Vol.633 13年1月5日 週刊あんばい一本勝負 No.626


賀状・ストレス・ヤンキ―化

1月1日 明けましておめでとうございます。大晦日の昨夜8時ころ、駅前まで1時間半ほど散歩。街は死んだように静かで、不気味なほど。この時期には秋田で一番にぎわう近所の三吉神社にも人っ子ひとりおらず、無人の屋台が数時間後の喧騒にそなえて息を整えていた。年末は長女の息子(孫ってことですね)、正月は長男が帰省。そのため恒例の正月山行はなし。久しぶりに家でのんびり。今年は公私とも激動の年になりそうな予感があります。ここまで生きてきたから、もう何があってもいいや、と言いう開き直った心境です。変わらぬご指導、ご鞭撻、お願いします。

1月2日 去年の11月からダイエット中だが、この正月が最大の「体重の崖」だ。そのことは重々承知している。わかっているのに年末、ジャージャーメン、カレー、カンテン、肉じゃが、とたっぷり料理を作っってしまった。ヒマだったのだが、家族に食べさせたかった。けっきょく残れば自分の口に入る運命なので賭けといえば賭け。大晦日の時点で体重は5キロ減、正月2日間で1キロ増。2ヶ月間で4キロ減はいいペースなのだが、今年の正月休みは例年より長い。暴飲暴食の誘惑との戦いはまだまだ続く。油断はできない。休み明けまで1キロ増ぐらいで何としても止めたい。

1月3日 坂本竜馬や白洲次郎といった人がなぜ人気があるのか、よくわからなかった。ちょっとでも歴史の勉強をすれば、彼らがほとんど偉大な業績など残していない人物のは自明の理だ。なのに彼らの人気が芸能人並なのは、金八先生や橋下徹らと同じ、その根っこの精神が「ヤンキ―」だから、というのが精神科医・斎藤環著『世界が土曜の夜の夢なら―ヤンキ―と精神分析―』だ。相田みつをなる、どうみてもいかがわしい人物もやはりヤンキ―であるらしい。なんとなく嫌いで、その人気の理由がよくわからない現象や人物が、「ヤンキ―」というキーワードで切り取られると、目からウロコ、なるほどその理由が腑に落ちる。現代日本のヒミツはヤンキ―文化にあり!」という帯文にうそはない。

1月4日 長い休みになると、いろいろ考え込んで落ち込む。ここ数年は山歩きに夢中で、そんな時間も少なかったのだが、今回は珍しく10日近くなにもない休みが続く。これはよくない。昨日あたりからみぞおちのあたりが重苦しい。除雪ストレスもあるのかも。除雪車が来るたびに事務所2階はグラグラ揺れる。そのたびに地震の時と同じ緊張感が襲ってくる。逆に知的ストレスが解消、気分のいいことも。なぜ近頃の若いラーメン屋はみんな作務衣やタオルの深巻き姿なのか。その意味がわかった(速水健朗著『ラーメンと愛国』)。なるほど、そうだったのか。納得なっとく。

1月5日 年々いただく年賀状が少なくなっていく。20年以上前から年賀状はやめた。いただく賀状もほとんどが印刷で直筆のものはめったにない。今年印象的だったのは電子出版の草分けボイジャー社からのもの。「確信以上の具体性を持って 本の時代は終わる」と言い切っている。これは新刊本(「マニュフェスト本の未来」)の宣伝コピでもあるようだ。電子書籍の先頭を20年以上走り続けながらも、厳しくデジタル偏重世界に警鐘を鳴らしてきた会社である。昨日や今日時流に乗って「紙かデジタルか」を声高に叫んでいる輩とはレヴェルが違う。この本物の電子書籍パイオニアからの賀状は、ものすごく心に残った。
(あ)

No626

島へ免許を取りに行く
(集英社インターナショナル)
星野博美

日常に小さな風穴を開けたくなった40代女子が向かったのは、牧場みたいな自動車学校だった――って、帯に書いてあるが、これは小説ではない。ノンフィクションだ。書いたのは大宅賞作家なので正真正銘ノンフィクションのプロである。そのプロが書き下ろしたテーマが、自分の運転免許証取得の顛末だった。ほんとにこれしか(書きたい)テーマはなかったの? と誰もが思ったのではないだろうか。少なくてもプロの作家というのは「書くこと」をみつけるプロでもある人たちのことだ。それが、愛猫をなくし人間関係がズタズタになった、という個人的事情から気分転換で挑んだ免許取得の日々を綴って、それを本にしたのだ。それって安易すぎない? といいたいところだが、最初にこの本の新聞広告を見たとき、「あっ、これはいいテーマだ、さすがプロ、やるもんだなあ」というのが正直な印象だった。プロの作家としての「安易さ」を逆手にとった発想だ。普通なら短いエッセイや短篇小説にしかならない題材を、1冊の本になるほど深く、丁寧に書きこんでいる。一種の紀行エッセイに近いのかもしれないが、そこに40代作家女子の戸惑いや発見を絡めて成り立った自分探し本でもある。

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