Vol.645 13年3月30日 週刊あんばい一本勝負 No.638


毎日、寒天を食べるだけの日々

3月23日 自分の専門領域なのに意味がまったくわからないことがある。経産省が東日本大震災復興関連予算の名目で10億円もの予算を付けた「コンテンツ緊急電子化事業」だ。東北関連出版物を電子化するなら金を出します、というプロジェクトである。誰がこんなことを必要とするのか、出版界から異議や反発がないのも不思議だ。主体となっているのは「出版デジタル機構」なる官民団体で、これもわけがわからない組織だ。「天下りと大手出版社の給料ドロボー中高年ポストの会社だろ」「単なる中抜き無駄団体じゃねーの」と喝破したのは獄中にいるホリエモン。部外者のこの発言は業界内部にいる人間より正鵠を射ている、と私には思える。あなた方の本を無料で電子化してやりますよ、なんて猫なで声で国や大企業に言われたら、まずは眉に唾を付けるべきだ。

3月24日 能代市にある房住山にスノーハイク。4名のモモヒキーズメンバーの山行だったが、天気も良く、いい汗をかいた。が、県北地方はいい温泉が少ない。山の後は温泉が楽しみなのだが、迷うほどある県南部に比べ、県北部は選択するほどの数がない。日帰り温泉の有無って重要だ。

3月25日 毎日が退屈すぎるほど「決まった日常」のなかを流れていく。日々退屈したくても、やりたいことが山のようにあり、その山をひとつひとつ切り崩していくうちに、1週間はあっという間に終わってしまう。というのが老後の理想だった。が、人生はそううまくいかない。老いた母たちがいろんな問題を起こし、子供たちの家庭の障害が持ち込まれ、ご近所トラブルに巻き込まれる。自分や身内の病気にあたふたし、仕事はうまく運ばない。かくしてルーティンはあえなく崩れ心身ともぐったりの日々となる。身の回りの苦労が雪のように消え、自分のことだけを考えて好きなことだけに集中できる老後というのは、たぶん、そんなの、ないんじゃない。

3月26日 なんだか最近、いい映画や面白い本にうまく「出会っている」。真山仁『黙示』は食糧問題と農薬がテーマのエンターテイメント。杉本鉞子『武士の娘』はもう古典のベストセラーで読ませるなあ。宇野常寛『日本文化の論点』も最新若者文化論としてうなった。寝床には安岡章太郎の、古書店で手に入れた装丁の美しい『酒屋へ三里 豆腐屋へ二里』が早く読んでとせがむ。トイレには読みさしの三木成夫『内臓とこころ』、1日一回ページが捲られるのを心待ちしている。散歩の喫茶店用は中谷宇吉郎エッセイ集『雪は天からの手紙』だ。

3月27日 今日は「一票の格差」訴訟の秋田判決の日。夕方のニュースでは久しぶりに秋田が全国区で連呼される予定……のはず。今日は最近観た面白かった映画の話。とりあえずは「人生」というキーワードで検索したら『最高の人生のはじめ方』と『人生、ここにあり!』『人生はビギナーズ』の3本が目に留まり、さっそくネットレンタル。3本とも佳作で悪くなかった。でも一番はロマン・ポランスキー『おとなのけんか』かな。ウディ・アレンの『結婚記念日」と双璧の会話劇で、この手のコメディが好きだ。日本人俳優によるブラジル映画『汚れた心』は日系移民の「負け組」を描いたもの。その深い洞察力(ブラジル人の)に感動した。日本映画では『夢売るふたり』が思いもかけずよかったかな。

3月28日 「一票の格差」秋田判決はインパクトなく、ニュースになりませんでした。申し訳ない。ホリエモンのほうがニュース価値は大きかったのは意外。うかうかしてたら3月も終わり。なにやってんだかほんとに。時間の早さに身体がついていけません。体重は8キロの壁を突破したのはいいのですが、今度は9キロの壁の前で2週間近く立ち往生。まあ、う回路を探してゆっくりトラバースするしかない感じですね。無理な食事制限や過剰な負担をかけずに体重を落とすのがテーマですから、時間をかけて、のんびりやっていくつもりです。それにしても身体が軽いって、いいもんですね。

3月29日 施設に入っている母が腰を痛めて入院、お見舞いに行ってきた。寝込んだとたんに衰弱が激しく、心配だったのだが病院食のカンテンをうまそうに食べていた。少し安心したが、母は大のカンテン好きだ。子供の頃、おやつによく食べさせられた記憶がある。それが高じたのだろうか還暦を過ぎたいま、週に1回は自分でカンテンを作り食べている。昨日は市販の缶詰(フルーツ・ママレード・ジャム)を使い、3種類のカンテンを作った。ダイエット中で甘ものはご法度だが、素材以外の砂糖を使わないカンテンはOK、ということに勝手に決めている。毎日カンテンを食べることだけが楽しみの、幸せ薄い日々である。
(あ)

No638

ラーメンと愛国
(講談社現代新書)
速水健朗

この本には驚いた。目からうろこが落ちる本、というのはありそうで、なかなかない。そういえば岩波ジュニア新書の川北稔『砂糖の世界史』はそんな稀有な1冊だった。砂糖というキーワードで世界の近代史をダイナミック描いた、びっくりするような歴史の本だった。この本一冊で還暦まじかのオジさん(私のこと)は一挙に歴史好きになってしまったほどだ。本書もそれに匹敵する本ではないのだろうか。「ラーメンの現代史」といってもいい。内容が前述した『砂糖の世界史』に限りなく近いからだ。砂糖ならぬラーメンを切り口に優れた日本現代史を描いた本になっている。目次を見ればそれも一目瞭然だ。「ラーメンとアメリカの小麦戦略」「T型フォードとチキンラーメン」「国土開発とご当地ラーメン」「ラーメンとナショナリズム」といった具合。ラーメンの本なのに、太平洋戦争や戦後闇市、アメリカの小麦農家や大量生産技術の時代背景、田中角栄や連合赤軍のあさま山荘事件などの歴史的事件が、ラーメンを縦軸に、重厚に描かれている。ラーメン屋の作務衣姿はもはや定番だが、これは陶芸家に代表される伝統工芸職人のいでたちが源泉だそうだ。エセ「匠」風ラーメン・ファッションだ。蕎麦という表記はそば粉30%以上の含有が条件なのに、沖縄そばは小麦粉だけなのに「そば」の表記が許されているのはなぜか、なんて、実に為になる本だ。

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