Vol.555 11年7月2日 週刊あんばい一本勝負 No.549


地震日記16 久しぶりで旅に出て

6月25日(土) 鳥海山麓にある笙ヶ岳登山。もう何回も登っている山だが、年に1,2回登る鳥海山のための足慣らし。トレーニングには適度な山、ぐらいの軽い気持ちで出かけたのだが、予想以上に花も天気も素晴らしく、山歩きのだいご味を堪能した。いやぁよかったなあ。

6月26日(日)夏のDM発送作業がようやく完了。年4回の行事ではあるが、終わるたびにホッとする。全国の読者と片田舎の零細出版社をつなぐ細い、すぐに切れてしまう糸だ。だから緊張するのだろう。今回は被災地の愛読者へも発送した。前回はさすがに見合わせたのだが、仙台のある宮城県はうちにとって大きな商圏。被災地域のDMがどのくらい返送されてくるのか、いまから胸痛む思いだが、この現実とはきちんと向き合わなければならない。そんなこんなで6月も末。またしても新刊はお預け状態だったが7月は新刊ラッシュです。

6月27日(月)1年の折り返し月も過ぎようとしている。いやはやまったくもう、である。肝心の新刊は出なかったが年4回の定期通信DMだけはどうにか間に合った。いろんなことがあった1カ月だった。仕事を頼んだばかりのデザイナーの突然の自殺、新しい倉庫や仕事場の改装工事、山仲間のモモヒキーズ宴会は3回に及び、弘前劇場の芝居に感動した。山行は4回、なかでも25日の笙ケ岳はサイコーだった。この4回の山行で花の名前をたくさん憶えた。花の名前を言えるようになったのが、身辺でもっとも大きな変化かも。

6月28日(火) 本を読むのは大好きだが、その時々の精神状態や環境で読む本の傾向はガラリと変わる。このごろはもっぱら文春文庫創刊30周年記念と銘打たれた、当代の人気作家たちが選んだ「心に残る物語 日本文学秀作選」というアンソロジーを読んでいる。菊池寛や江戸川乱歩、直木三十五や林芙美子、半村良に向田邦子といった、単行本なら絶対に手を出さないだろう作家の、良質な短編を、夜寝る前にちょっとずつ楽しんでいる。もう40以上の短編を読んだが意外にもベストワンは村上春樹『レーダーホーゼン』。こんなすごい作品を書く人なのに、長編にはなぜか手を出す気にならない。どうしてなんだろう。私側に問題があるのは確かだが、正直いって長編で書かれるテーマがよく理解できないのだ。

6月29日(水) 旅先である。昨夕、仕事をひとつ済ませて食事に出た。一人だ。友人もいる街だが、あえて連絡はしなかった。会えば賑やかな宴席になる。となれば翌日は使いものにならない。明日も明後日も別の街でホテル泊の予定だ。最初から体調を崩す訳にはいかない。異常に神経質になっている。これでは旅を楽しむことなど無理。出張から帰ればすぐに山歩きもある。私の一週間は週末の山歩きのためにある、ってか。もう二日酔いの嫌悪感から卒業してもいい年回りだし。

6月30日(木)旅の2日目。東京は暑い! 夕食をすませた後は早々とホテルに帰ってクーラー。この大都市で節電というのはかなり難しいのでは、と実感する。睡眠中までクーラーをつける、という経験がないので何度も夜中に目が覚め、冷房を消したりつけたり。これはキツイ。旅のいいところは電車やホテルで目いっぱい本が読めるぐらいだ。昨夜は池内紀『今夜もひとり居酒屋』(中公新書)。これは名著です。

7月1日(金)旅の3日目は仙台。仕事を終えてここでも早々とホテルに帰り、風呂に入って寝る。今日は朝5時半起き、新幹線の始発で秋田まで帰るつもり、だったのだが、なんと午後の遅い便まで満席でグリーン車もだめ。午後一番で大事な仕事がある。どうしても帰らなければならない。駅前の高速バスに飛び乗った。ガラガラでスイスイ午前中のうちに帰ってこれた。高速バス初体験。バス料金は4千円。ノンストップの3時間20分は、それほど苦にはならなかった。快適といっていいだろう。ちょっぴり儲けたような気分。
(あ)

No.549

右か、左か
(文春文庫)
沢木耕太郎編

私個人にとっては、このアンソロジーシリーズは福音である。読む本もなくどうしようかと迷った寝床や旅先で、このシリーズは極めて重宝しているからだ。これが最終巻で、他の作家選の本もすべて買ってしまったほどだ。副題に「心に残る物語 日本文学秀作選」とあるように当代の人気作家たちが選者になって、芥川から村上春樹まで、古今の短編文学の傑作を1冊に編んだもの。文春文庫創刊35周年記念特別企画と銘打たれている。企画として新しいのは、古今の名作短編を、現代の人気作家が丸ごと1冊(本書では13篇)責任選択する、という点かもしれない。それぞれの作家がそれぞれの思い入れで選んでいる。だから編者である沢木個人の本棚をのぞいているようなワクワク感もある。その選択基準も作家ごとにユニークだ。同じ江戸川乱歩でも、選ぶ作家で正反対の味わいのものが選ばれていたりする。すでに読んだ作品もいくつか入っているが、こうした機会でもなければ再読は叶わなかったかもしれない。本書の中では、向田邦子の「ダウト」と村上春樹の「レーダーホーゼン」に感銘を受けた。単行本ではわざわざ買って読むほど好きな作家ではないが、珠玉ともいえる磨きぬかれた短編1作でファンになってしまう。

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