Vol.859 17年5月27日 週刊あんばい一本勝負 No.851


奥岳・マチュピチュ・自主規制

5月20日 土曜日は朝から明日の山行のための準備。明日は太平山奥岳。3時間連続の登りが続くハードな山。朝早いので前日に準備万端にしておかないと不安だ。早目に散歩を済ませ、暴飲暴食をひかえ、いつもより2時間は早く寝床に着く。でも結局よく眠れないまま朝を迎える。準備や登攀技術はどうにか仲間たちに迷惑をかけないところまでこなせるようになった。10年たっても慣れないのが前日のこの睡眠だ。早起きが苦手だし、小心ものなのでコーフンして熟睡できない。

5月21日 太平山奥岳。旭又コースだが登山口前の木橋が崩壊、迂回することに。快晴で無風。ブヨのような虫に苦しみながらの3時間半の山行だった。昔から「太平山に登れれば後の県内の山はどこでも大丈夫」といわれる。2週間前、鳥海山を七ツ釜避難小屋でリタイアしたトラウマが残っていて今回はキャンセルまで考えた。でもここを安易にパスすれば、もう大きな山にチェレンジする意欲が永遠にそがれてしまう。思い切ってチャレンジ、山頂に立つことができた。少しは自信が蘇ってきた。

5月22日 久しぶりにさわやかな目覚め。何時間寝たのだろう。3時ころに一度目を覚ましたが、あとは昏々と眠った。これからの山行の試金石のような思いで臨んだ太平山奥岳登山を無難にクリアーできた達成感が心地よい疲労につながっている。山行後は近所にオープンしたレストランでカミさんと食事。ここの料理にびっくり。ここ数年食べたものの中ではトップスリーに入る美味しさだった。

5月23日 両手首に5か所、山でブヨに食われた跡がかゆい。昨朝、珍しい来客があった。33年前、ひとり旅でペルーのマチュピチュに行ったのだが、そのとき私のガイドをしたというM君。こちらは申し訳ないが全く記憶にない。その当時、M君にはうちの本をガイドのお礼に送ったのだそうだ。その本がM君のその後の人生に大きな影響を与えたそうで、そのお礼を言いたくて秋田まで来たという。影響を与えた本というのは『喜びのミクロコスモス』(絶版)で、著者の河本さんも故人だ。M君は人類発祥の旅路を人力でトレースした関野吉晴の「グレートジャーニー」の撮影スタッフとして長く関わり、その後も定職につかず定住せず、今も世界を放浪している。1冊の本が与える影響の大きさにおののくが、33年前の記憶がまったくない自分も情けない。

5月24日 一段落ついて仕事はほとんどない。「ない」というのは大げさだが、手間ひまの掛かるものは印刷所に入ってしまった。あとはできてくるのを待つだけ。

5月25日 昨日からPCの調子が悪い。最初はアマゾンで本を買おうとクリックすると「アプリケーション・エラー」の文字が出て、それ以上進めない。同じように週3回入るアマゾンからの注文もエラー表示が出て開けなくなった。忙しい時期でないから苛立ちはしないものの、仕事へのやる気はガクンと失せてしまう。

5月26日 朝日新聞県版に連載しているコラムに太平山中岳の遭難事故に触れた。私自身その遭難の1週間前、同じ山に登っている。あんな狭いエリアで遺体が2か月間も発見されなかったことにミステリアスなものを感じたからだ。書くにあたっては慎重を期して太平山の主(ぬし)と言われるOさんに取材、その了解も得て掲載した。そのコラムに対して読者から「遺族への配慮がない」というクレームが新聞社に入った。遭難死した方のプライバシーや個人攻撃などにはもちろん一言も触れていない。事故の経過とOさんの見解を書いただけだ。私たちの身近な遊び場で起きた「遭難死」という社会的事件について、とても他人事とは思えず「検証が必要だ」と書いただけで、「遺族を慮って触れないでほしい」と抗議がくる。共謀罪も怖いが、こんな小さな「自主規制」が身の回りに蔓延しているのも、ちょっと怖い。
(あ)

No.851

叡智の断片
(集英社インターナショナル)
池澤夏樹

 池澤夏樹のいい読者ではない。小説は1冊も読んだことがない。でも、この本は面白そうだ。書名だけをみてそう思った。テーマを決め、有名な引用を解説して、それを一片のコラムに仕上げる。これを書いた当時、著者はフランスに住んでいる。こうした引用はヨーロッパ圏の得意とするところで素材はいくらでもあった、という。テーマ設定そのものにセンスが問われるが、政治家、リッチマン、映画に科学者、結婚と旅、愛国心や悪口、死、酒飲み、言葉、作家、恋、老人、嘘に王様と、この辺は編集者的感覚にも優れている。最初の引用はゴルバチョフだ。「ミッテランには百人の愛人がいる。一人がエイズだが誰かわからない。ブッシュには百人のボディガードがいる。一人がテロリストだが、だれかわからない。私には百人の経済顧問がいて、その一人が優秀なのだが、それが誰かわからない」という有名なもの。著者は本書のあとがきで、けっきょく本書で一番の引用句はこのゴルバチョフだと述懐している。それにしても膨大な世界からの引用が開陳されている。どうやら「引用句辞典」なるものが世の中には何冊も出版されていて、それをネタ本にしているようだ。今度それも読んでみたいなあ。

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