Vol.587 12年2月11日 週刊あんばい一本勝負 No.580


雪に閉じ込められて考えること

2月4日 「こう雪ばっかりだと、冬眠したくなるね」と言った友人がいた。確かに毎日雪ばっかり見ていると、自然に気持ちはどんどん内向きに下降していく。誰とも会わず、外出が面倒になり、未来より過去に耽溺していく。今を見据える力が足らなくなると、人は過去に逃げ込もうとする。「いくつものさよならが、寒さの中にある」という言葉もあった。雪に克つ方法はただひとつ。どんなひどい吹雪の日にも外出(散歩)すること。そうするとネガティブだらけの雪に、かすかながらも何かしらのホテンシャッルを感じることができる。これが自分的には克雪の一番の方法なのだが、できれば春よ、少しは急いでくれまいか。

2月5日 テレビで見逃してしまった「パタゴニア 世界の果ての冒険レース」(NHK)をライブドアでレンタル! 700キロ余りを8日間かけて走破する過酷な国別チームレースだ。日本チームの若い女性はろっ骨を折りながら完走、見事5位に入った。参加者のほとんどが「寒さ=低体温症」と戦うレースだった。レベルは違うが汗っかきの小生も、よく山頂でガタガタ震えている。低体温症で汗が冷えて身体の体温を奪うのだ。汗っかきだけの欠点なのだが、この数百倍たぶん激しい条件で展開する過酷なレースでの低体温症である。観ている側も震えてしまうシーンの連続だった。しかしなあ、ろっ骨折った若い女性が、たとえばトライアスロンを完走する、なんて考えられます?

2月6日 今週末もまたずっと降りしきる雪を見ながら事務所で仕事だ。仕事と言っても雑用の類だが、とにかく休日は集中できるし効率がいい。その結果、やりすぎて困ることもある。月曜日になってもやることがなくなるのだ。下手をすると水曜日くらいまでの仕事を事前に準備してしまうこともある。結局は事務所でお茶を挽く羽目に。「茶を挽く」っておかしいか。ヒマになるのである。それに身体を動かさないと夜の眠りが浅くなるという重大な問題も残る。週末は仕事をしないで外で汗を流す、これが一番だ。わかっちゃいるけど、この雪じゃあね。

2月7日 1月2月というのは、なぜか良い思い出が過去にもほとんどない。いつも「早くこの時期をやりすごしたい」と焦っていたような気がする。仕事はヒマだし本も売れない。かててくわえて雪の問題も小さくない。雪に割かれる様々な労力が半端ではないのだ。年々その思いは強くなる一方で、雪は理不尽だ、とひとりごちることが多くなった。いや、理不尽と闘うのが大人というもんだろう、と逆に自分を鼓舞しながら、いつもどうにか雪や冬を乗り切っているのだが、本当の雪の怖さは、年をとらないとわからないゾ。
2月8日 どちらかというと本や映画でも物語よりドキュメント系を好む傾向がある。どうしてだろう、と自分でも不思議に思っていたのだが、プロ野球のキャンプ解禁のニュースに気持逸る自分を見て、合点がいった。野球観戦は好きだがキャンプやトレーニング風景は何をさておいても観てしまうほど、もっと好きだ。試合の比ではない。そうか、自分は本舞台よりその「舞台裏」に興味があるタイプなのだ。好きな映画や本、原稿や企画の選択の基準、友人たちとのおしゃべりの内容から芸能人の話題まで、キーワードは「舞台裏」だ。これですべて説明できる。要するに田舎者のミーハーってことですかね。

2月9日 寝る前に食べるのはよくない。就眠4時間前には食べるのをやめなさい、とよく言われる。このところ夜9時前後に飲食する機会が続き、テキメンに体調が悪い。寝付きが悪く、山に行く気力がわいてこない。身体だけでなく心にも微妙な暗い影を投げかけている。心身とももっさりして、身体から生気が抜けてしまった感じ。そんなわけで、この3日間、夜7時以降は食べ物(アルコール類も)を口にしていない。とたんに寝付きが良くなった。心も少し軽くなったような……。食い物ってすごいね。

2月10日 もう金曜日か。今週は何となく「浮かない日々」が続いた。朝起きるとき「やるぞッ」という、いつものエネルギーがわいてこない。ヨーロッパの信用不安だとか、病気や未来への不安、死について考えながら目覚める、どうにも暗い1週間。どうしてこんなことになるのか。何でも雪のせいにしてしまうのも問題だが、「雪に閉じ込められている」という閉塞感が気持に大きな影響を与えていることはまちがいない。それにしてもヨーロッパは大丈夫なのか。世界は一時的な危機の中にあるのではなく、大きな歴史的ターニングッポイントに立ちすくんでいる。誰の目にも、ちょっと先の未来すら見えてはいないのだ。
(あ)

No.580

計画と無計画のあいだ
(河出書房新社)
三島邦弘

出版業界について書かれた本はほとんど読まない。生意気にも何冊か出版本を出させてもらっているのにゴーマン極まりない。出版は我流が一番、と信じているところがあるためだろう。人マネをしてもしょうがない世界なのだ。それとここ数年かまびすしかったIT革命によるメディアの消滅云々の類書が、ことごとく予想外れ、期待外れだったのも影響している。危機をあおり、紙の本の未来を言い当てたかのように見えた著者たちの名前も最近はあまり聞かなくなってしまった。これは「3・11」が大きなターニングポイントだった。この時代に若者が出版社を興す、というのは時代に逆行する大事件である。近頃、頻繁に名前を耳にすることの多くなった「ミシマ社」は、私自身も10冊近く、この版元の本を買い求めていることからもわかるが、彗星のように現れた出版界の新人である。社主の三島さんは1975年生まれ、出版社は2006年に立ち上げた。その出版社の本をすでに10冊も読んでいるのだから、確率的に言えばものすごい頻度である。本の中に挟まっている手書きの「ミシマ社通信」もユニークで、毎号大切にとってある。最低10年を一単位として見なければ、出版社の将来性や危機を予測するのは難しい。あっという間に倒産もするし、ベストセラー一冊で社員数が膨れ上がったりする職業だ。まだその10年にも満たない出版社だが、この本を読む限り、この出版社の未来は明るい、ような気がする。

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