Vol.825 16年9月24日 週刊あんばい一本勝負 No.817


早く秋にならないかなあ

9月17日 夕方の散歩の愉しみはラーメン屋戦争をみること。手形陸橋から大学病院通りにいたる直線距離500メートルに10軒以上のラーメン屋さんが密集している。今年に入って新しい店が3軒でき、激戦はますますヒートアップ。昼や夕方に行列のできる店は1、2店のみだが、パタリと行列がなくなるときがある。新規の店ができた時で、客足は一時的にどっと新しい店に向く。その行列も2週間ほどで消え、あとは閑古鳥。学生街なのでラーメン食いの需要はもともと高い。かなり遠くからも車でやってくるので駐車場問題も深刻のようだ。並んでいる若者は例外なくバカっぽく見えるのは、こちらの偏見だろうか。料理界のプロに聞くと、ラーメン屋は誰にでもできるのだそうだ。でも競争が激しいので勝ち抜くのが難しい。利益率も高く、当たればでかいのだが、なかなか当たらない。

9月18日 久しぶりの山行。今月4日に鳥海山に挑戦しているが、あえなく7合目でリタイア。それ以前の1か月もほとんど途中リタイアか青息吐息。暑さとザックの重さとクーラーによる体力低下を痛感した夏だった。それから2週間ぶりの山。待ちに待った秋の山である。曇天の肌寒ささえ感じる天候の中、真昼岳の峰越林道登山口から山頂へのピストン。暑くもなくリュックも軽く体調もいい山行は本当に久しぶりだ。暑さが自分にとってどれだけの負荷だったのを再認識。これからは夏の山はできるだけパスするほうがいいのかもしれない。気持ちいい汗をかいた。

9月19日 毎朝一杯だけコーヒーを飲む。儀式のようなものでコーヒーの味にはとんと無頓着、カフェインであれば何でもいい。最近は男鹿の「珈音(かのん)」という店のパックを使っている。これは確かにおいしいのだがけっこう高い。カミさんが愛飲していて注文したものをおすそ分けしてもらっている。でも普段使いは別だ。1袋20円以内で買える味の素のレギュラーコーヒーで量が少なく味薄く貧乏たらしいパックだ。まるで珈音と真逆だが、実はこれに本場ブラジルの友人からもらった苦いコーヒーを同量混ぜて飲むと、あら不思議、信じられないほどコクが出てマイルドで上品な香り立つコーヒーに変化する。大発見である。

9月20日 仙台の菊田茂男先生が亡くなった。享年87。東北大学国文学の教授で、秋田県内の大学関係者にも教え子がたくさんいる。退職後は東北大学図書館にある漱石文庫館長やその資料研究に熱意を注いだ。今年に入ってから2度ほど手紙をもらった。「漱石文庫の本をつくりたいので、秋田に行く」という連絡だったが、突然奥さんをなくされ来秋は中止。菊田先生はもともと秋田出身で、妹さんが無明舎のすぐ横にお住まいだった。その縁もあり突然訪ねてきたこともあった。口癖のように「漱石文庫の本をつくりたい」とおっしゃっていて、それが自分の最後の仕事だとも。その執念たるやすさまじいものがあった。ご高齢なので打ち合わせは「こちらから仙台に伺います」というと「いや、自分が秋田に行きます」と気丈だった。最後の仕事を成し遂げられないまま逝かれたことを思うと、さぞや無念だったろう。

9月21日 暑い日が続く。夏は終わらないのか。いつ秋はやってくるの。NHKが朝に放映している「ウルトラ重機」という番組に夢中だ。今日は福島沖で風力発電機を設置する機械を紹介していた。海の上で巨大な重機を精緻に組み上げる人と機械に、ご飯を食べるのも忘れるほどコーフン。年をとったら苦手だった「理系」に興味ひかれる。夜の読書は岩波ジュニア新書『理科がおもしろくなる12話』。これがちっとも意味が分からない。レヴェルが高くてチチンプイプイ。情けない、恥ずかし、悔しくて眠れなくなる。これまであまりにも「ものの原理」を知らな過ぎた。なぜそうなのか、どうしてこうなっているのか、そうした基本をないがしろにして表層だけをなぞってわかったようなふりをしてきた。
(あ)

No.817

猿の見る夢
(講談社)
桐野夏生

 オリンピックを観つづける自分にうんざりし、お盆中はTVをつけず、ひたすら本を読むことにした。さて何を読もうかと考えた末、普段なら絶対に手に取ることのない最新の芥川賞作品『コンビニ人間』を選んだ。魔がさしたとしか言いようがない。短いので数時間で読了したが、これが芥川賞の現実なのか。『火花』を慌てて読まなくてよかった、というのが正直な感想だ。面白かったが、あまりに物足らない。こういったときのために代打用に買って置いた本書を読んだ。それが本書だ。こちらは食事をする時間が惜しくなるほどの面白さ。話題の新人作家とはレヴェルの違う「プロ度」に納得。内容は内館牧子『終わった人』とちょっと似ている。還暦、定年を迎える一流サラリーマンの人生が不倫で破滅へと雪崩打っていく。ここまでは内館さんの本と同じ物語だが、ディテールや現代社会への考察が一回り大きい。登場人物にもスケールと影がある。いかにも謎めいたワンパターンのインチキ臭い占い師が登場する。このチープな設定にも読者への裏切りや挑戦が隠されている。社内の上層部との細やかなやり取りにリアリティがある。小説はディテールということがよくわかる。占い師同様、愛人との関係も紋切り型ではない。とにかく次の行動が予測できないのだ。

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