Vol.639 13年2月16日 週刊あんばい一本勝負 No.632


CT検査とインスタント・ラーメンとクライマー

2月9日 本の定価表示は税込みだ。1700円の本体価格なら「定価1785円(本体1700円+税)」というふうに「くるみ価格」を表示する。来年には消費税が上がるから、これではまずい。あまり深く考えずにやってきたのだが今年の新刊、増刷本から「定価(本体1700円+税)」と本体表記することに決めた。にわかに昔の3パーセントから5パーセントへアップしたときの、あのシール張りの煩わしさが生々しく思い起こされたからだ。新刊よりも既刊本の売り上げのほうが大きいから本当は消費税アップ騒動の前から定価表示は変えるべきだった。遅きに失した感は否めないが、これはあきらかに自分のミス。でも10%になる頃には、もうこの世界から足を洗ってるかもね。

2月10日 角館で行われたトークショーへ。雪がひどかったので車はやめ新幹線で。これが正解だった。さきごろ日本人で初めて8千m峰14座を無酸素完全登頂したプロ登山家・竹内洋岳さんと作家の塩野米松さんの対談だが、会場は補助席が出るほどの盛況。話が面白く、忘れないようにメモまでとってしまった。メモをとって人の話を聞くなんて久しくなかったなあ。講演後、主催者の歯科医師Iさんと塩野さんのご好意で、小料理屋さんの打ち上げへ。車なら飲めなかったから新幹線で大正解だったわけだ。竹内さんは下戸。緑茶を飲みながら、最後まで付き合っていただき恐縮。偉業を達成した人なのにまるで威圧感がない。人間ができているせいだろう。飲食にも健康にもトレーニングにも何の興味もない、と言い切るあたりが可笑しかった。

2月11日 前日、角館で飲んで新幹線で帰ってきたのだが竹内洋岳さんと会ったコーフンで、魔が差した。駅から歩いて家に帰る途中、なじみの(というか昔の友人のやっている)バーに立ち寄ってしまった。明日は山行があるので、自制に自制を重ねて(なら行くなよ)1杯の水割りだけでおさえ、かろうじて午前様ギリギリで布団にもぐりこんだ。翌朝、雄和の高尾山へ出発。完璧に二日酔いだ。登っている間ものどがカラカラに乾き、水分補給が忙しかった。下山後の温泉でもちょっと脱水症状のような違和感があり、水を飲み続けた。夜7時にはベッドにもぐりこんだ。情けない。もう2日酔いで山に行けるほど余力のある身体じゃない。

2月12日 夜4回ほど尿意で目が覚めた。昨日の山で脱水症状気味で、水をがぶ飲みしたせいだろう。朝はすっきり目が覚めた。実は今日も連チャンで山行の計画があったのだが昨日の疲労度が激しく、今日はキャンセルさせてもらった。まだかろおじて自制心が残っているなジブン。で、3連休最後の今日は何をするか。なにもしないことに決めた。仕事場でCDを大音響で流しながら本を読み、日誌を書き、ブログの原稿も書こう。後は夕食の準備をして晩酌をし、9時には布団に入って寝てしまおう。あっ駅前までの散歩も欠かせないな。何にもしなくてもグズグズしていると1日はすぐに飛び去っていく。

2月13日 3連休の後の週はハードになるのが常だ。1日少ないからだろうが、たった1日短いだけで1週間の濃度がこうも強くなり圧迫感すらある。今週も春の新刊DM発送があり、小さなイベントもいくつか。個人的にも前から予約を入れていた病院通いや原稿の締め切りも。ま、ヒマよりはいいが。恒例のダイエット報告もしておこう(誰にも頼まれていないが)。もう4カ月目に突入したが月2キロ減の順調な下降ペースがここに来て少し鈍くなった。6キロ減あたりでウロチョロ。早くこの壁を突破したい。これも今週中には目処をつけるゾ。

2月14日 近年はっきりと病名として認知されたらしいのだが「気象病」という病気がある。わかりやすく言うと「天気が悪くなると古傷がうずく」というやつだ。特に秋田ではハタハタの季節に天候不順になることが多く、気圧の変化の激しい山などでは気象病が多発するらしい。低気圧で血行が悪くなり、体がむくみ、自律神経のバランスが崩れる。要するに等高線の混みあった山では気圧の変化に身体(脳)が対応できなくなってしまうのだ。先日の高尾山でもこの手の症状があった。すわ気象病、と色めき立ったが、どうやら二日酔いのせいだったことが判明。さえないなあ。天気と身体は密接な関係を持っている。

2月15日 2か月前の健康診断で胸部レントゲンに影があるため再診したのだが、結果は「異状なし」。念のため昨日はCT検査も受け、今日は朝一番で結果を聞きに病院へ。大学病院までは歩いて5分。昨夜から「もし異常があったらどうしょう」とビクビク、オロオロ、不安を隠せなかった。が、またしても異常なし。生まれて初めてのCT検査だったが、想像とは違い派手めな毛布を敷いた指圧室か整骨院といった風情で、ちょっぴり拍子抜け。結果報告する医師も「問題なし」以外の言葉がなかった。逆にいま流行の「糖質制限食(ダイエット)について、こちらから質問してみた。なるほど耳学問だけでは判断できない、いろんな要素も視野に入れる必要がある、ということを教えてもらう。オレも転んでもただじゃ起きない。

2月16日 こうみえてかなりの臆病者。胸部CT検査の直前まで「異状があったらどうしよう」とビクビクオロオロ。もし異状がなかったら、お祝いに好きなものを食べよう、と決め、前日アトランダムに書き出してみた。高級料亭料理から自家製湯豆腐まで千差万別候補に挙がったが、結論は「山でインスタン・トラーメンを食べる」に落ち着いた。「マルちゃん正麺」にネギと生卵を入れガスコンロでアツアツのやつを厳寒の山中で食べる。これしかない。普段食べないものをハードな環境で食べるのは快感だ。山用ガスコンロを新調したのも大きい。この火力のおかげで山ごはんが一挙に楽しくなったのだ。それにしても、焼肉でもイタリアンでもお寿司でもなく、山ラーメンって、オレって、けっこういい人だなあ。
(あ)

No632

私にふさわしいホテル
(扶桑社)
柚木麻子

若い女性の書いた〈文壇暴露小説〉というので読んでみた。けっこうこの手の内幕ものの本に弱い(好き)のだが最後までどこが暴露本なのか、よくわからなかった。「ホテル」は山の上ホテル。これは実名で登場するから問題はない。新人作家である主人公・加代子のデビュー作は見事、新人賞を取るのだが、そのときの同時受賞者は元アイドルだった。これが加代子にとっては最悪の事態。話題性は100パーセント、アイドルにさらわれ、プライドはずたずた。このアイドルというのは水嶋ナニガシのことか。もう水嶋ナニガシというタレントが賞を取ったこと自体、多くの人は忘れてしまっている。文学賞そのものの社会的価値が一昔前から暴落を続けているし、アイドルの賞味期限はもっと短い。そして主人公の前に立ちはだかる有名作家、東十条宗典。これはもう誰が読んでも伊集院静以外の何物でもない。この人物が主人公とことあるごとに対立、トラブルも次々と襲ってくる。はては味方だと思っていた編集者にまで裏切られながらも野心とアイデアで難局を乗り越えていく新世代女子の下剋上物語だ。帯には辛口書評家の豊崎由美が「ユズキ、直木賞あきらめたってよ(笑)」という秀逸なコピーが付いている。この程度の本では大きな賞はもちろん無理。

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