Vol.561 11年8月13日 週刊あんばい一本勝負 No.555


お盆は休めないなあ

8月5日(金) 毎日、暑いですねえ。昨夜は散歩の後、水ではなく熱いほうじ茶を飲んでから寝たので夜、目が覚めることはありませんでした。こんなこと一つでも身体は敏感に反応する。それはともかく、毎日小さな用事がひとつでもでもはいると大きな拘束力を持って、その日一日は身動きが取れなくなってしまう。そういう小さな約束が来週も毎日のように入っている。結局は事務所に垂れこめてるしか手はなさそうだ。外に出るにもホテルはほとんど満席だから、ま、いんだけどね。

8月6日(土)けっきょくお盆休みはとれなくなりそうだ。今週中に2本新刊ができてきて、地元紙に全3の広告を打つ。誰かが舎内にいなければ問題が起きてしまう。こんな時期にそんなスケジュールをと叱責されるかもしれないが、印刷所はお盆前に駆け込みで仕事を片付けようとする傾向がある。広告は帰省客用で、最近はもっぱら本を買ってくださるのは地元民でなく帰省客の方々だ。やっぱり休めないよな。

8月7日(日)日曜日は近くの丸舞川遡行の川遊び。腰まで水に浸かって川を歩くなんて少年時代以来だ。熊はとりあえず盛大な爆竹で追っぱらい、網で虫や小魚を掬いながらひたすら遡行。楽しかったが予想以上に難敵だったのがアブ。手袋やタイツの上から平気で刺してくる。執拗に左手甲を狙ってくるやつがいて手袋が血で赤くなった。黒色が好きで寄ってくるようだ。昨夜はかゆくて何度も目を覚ました。膨れ上がった左手にムヒを塗りながら来週も仕事三昧。老骨に鞭打ってお盆を駆け抜けたい。

8月8日(月)ここ数年で、すっかり定着した習慣がある。寝る前、目薬をさす。朝、かならずジュースで割った黒酢を飲む。トイレの後、石けんで手を洗う……といった当たり前のこと。それ以前はまったくこんなことをしなかったから「当たり前」でもないか。酢も石けんも目薬もみごとに習慣になって、いまは旅先にもそれらを携帯する。身体にいいのか悪いのかはともかく、ルーチィン・ワークになると、信仰と同じようなもので、なんとなく気持ちが晴々する。

8月9日(火) ある時代の歴史背景や事件、偉人のことを知る最も手っ取り早い方法は「小説」を読むこと。歴史が苦手な人にはお勧めだ。いま佐藤賢一『ペリー』を読んでいる。面白い。その前は山本兼一『銀の島』でフランシスコ・ザビエル。空海のことを知りたければ司馬遼太郎が書いてるし、清河八郎なら藤沢周平の『回天の門』がある。織田、豊臣、徳川のことを比較検討したければ池波正太郎にそのまんまのタイトルの入門小説があるし、歴史を学ぶのが苦手な人のために時代小説家がいる、といっても差し支えない。小説で歴史の面白さに目を開かれ専門書にステップアップ。小説ってやっぱりすごいよ。

8月10日(水)珍しく忙しいせいもあるが、7月8月と昼はほとんど外食なし。冷凍食品をチンして事務所で食べている。スパゲッティーが多いのだが、そのへんの食堂で食べるより味がいい。でも毎日続くと、いいかげんあきてきた。と思っていたところ、幸か不幸か近所の薬屋の抽選で6食分の冷やし中華セットを当ててしまった。そろそろうまい外食でもと考えていた矢先だけにショックでもある。毎日うまいのかまずいのかよくわからない冷やし中華の日々。

8月11日(木)カミさんのお迎えのため夜の空港へ。帰省客でごった返していた。迎える側のオヤジたちの多くが半そで短パンのラフな格好が目立った。そうか、田舎というのは家の中と外の境界が消えた場所のことなんだ、と気がついた。羽田空港でランニングにステテコ姿ってほとんど見かけないもんね。居間から直接抜け出してきたような軽装、赤ら顔のオヤジたちに「社会」という壁は、ない。家も飛行場も同じ秋田だからだ。外に出るときは服装を整える、という発想は「都市化現象」だったんだ。
(あ)

No.555

わたしの開高健
(創美社)
細川布久

自分でも悪趣味だとは思うのだが、この手の大作家の舞台裏や日常を書いた「暴露系本」が大好きだ。大作家といわれる人たちのプライヴェートな日常や、作品からはうかがい知れない性癖など、けっこうきわどいスキャンダラスな裏側を楽しんできた。この手の本の王者は吉行淳之介で、愛人やら本妻やら隠れ妻やら3,4冊の本が出たのが記憶に新しい。これらの本の特徴はめったなことで大手出版社からは出ないことだ。当たり前か。本書も「発売・集英社」になっているが版元はあまり聞いたことのないところ。個人的に開高健は好きでも嫌いでもない作家だ。でもこの著者のほうの名前は聞いたことがある。遊びでパリに行ったとき、ある新聞社のパリ支局員だった友人に、「細川さんというおもしろい女性がいるから会ってきたら」と紹介状をもらったのだ。けっきょく何やかや忙しく現地では連絡をとることがかなわなかったのだが、そのときは確かワインの大変な権威だ、という触れ込みだったのを覚えている。本書を読んでわかったのだが、著者は「面白半分」の編集者になったのが縁で、この作家の知遇を得ている。こうした本の面白さは「下世話さ」の一点に尽きるのだが、本書でも奥さんの牧羊子、娘、愛人などに「恐る恐る」触れている場面が、圧倒的に面白い。

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