出かけると、大きな書店をのぞく。その場で本を買うと旅の邪魔になるのでICコーダーで書名を録音し、帰ってからアマゾンに注文する。半分はユーズドで半額以下で買える。書店の皆様にはお詫び申し上げます。そんなこんなで外に出かけると本の注文も飛躍的にまして、毎日のようにアマゾンから数冊の本が届くようになる。

5月12日(木) 突然、サボりたくなった。で、水曜日の未明に車で酒田に向かい、月山周辺の雪山をほっつき歩いてきた。まだ3メートル近くある雪とブナの新緑と沢水の轟音でしばし心洗われた。夜は友人夫妻と宴会。1泊して何事もなかったように先ほど帰ってきた。いなくてもいても事務所はいつも通り、フツーに動いている。世はこともなし、である。なんだか寂しいけど。明後日も岩手の山に行く。私の人生、これでいいのだろうか。

5月13日(金)GWが終わって仕事関係も本格的に動き出した……ような気がするが、どうだろうか。もちろん例年通りとはいかないが、ま、こんなもんだろう。「No More 自粛」である。起きてない未来を先取りしてクヨクヨするのはやめた。楽しいことだけを頭の中にイメージするようになった。ところで5月後半の日程だが面白いことに気がついた。29日(日)にカヌー、登山、鉄道イベント、古本まつり…など参加したい行事が6つも集中している。29日って何か特別な日だっけ。

(あ)

No.542

山行記
(山と渓谷社)
南木佳士

登山に関する本はほとんど読まない。マンガもダメ。新田次郎も深田久弥も「読む人」の立場から見ると、ほとんど興味対象ではない。冒険家の本は好きなのに、これは自分でも謎だ。毎週のように山に登っているし、人並みに本が好きなのに、なぜか「山登り本」だけには関心が薄い。考えるに、彼らの書く本は登山初心者から見るとあまりに「特殊」で「特筆すべき出来事」ばかりで構成されている。これがネックなのだろう。自分と等身大の登場人物を実感できる山歩きの本が読みたいのだが、それでは本にならない。出版社側からすれば普通のものは本にする必要がないわけで、そうなるといつまでたっても自分の読みたい本が出てこない。例外はある。表題作の著者はその代表格である。等身大の「登る人」である。初心者を自認し、自分に禁じていた山小屋泊まりの(実力以上の)山歩きを、いつもの抑制のきいた磨きぬかれた短い言葉で小説にしたのが表題作である。見事な「文学作品」でもある。4つの小品からなる作品集。山小屋泊りの「ためらいの笙ヶ岳から槍ヶ岳」と最後の「山を下りてから」がおもしろい。これはNHKテレビの人気番組「課外授業 ようこそ先輩」に出演、浅間山に登った顛末を綴った作品だが、著者らしさの出た文章である。

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