Vol.664 13年8月10日 週刊あんばい一本勝負 No.657


毎日おさんどん、でも苦ではない

8月3日 先週はいろんなことがあった。いいことは少なかったが、それでもちゃんとフツーに時は過ぎていく。もう8月。来年からこれまでの仕事のやり方を大幅に変え、大きな節目の年にしようと思っている。が、それも少し前倒しになりそうだ。そろそろその節目のための準備に着手しなければ。これから秋にかけて、のんびりとはいかなくなりそうだ。何でも自分で決めて、自分でやるしかない仕事を、好きで選んだのだから、いまさら泣き言をいってもしょうがない。若いころのように試行錯誤をしながら、自分を信じて、前に進む道もまた楽し。

8月4日 日曜日毎に大きな山に登っている。焼石岳2回に岩手山、和賀岳に今日は虎毛山だ。みんな秋田では難関とされ、初心者は敬遠する山ばかりだ。特に今日の虎毛山はハードな割に面白みに欠けるせいか登山者がめっぽう少ない山だ。日曜日だというのに単独3名の登山者にしか会わなかった。2時間ぶっとおしの登りで、しかも景色がほとんど見えない林の中を、ひたすら黙々と歩きつづけなければならない。。さすがにきつかったが、登り終えて、なんだかこの山が好きになった。シャレで阪神タイガースのファンがこの山に登って優勝祈願をしたら本当にその年、阪神タイガースが優勝した、といういわくつきの山だそうだ。無愛想だがシャイで寡黙な山だ。

8月5日 夏はやっぱり焼酎がうまい。オンザロックがいい。もう40年以上前から乙類の焼酎ファン。当時は日本酒王国秋田では、入手することすら困難で、焼酎ファンであることを告白しただけで、苦笑されたり、露骨に憐みの表情を浮かべられた。冬になるとやっぱり日本酒が恋しくなるが、ビールを飲まないせいか夏はもっぱら焼酎だ。体重が増えないのも、どんな肴にも合うのも、いい。そういえば昔、焼酎のミルク割(牛乳)に凝っていたことがあった。これはスイスイ呑めるが、カロリーがバカ高い、と指摘されやめたことがあったっけ。都市部では日本酒より焼酎が好まれる。これは経済的な理由ではなく、カロリーの高低に寄るもの、という説を聞いたことがある。本当だろうか。

8月6日 30年も前に作ったスーツが今も捨てられない。性格なのでいかんともしがたい、と思っていたのだが先日、断腸の思いで1着、生活ゴミに紛れ込ませて捨てた。ふんぎりがついた。その3日後、2着の古いダブダブの背広を捨てた。本当はもらってくれる人がいると一番いいのだが、30年前の背広をもらって喜ぶ人などいるはずもない。つくったはいいが着る機会がほとんどなかったので2,3度しか袖を通していないものも何着かある。暫時、間隔をおきながら処分していくつもり。まだ心のどこかに痛みを伴った「もったいない」が疼いている。定年退職したサラリーマンの人たちは現役時代の背広をどうしているんだろう。

8月7日 夕食を終え夜の散歩へ。近所を大きく半周しノースアジア大学に出たあたりで、ガスレンジをつけっぱなしだったことに気がついた。アサリの深川煮を弱火で炊いていたのだ。家までは2キロ。全速力で走りだした。散歩開始から30分は経過している。2キロは長い。鍋から引火、もう煙が出ているのでは。いや報知機が鳴り続け、近所の人が消防署に連絡……と悪いことばかりが脳裏に浮かぶ。奇声を上げながら(苦しくて)走り続け、土足のまま家に上がり込んだ。……火は消えていた。ちゃんと消して出たのだ。ホッとしたが、それから1時間、なぜか身体から汗が出続けクーラーも効かない。一人暮らしのリスクって、これか。

8月8日 仕事もバタバタしているのだが、それ以外に、ある講演会の会場探し、舎屋の改修工事、家の倉庫撤収、屋根の葺き替えなど雑事が立て込んでいる。交渉事が多いのに、ちっとも進まない。これではどれも中途半端で終わってしまう。自分だけでやろうとするからダメなのだ。いろんな人に相談したら見事に物事がスムースに動き出した。学生時代から何でも自分でやるのが一番と妄信してきた。でも不得手な渉外などの分野は年と共にしんどくなるばかりだ。他者にゆだねて、甘える、というのもアリだ。これからは甘え上手になろうかなあ。

8月9日 アマゾンのユーズド(古本)で本を買おうと思いクリックしたら、忌まわしい記憶がよみがえった。裁断され、全ページ単票化された、輪ゴムでとめた紙の束が送られてきたことがあったのだ。もう一度サイトをよく観るとやはり「裁断済み本」と書いてあった。急いで取り消した。ご丁寧に「スキャニング用です」とまで明記している。本はここまで来てしまった。大部の研究書の「ハイライト部分のみ」といって章単位で切り取られた「部分売り」もアリだな。背貼りを切り落とされ本の態をなさないものが流通してしまう世界に私たちはいる。そろそろ「本」という概念を変えなければならないのかも。
(あ)

No657

細雪(全)
(中公文庫)
谷崎潤一郎

 文庫本全1冊で930頁余りの長編小説だ。小説という割に起きる事件は地味だ。中身は2人の若い女性の身辺に起きる「お見合い」とささいな恋愛ごと。この2点に集約されるシンプルな物語だ。大阪船場の旧家の美しい4人姉妹が主人公だが、三女の無口な雪子と、奔放自由(といってもこの時代のだが)な四女妙子の起こす事件や恋愛ごっこが、背景に日中戦争の足音を忍ばせながら進行する。関西の風俗・行事も端々に淡々と描かれる。それだけの物語と行ってしまえば身も蓋もないのだが、どうしても「デジタル世界」を生きる現代人の私には違和がぬぐいきれない。懐古趣味というよりも、まるで江戸時代の物語を読んでいるような、もどかしさはいなめない。驚くのは、大阪から東京に転勤になる際の引っ越しの物々しさだ。今なら数時間で移動できるが新幹線も飛行機もなかった当時は一大事業だったことが場面場面からうかがわれる。物語の骨子になっている「お見合い」の仰々しさにも、驚くばかりだ。自由に恋愛することが珍しかった時代だろう。格式のある家風を維持する為には、結婚というのが最大の儀式なのだ。お相手はお金があって、格式があれば、年をとっていようが容姿が変だろうが、それはあまり関係はない。すごい世界だ。作者は大文豪と呼ばれる人だが、こちらはいい読者ではない。その作品を読んでも、ほとんどリアリティが感じられない。永遠に読み継がれる物語って何なんだろう、と考えてしまった。

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