Vol.584 12年1月21日 週刊あんばい一本勝負 No.577


怪しい光

1月13日 寝床と事務所に加湿器をつけている。事務所のものは空気清浄機付属だが、寝床はペットボトルを着脱する簡易型。その割にちゃんと機能を果たしていて満足しているが、点けている間、青い怪しげな光を発し続けるのが欠点だ。LEDとかいうものなのだろうが、寝床周辺がうす明るく寝室全体に何やら隠微な空気感が漂う。機能的にはまったく意味がないのに「消す」ことはできない。余計なものの気もするが、ま、いいか。

1月14日 何が悲しいのか、昨日も吹雪の大滝山公園をスノーハイク。寒さに震えながら、とつぜん「カモ鍋が食べたい!」と思った。同行のSシェフに話すと、事務所でものの10分ほどで小鍋仕立ての鴨ネギ鍋をつくってくれた。醤油ベースの出汁に筒切りしたネギを煙突ふうに立て鍋にびっしり敷きつめる。真中に穴をあけ鴨肉を詰め込む。これだけである。鴨から抜けた脂を煙突ネギが吸い上げ、脂の落ちた鴨に旨みだけが残る。食材は本当にネギと鴨だけで絶品の味。鴨とネギを組み合わせた古人たちの知恵はだてではない。それにしてもSシェフ、恐るべし。

1月15日  年が明けてから半月。まだ今年を予測させるような派手な動きは何もない。わずか2週間ほどが過ぎただけなのだが、個人的には雪山歩きが5回、事務所宴会5回、ってこれは多すぎだろう。いちおう新刊も2点出ているが、新しい仕事らしい仕事は何一つしていない。特筆すべきなのは、このところ猛然とDVD映画を観ていること。1日2本平均!である。昨夜はウディ・アレンの「人生万歳!」。最新作だけあってユニクロやケータイが登場、でも作風は昔のまま。それでもファンとしてはたまらないアレン節全開。ライブドアのレンタルは品数が豊富で本当に便利だ。

1月16日 今週は外に出ている期間が長い。東京にも行くし仙台にも行く。つらつら考えるに、ほとんどこのところ外に出ていない。億劫なわけではない。いや億劫なのかな。用事があってもできるだけメールや手紙、電話で済ませてしまう。著者と一度も顔を合わせないまま本をつくる、なんてことが当たり前になってしまった。いいことではないが、年をとると仕事や人生の優先順位のようなものが微妙に変化する。仕事よりもしかしてプライヴェートに徐々に軸足を移動させつつあるのかもしれない。

1月17日 新幹線でゲホゲホとセキをする若者が隣の席に。仙台で降りたのでホッとすると、また隣にセキ男。マスクぐらいしろよ。ブチ切れそうになる事態だが、読んでいた角幡唯介『空白の五マイル』が面白く、セキ男どころではなくなった。チベット最深部の探検記だが、いやぁ、すごい。一年に5,6冊、こうした本と出合えれば、人生は豊かになるなぁ。

1月18日 もう30年以上前から無明舎の愛読者通信や文庫シリーズの名称に「んだんだ」という言葉を使っている。ある意味「無明舎」=「んだんだ」といっていいほど個人的には密接で親しみのある単語だ。基本的には秋田弁というより東北方言なのだろうが、新宿3丁目末広亭の隣に「んだんだ」という居酒屋ができていた。前はなかったのに。早めに商標登録でもしておけばよかったかナァ。ま、それは冗談だが、この居酒屋、秋田や岩手の食材をメインにする店のようでメニューに魅力を感じなかったので、入らなかった。

1月19日 3泊4日の出張を終え、今帰ってきたところ。仕事以外はこれといった目新しいこともないのだが丸善でビニール製の3ウェイバックを買ってしまった。バックなんていっぱい持っているのだが、ついつい手が伸びでしまう。なぜだろう。基本的にはトートバックで、ショルダーにもディパックにもなるタイプのもの。似たようなものを持っているはずだが、どうにも大きさと重さが気に入らず、ほとんど使っていない。で、丸善でこれをみかけて一目ぼれ。いまのところショルダーがことのほかいい感じ。旅に出るときはしばらくこれ1本で行ってみようか。でも年々外に出る機会は減る一方なんだけど。
(あ)

No.577

どちらとも言えません
(文藝春秋)
奥田英朗

この本は去年読んだ「おもしろかった本」のベストスリーには入るエッセイだ。スポーツ雑誌「ナンバー」に連載されたものの単行本で前作の「野球の国」「泳いで帰れ」に次ぐ3作目のスポーツエッセイである。「泳いで帰れ」という書名は、オリンピックで惨敗した選手への罵詈雑言。もうこの書名だけで笑える。今回の書名もバツグンのセンスだ。カバー写真も意味不明ながら、それだけで笑いたくなる外国人裁判官のしゃしん。特に「野球選手と名前の相性についての考察。」には腹を抱えてわらってしまった。日本ハムの中田翔について、まずは名前が悪い、と怒っているのだ。「翔」とは何事か、まるでその名前はサッカー選手じゃないか。プロ野球選手なら「中田勝男」ぐらいの名前を付けろ、と難癖をつけている。著者は愛知県出身の作家。当然中日ドラゴンズの熱狂的ファン。にもかかわらず冷静に作家として日本プロ野球史上ナンバーワン投手は、「文句なく江川卓」と「あとがき」に明言している。当時のスピードガンはあてにできないが大リーグのストラスバーグと比べて、ほとんどそん色がない(ユーチューブの動画)ところからみて、ゆうに160キロは出ている、というのだ。辛口で通好みの筋金入りの野球観戦者がいうのだから、なるほど、とうなづきたくなる。

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