Vol.795 16年2月27日 週刊あんばい一本勝負 No.787


忙中閑あり、やることなし

2月20日 散歩帰り、「和食みなみ」で寄り道いっぱい。仕事も一段落で気持ちもリラックス。いつもの肴をつまみながら角のソーダ割を呑んでいた。のだが突然、女将の声で飛び起きた。なんと居酒屋で居眠り。こんなことは初めてだ。いくらなじみの店といっても人前、こんな失態はこれまでない。これが老化というものなのか。そういえば仕事場でも午後になるとよだれ垂らして眠むりこけてしまうことが多くなった。ああ、おぞましい。俺はもう終わりだ。死んだほうがまし……と嘆じながらトボトボ歩いて家まで帰ってきた。今朝、体重は1キロ弱減。外で飲み食いした翌日に体重が減るのは、どのようなメカニズムによるものなのか。誰か知りませんか?

2月21日 荒れる天候予想だったが起きたら雨も風もやんでいた。今日は高尾山スノーハイキング。7時半にすべての準備を終え、迎えを待っていたら来たのはカミさん。施設に入っている94歳の義母が体調異変で日赤に緊急搬送とのこと。すっかり登山モードだったのだが、家に帰って着替え、スキーに出かけた息子を急いで呼び戻し3人で日赤へ。義母は思ったよりも元気だったが、CTスキャンをとったら大きな腫瘍が。そのまま日赤に入院という段取りを考えていたが、事態はこちらの予測より進行していた。いったん施設に戻り、市内のターミナルケアへの病院に入ることになりそう。いつ何が起きても心の準備をしておいたのだが、実際にことが起きると結構あたふた。病院に行くのにマスクは忘れるし印鑑も忘れた。

2月22日 今週はなんだかシンドそうだ。地元紙に全3段の広告が出るし、春DMの編集作業も最終段階、朝日5段12割広告も週末にある。新刊が2本と増刷が1本、世に出るのをいまかいまかと待っている。いろんなことがせわしなく背中を突っついてくる。そんな最中、義母の入院騒ぎ。こんな時に限って来客も多い。しかも月末だ。こういう時は冷静になって優先順位を決めながら……と考えているものの全身がヒートアップ、身体がカーッと熱くなってしまう。臆病者なので、もうこうなると成り行きに身を任せるしかない。ヘタな考え休むに似たり。さらにこの混乱状態中にコピー機の調子まで悪くなってしまった。おれ、何かそんな悪いことした。

2月23日 前に録画していたTV番組『女子トップクライマー ピレネー縦断の旅』を観る。「谷口けい」を初めて知った。昨年末、大雪山山頂で滑落死した女性だ。そうかこんな偉大な人だったのか。同じくドキュメンタリー映画で観たビル・カニンガムという写真家のことも初見だ。NYのストリートファッションを撮り続けている異色のオジイチャンカメラマンだ。ほとんど秋田の「中島のてっちゃ」のような人で、これは面白いキャラクターだなあ。今つくっている野菜の本に関しても驚くことばかり。秋田の伝統野菜30品目の生産が県南部に偏っている。どうしてかな、と疑問に思っていたのだが、院内銀山や吉野鉱山といった鉱山文化と深く関わっていた。教えてくれたのは本(マンガです)の解説を書いてくれたYさん。最大の消費地は当時鉱山だったのだ。日本酒の秋田での起源や隆盛も鉱山が深く関わっている。なるほど。

2月24日 シンドイ日々が続いている。今月末は春のDM 発送がある。その準備に集中したいのだが、そううまく事は運ばない。悠々自適のご同輩をみていると正直うらやましい。でも引退はまだまだ先のこと。やり残しが多すぎる。やりたいことが山ほどある。その山は見えているのだが登るための準備や装備に手が付いていない。もしかすれば準備も装備もできないまま老いさらばえて行くのかもしれない。とりあえずは「やりたいこと」をエネルギーに老体にムチ打つしかない。今夜は坂本シェフの料理教室。楽しみだ。

2月25日 デザイナーが頑張ってくれたこともあり春DM の印刷所入稿は今日中に終わりそう。明日と明後日は「マンガあきた伝統野菜」の編集作業がヤマ場。これを入稿すれば2月のノルマはすべて果たしたことになる。3月も3冊ほど新刊がある。でもそこまで考えるのはやめよう。呼吸が苦しくなる。仕事の合間に一息つこうと思っても何をしていいかわからない。仕事にべったり寄り添って生きてきたバツ。仙台の映画館でモーガン・フリーマンとダイアン・キートンが夫婦役の『ニューヨーク眺めのいい部屋売ります』が上映中。見に行こうかなあ。黒人夫と白人妻の老後の物語って面白そうだ。

2月26日 書名は扇情的であざといが和田秀樹『学者は平気でウソをつく』(新潮新書)は「学問」や「常識」への根源的な問題提起をしているまじめな本だ。著者は精神科医だが、本書の中で降圧剤であるレセルピンという薬についてこう書いている。当時(1970年代)、脳卒中多発地帯である秋田県でこの薬を多用し脳卒中を激減させた。がその反作用で自殺者が急増、重篤な抑うつ症状を招く副作用が確認され以後、この薬は使われることはなくなった。自殺率日本一の秋田では、その原因を巡って今もいろんな議論が交わされているが、こんな事実は知らなかった。また毎年秋田県内のみでノーベル賞候補としてニュースになる遠藤章さんのコレステロールを下げる薬スタチンは、欧米では心筋梗塞による死亡を大幅に減らしたが、実は日本ではほとんど効果が確認されていないのだそうだ。これも初めて知ったことだ。本を読んでいて突然「秋田」に関連したことが書かれているとメモをする。このメモを集めて「誰も知らない意外な秋田」という本をつくったら、売れるだろうか。
(あ)

No.787

ジョブズの料理人
(日経BP社)
日経BP社出版局編

 何かの本で本書のことを知りネット書店で検索したら、もう2年以上前の本で、安くなっていた。期待せずに読んだのだが、予想外の感動本だった。たまにはこうしたマグレもある。感動したのは天才・スティーブ・ジョブスと寿司屋のオヤジの関係ではない。本の語り部である寿司屋店主・佐久間俊雄の、その謙虚な姿勢に対してだ。この手の本はいわずもがな自慢話のオンパレードと相場は決まっている。店に来た有名人たちが自分の寿司をいかに愛していたかを過剰に披歴する。読み巧者はそのあたりを差っ引いて判断するしかないのだが、本書にはこれ見よがしの自慢話がほとんどないのだ。佐久間氏の1人称で書かれた本なのに編著者が版元編集部になっているのも、その表れかもしれない。佐久間氏の店も順風満帆ではなく、その波乱万丈の事情も正直に述べられている。そこが誠意ある本に仕上がった理由かもしれない。60歳になり、自分の店を売りに出すことになる。そのときにはジョブズから「アップルに来ないか」という誘いを受ける。この誘いに佐久間は「乗らなかった」。本書を単なる成功自慢話にしなかった真骨頂がここにある。外国でしっかり根を生やして生きる、日本人寿司職人の物語としても読んだほうがおもしろい。

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