Vol.703 14年5月17日 週刊あんばい一本勝負 No.696


ビミョーな日々

5月11日 日曜日はルーチンの山歩き。今日も天候に恵まれ、湯沢市にある777mの東鳥海山。うちのHPで「リトアニア留学日記」を1年間連載して好評だった国際教養大のY君も4年生になり初参加。初参加といっても留学前からよく一緒に登っていたのだが、リトアニアから帰国後は就活やらなんやらで忙しくなったようで、会えなかった。しばらくぶりに会うと、なんだかちょっと大人びた感じ。Y君は根っからのジャーナリスト志望で、就活も難関A新聞社を狙っていたのだが、なんと無事内定をとった。お祝いの山歩きにもなった。リトアニア留学する前、壮行会で何が食べたい、と訊くと「焼肉です」と即答したY君だが、今回の就職内定祝いは「やっぱり肉っすねえ」とのこと。そうか久々に焼肉に付き合うことにするか。

5月12日 新刊が河北新報の記事になったようで、朝から電話注文があいつぐ。新聞というか地方紙の威力はまだまだ侮れない。でも昔に比べると、これも長くは続かない。せいぜい2,3日のフィーバーで終結をみる。それでも本の販売に弾みがつくからメディアに取り上げてもらうのはうれしい。著者が必死にプロモートするぐらいの積極性がないと、もう本は売れない。著者には宣伝マンとしての役割もある。本を出してもらえば、それで終わり、という著者とはよほどのことがない限り仕事をしないのが最近の傾向だ。今回の本の著者は自分で新聞社に売り込みに行ったという。このぐらいでないともう本を出す資格はない。

5月13日 山で採ってきた(もらってきたといったほうがいいか)コゴミとコシアブラを調理。今朝はコゴミの胡麻和えを食べた。美味しかった。今夜はワインに合わせてコシアブラのオリーブオイル和えの予定。どちらも調理法はSシェフに教えてもらった。コゴミの汚れ洗いは少し手間だったが、うまく調理でき満足。山に行っても山菜には足が向かわない人だったのだが、ちょっと状況が変わってきた。この頃はいち早く山菜のありかを見つけられるようになった。場数を踏むうち自然とそうなったのだ。先日は大曲の山グループとご一緒したのだが、「コシアブラは若芽を刺身で食うのがうまい」といわれびっくり。実際に食べてみたら、あら不思議、えぐみもなく口中に清涼感が広がって本当に美味しかった。山菜は奥が深い。

5月14日 忠犬ハチ公は本当に「賢いイヌ」だったのか。30年ほど前に「中央公論」に掲載された京都精華大教授の論考では、はっきりと「主人が死んだことも悟れない単なるバカ犬」と結論付けている。その論考にこちらも全幅の信頼を置いていたのだが、去年出た仁科邦男『犬の伊勢参り』(平凡社新書)を読んで、その信頼が揺らいだ。犬が単独で青森(黒石)から伊勢神宮まで行き(参宮)、帰ってくる。笑ってしまいそうになる話だが、江戸時代、こうした犬の単独行は数え切れないほどフツーにあった。これは文献から証明できる歴史的事実だそうだ。となればハチ公もエサ目当てとはいえ、笹塚の自宅から渋谷駅に毎日通い続けたことも不可思議な出来事ではない。要するに周辺に決まった道筋を辿れるように配慮した「世話をする人間」がいたわけである。なるほど、この本はショック。

5月15日 なんだか忙しいような、山を越してヒマになったような、微妙な日々が続いている。今週末には新刊ができてくる。その準備もあるが仕事のメインは月末からはじまる夏の愛読者DM通信のもろもろの制作。これはある程度一段落したのだが、付随する新聞広告出稿や、3点の編集中の新刊の雑務が山積みのままだ。週末は鳥海山、太平山と大きな山が立て続け。これも心身とも入念な準備が必要で、私にとっては「遊び」というより大切な「仕事」の一部だ。今日は働きはじめて1か月が過ぎた新入社員の「おごり」で、カミさんともども食事にお呼ばれ。午前中は美郷町まで出かける予定。こんなふうに書き出してしまうと、なんだか、やっぱりあわただしい日々だ。

5月16日 目も耳もダメだが鼻はけっこう自信がある。山に入っても動物の異臭や花々の芳しい香りに、いち早く反応できるのがちょっぴり自慢だ。仕事場や家でも匂いには敏感で、喫煙者が訪問して帰った後も、その周辺に煙草臭がしばらく残っていて気になってイライラする。最近、なんとなく事務所に異臭がする。臭いの素を必死に辿ったが原因がよくわからなかった。後日、新入社員が「隠れて」煙草を吸っていたことが判明。きつくしかったのだが、仕事場や車、衣服に臭いがつかないよう外で細心の注意を払って喫煙していたのだ。そうか、やっぱり煙草だったのか。ゴリゴリの禁煙論者ではないが、煙でいろんなものが汚れるのが嫌いだ。酒場の煙草は許せるが、仕事場が煙草臭いのはイヤだ。新入社員にははやくやめてほしいのだが、こればっかしは嗜好品、命令はそぐわない。
(あ)

No696

野武士、西へ
(集英社)
久住昌之

 この著者のファンだが、新刊が出たから買うわけでもない。読んでいない既刊本も多いし、最近出た山歩きの本はそう面白いわけでもなかった。基本スタンスは食と日常と旅。そのジャンルのどれかと必ずテーマがかかわっている。ジャンルでいえば食をテーマにした本の多くを読んでいる。本書は旅がテーマだ。その中に出てくる食べ物の話が圧倒的に面白い。朝のNHKテレビ人気番組、火野正平の「自転車こころ旅」(正確なタイトルはわすれた)の中に出てくる、なんでもない食堂で食べる、なんでもない定食のような、すっとぼけた妙味が、両者に共通する「フツーワールド」だ。本書は突然、神保町から大阪まで歩いて行こうと思い立ち2年をかけて、行った地点まで戻っては歩きとおした実録エッセイ。月イチ散歩で大阪まで歩くというのもすごい。自らに課しているのはガイド本を見ない。地図を見ない。ネットを見ない。自分の目で見て、そこで感じたことを、いつものようにフツーに記録するだけ。これがおもしろい。サブタイトルの「二年間の散歩」といういのも、すっとぼけていて味がある。旅の後半にはiphoneも使いだすが、基本的には情報に頼らない「見知らぬ土地の散歩」を貫いている。久住ワールド全開である。

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